第56話 美人局のブランシュ
数百年に一度発動さらるクエスト。それは、第6ダンジョンに居た黒子天使達は、誰も経験したことがない。大学時代の歴史の教科書に出てきた程度の知識しかなく、何が起こるかはその時の熾天使次第。
最近起こったクエストでは、世界のシステムが大きく変わったとされている。今は当たり前となっているダンジョンを中心として暮らす人々の生活や、ギルドと呼ばれる国や種族を越えたシステムが構築されたのも、このクエストが発生したからとされている。
クエストが発動されれば何が起こり、それは大きな変化をもたらす。ただ、それを告げるのは熾天使筆頭のラーミウから送られてきた短いメールのみの。
「先輩っ、どうします?」
「どうするって、ダーマさんに聞いてみるしかないだろ。幾ら考えたって、俺達じゃ答えは出ないさ」
「おおっ、ブランシュか。元気にしておるかの?」
「お久しぶりです、ダーマ先生。先生も、お元気そうで何よりです」
モニターに映るロマンスグレーの黒子天使ダーマは、機嫌が良さそうにしている。この第13ダンジョンのダンジョンマスターはブランシュであり、俺はただのダンジョンの管理責任者でしかなく、一歩も二歩も後ろに下がり存在感を消している。
ガルゴイユがドロップする竜鱗は、第3ダンジョンにも益をもたらしている。それでも、大学時代の恩師と問題児だった俺には、未だ苦手意識が強く残っている。
「この前の、チョコチップクッキーとやらは美味しかったぞ」
「そうですか、お口に合ったのなら嬉しいですわ」
「ウチのミゼルも感心しておったぞ。また送ってくれるかな」
ブランシュの作る洋菓子は、ダンジョン間の交流を円滑に進める為に役立っている。ダーマが、“ウチのミゼル”と呼ぶのは第3ダンジョンの熾天使。またダーマが名を呼び捨てにする程、ダーマとミゼルの関係性が良好なことも窺える。
「それで、どんな用件かな?クエストについて聞きたいのかな?」
「流石は、先生。全てお見通しですね」
「そこの、後ろに突っ立てるヤツもブランシュ任せにしないで、まずお前さんが連絡してくるべき話だろが」
存在を可能な限り消してみた努力は報われずに、俺は苦笑するしかない。
「手厳しいですね。出来の悪い愛弟子が、先生の機嫌を損ねないように精一杯の努力をしただけじゃないですか」
「手を抜くことの努力の、どこが精一杯だ。それに“愛”がつくのはブランシュだけだ。お前達は、何時になっても全く変わらっとらん」
複数形で呼ばれたことで、部屋から脱出するマリクの姿が見えるが、ロックオンされている俺にはどうしようもない。後は、この気まずい状況をさっさと終わらせるのが最善の方法で、さっさと本題を切り出す。
「ダーマさん、クエストで何が起こるんですか?」
天使達に通達された内容は、クエストを達成した者への報酬として、最下層まで到達したダンジョンの利権を与えるとある。それが天啓となれば、もちろん伝え方も内容は変わってくる。
ラーミウが何を考え、何を企んでいるか?それが、どのような天啓となり伝えられるのか。ダーマは古参の黒子天使でもあり、前回のクエストのこともラーミウのことも知り尽くしている。
「半年間で、ダンジョンを育てることだ。黒子天使が出来ることは、最下層までに辿り着かせないこと。それ以上でも、それ以下でもない」
「そんなことに、何の意味が?」
ダンジョンは多くのものをもたらす。ダンジョンから排出される貴重な鉱石や、ドロップアイテムは莫大な富をもたらすだろう。
しかし、上位ダンジョンの最下層に到達した者は、まだ誰もいない。そうなれば、達成可能な下位ダンジョンに注目が集まるのは分かる。でも、新しく出来たばかりの階層の浅いダンジョンに旨味なく、幾ら搾取しようとしても得られるものは少ない。
「第13ダンジョンの最下層に眠るのは、硬貨に描かれた熾天使。ダンジョンのもの全てを好きなように出来るのだぞ」
第13ダンジョンの最下層に眠る、硬貨に描かれた絶世の美女の熾天使。美人局的な考え方ではあるが、間違いなく冒険者は殺到するだろう。
「それだけは、絶対に許さない」
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