第55話 クエストの発動

 次々とダンジョンに転移してくる、ゴセキの竜種達。ザキーサを頂点として君臨していたが、ザキーサが第13ダンジョンに移ったことで、配下の竜種達がゴセキの山を治めていた。

 配下といっても上位の竜種で、伝説となるような強者ばかり。それが、次々とダンジョンへと避難してくるのだから、ゴセキの山で緊急事態が起こったのは間違いない。


「マリク、ハーピー達をダンジョンの中に避難させるぞ」


「第6でいいっすね。でも、後は知らないっすよ」


「そこしかないだろ。今は避難が最優先だ」


 そして、魔物達と一緒転移したのは、第6ダンジョンの31階層。


「えっ、なんでっ、どうして。なんで、こんなところに」


 ゴセキ山の主である竜種達が勢揃いしている光景に、リンは動揺している。俺達と竜種を何度も見返すと、そろりそろりと後ろに下がり出す。


「あなた達って何者なの?もしかして、私達を……」


 そこまで言って、リンは気を失ってしまう。リンにはどうしようもなかったことだが、ハーピー達が執拗なまでに攻撃していた相手が、竜種とズブズブの関係にあると知っていれば、もっと対応は変わっていたに違いない。


「ほらっ、いった通りじゃないっすか」


「後は、ローゼに任せよう。黒子天使よりは、ローゼの方が扱いは得意だろ。きっと上手くやってくれるはず」


 魔物のことは魔物が一番分かるという俺の強引な理論で、ローゼに引き取られてゆくハーピー達。


「レヴィン、遅いぞ」


 そして、いち早くここに居たザキーサが声を掛けてくる。いつもの飄々とした顔とは違い、眉間に皺が寄り顔は珍しく険しい。ダンジョンとゴセキの山を結ぶ転移の魔法陣も完全に破壊され、それはゴセキの山からの完全撤退を意味している。


「ザキさん、何があった?」


「ゴセキの山に天使が押しかけてきとる」


「エンジェル・ナイツのことだろ?」


「だけではない。見てみるがいい」


 ザキーサの前に置かれた水晶の中には、ボロボロになったエンジェル・ナイツがいる。鎧は返り血に染まっているが、ひび割れや欠けて破損した箇所が幾つもある。傷口には黒い靄がかかり、それは悪しき者と戦った証拠でもある。


「堕天使が誕生したのは想像しとったが、想像以上の事態が起こっとる」


 水晶の中のボロボロで満身創痍のエンジェル・ナイツが、急に立ち上がると跪き出す。少し遅れて。白い法衣を纏った黒子天使達と、それに続いてラーミウが姿を現す。

 その黒子天使達が輪となりラーミウを囲むと、ラーミウは両手を天に翳せば、暗い竜達の棲みかだった洞穴は光に満たされ、一瞬にして洞穴に神殿を築きあげてしまう。

 さらには玉座や、神殿を彩る彫刻がつくられてゆくが、それはザキーサと比べても勝るとも劣らない。


「これが、熾天使筆頭ラーミウの、第1ダンジョンの力なのか」


「ふんっ、こんな物まだまだ未熟のひよっ子よ。まだ、余の足元に及ばん」


 そのザキーサの言葉に反応したのか、水晶の中のラーミウがこちらを見て手を翳すと、水晶の中の映像は消えてしまう。

 ラーミウは、俺達に覗かれていることに気付いた。もしくは気付いていながら、敢えて能力の一部を見せた。俺達が地道に築き上げてきた能力やスキル。その想像を遥かに上回る力を、まざまざと見せつけられた気がする。


「何を弱気になっとる。問題はこれからじゃぞ。クエストが発動されるのじゃからな」


「クエストって……」


 クエストとは、何百年に一度発動される天界からの緊急事態宣言。2つのダンジョンのブラックアウトでは発動されなかったが、堕天使の誕生によって緊急事態と認定された。その目的は、天界に反抗する勢力の討伐と、魔力を消費する者の削減。


 そしてザキーサの予想通りに、一通のメールが届く。


【重要通知:クエストの発動】

 タカオのダンジョンに新しく誕生した堕天使フジーコの討伐クエストは発動する。

 討伐達成者には、熾天使の称号とともに、最下層まで到達したダンジョンの利権を与える。


 各ダンジョン関係者に於いては、様々な事態に備えて準備されたし。発動までの猶予期間は、半年とする。

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