第54話 ハーピーの災厄

「一体、タカオで何があったんだ?」


「鬼の天使と悪魔の天使がウチらを。アイツらのことは、絶対に忘れない」


 ハーピーが涙ながらに、ゴセキの山とタカオの岩峰で起こったことを語り始める。


 ヒケンの森からゴセキの山へと棲みかを移したハーピー達の前に現れたのは、白く輝く鎧を纏ったエンジェル・ナイツ。ゴセキの山に辿り着いた時には、すでにエンジェル・ナイツとゴセキの魔物との戦闘は始まっていた。

 ヒケンの森と比べると、ゴセキの山には強い魔物が集まっている。それでも、エンジェル・ナイツは魔物を圧倒していた。その強さは、黒子天使達と比べても明らかにレベルが違い、戦闘という名の虐殺を楽しんでいた。手に持つ武器は鎚や棍棒を主体とした武器で、魔物達の骨が砕け肉が弾け飛ぶ感触を楽しんでいる。


 そして、ゴセキの山に着いたばかりのハーピーがターゲットにされる。群れを成し行動しているハーピーは数が多く、またハーピー達の悲鳴はエンジェル・ナイツの琴線に触れた。

 一撃で殺せるはずなのに、じっくりと甚振り、悲鳴あげさせる。それは、ハーピー達が黒子天使に見せる残忍さよりも遥かに上回っていた。


 そして、ゴセキに着いたばかりのハーピー達は逃げるしかなかった。ゴセキの山頂には上位種の魔物が多く、迂闊に動き回れば竜種の縄張りに入ってしまう。

 来た道を引き返すしか選択しは無かったが、エンジェル・ナイツの追撃でタカオの岩峰に辿り着く。


 不気味な霧が覆う知らない地ではあったが、霧の中に紛れればエンジェル・ナイツをやり過ごせるかもしれない。そんな期待はあったが、それも一瞬で崩れ去る。


 黒い霧の中から出てきた、大きな黒い翼を持つ女の天使。体の所々が変形し、肩や足は大きく膨れ上がり、服は何も身につけていない。その黒翼の天使が、襲いかかってくると、次々とハーピー達を喰らい始めた。


 後ろから迫るエンジェル・ナイツ、前には黒翼の天使。何とか逃げ出すことが出来たのは、エンジェル・ナイツと黒翼の天使が遭遇し、戦闘が始まったから。


「族長はどうした。他のハーピー達は、まだ戦っているのか?」


「族長は、ゴセキで殺されてる。他の仲間の皆も死んだ。逃げてきたのは、この森で共存を望む者達だけだ。全ての者が敵対したい訳じゃないんだ」


 ハーピー達の敵対意識は、劣等感からくるものだった。似たような翼を持つ者なのに、片や天使として敬われ、片や下位の魔物と蔑まれる。

 だから、執拗なまでに黒子天使を狙った。ハーピーの力を世に知らしめる為に! だが、幾ら黒子天使を殺しても、ハーピーの価値は変わらなかった。森の中で騒ぐ、獰猛で下等な魔物としての評判は悪くなる。

 そう、黒子天使の姿が地上の人々から見えていないことをハーピー達は知らなかった。


「何となくだが、状況は分かった。まずは、俺の名はレヴィン。ダンジョンの管理責任者だと思ってくれてイイ。まず、君の名前を教えてくれるかな?」


「先代族長の娘、リン。今の族長とは、何の繋がりもない。共存を望む者も居ることを知って欲しいしいんだ。今更なのは分かっている」


「それは気にしていない。でもな、ダンジョンの中であれば冒険者との戦闘もある。それに黒子天使の指示にも従ってもらう必要もある。それでも、大丈夫なのか?」


 逃げてきたハーピー達の多くは、女や子供が多い。だが、ダンジョンで暮らす以上は仕事はしてもらう必要がある。


「うん、覚悟は出来ている」


「黒翼の天使は堕天使かもしれない。近い内に、堕天使が率い魔物がこの森に押し寄せてくる可能性もある。ダンジョンの中だと、逃げることは出来ないぞ」


 ハーピーのリンは、黙って力強く頷く。依然として、タカオの岩峰にかかる霧は黒く禍々しい。黒翼の天使は、姿形は変わってしまったが、顔の特徴からして間違いなくフジーコ。


「報告します。ゴセキの山の魔物が、次々と第6ダンジョンへ転移してきます。数は不明、転移魔法の発動は継続中。終わりが見えません」

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