第57話 ダンジョンの防衛機能
ラーミウからのクエスト予告通知から1ヶ月が経過すし、第6ダンジョン最下層の会議室に届けられたのは、第13ダンジョンの月間実績報告書。俗に言う月報によって、これからのダンジョンの方針が決定される。
マリクやカシューだけじゃなく、ザキーサやミショウといった魔物も月報の数字を待ち構えている。まず、真っ先に飛んできて、数字を覗き込んできたのはマリク。
「先輩、やっぱり第13ダンジョンに来る冒険者の数が増えてますね」
月報ではヒケンの森に流入し滞在する冒険者も、ダンジョンに入る冒険者の数も右肩上がりに増えている。
「どっちも2割増しってところか。でも、ダンジョン内の住人の数は、あまり変わっていないな」
最初からヒケンの森に住み出した人々は、カーリーに導かれてダンジョン内へ居を移している。しかし、新しく外部から流入してきた冒険者達は、ダンジョン攻略以外では中に入ろうとしない。だからこそ、裏で暗躍する熾天使や黒子天使の存在を匂わせる。
「ガルゴイユの戦闘回数も、増えていますが微増っすね。新規さんの殆どは、ダンジョンの最下層を目指してるっすよ」
「ガルゴイユの戦闘回数も、どうせ裏でダーマさんが糸を引いているんだ」
「第13ダンジョンを成長させる為っすか。やっぱ、そこは俺達は教え子なんすかね?」
「そんな訳ないだろ。ダーマさんの教え子なんて腐る程いるんだ。このダンジョンが機能している内に、少しでも竜鱗の在庫を確保しておきたい。大方、そんなところだろ」
下位のダンジョンのすべき事は、少しでもダンジョン成長させる事と、他のダンジョンを攻略させるように仕向ける事。
しかし、まだ熾天使代理のブランシュには、聖女や勇者の任命権はなく、人々を煽動するような天啓を与えることが出来ない。他のダンジョンと比べても選択肢は少なく、圧倒的に不利な状況なのは皆が分かっている。
「カーリーじゃ、ダメなんすか?ステータスは、もう立派な第13ダンジョンの聖女っすよ」
「残念だけどカーリーじゃダメなんだ。聖女としての能力が備わっていても、今必要なのは公式な肩書き」
「熾天使から任命させたって事実が重要ってわけですか」
「そういうルールなんだから仕方がないさ。ダンジョンには人が集まるっているし、ダンジョンの成長も早くなっていると前向きに考えるしかない」
現在の第13ダンジョンは全8階層まで成長している。ただ、ダンジョンの防衛機能として有効なのは7階層から。
3階層まではヒケンの森の住人の居住区画となり、4・5階層は旧ダンジョンの廃棄物を排出させている。そして、6階層のガルゴイユの区画は、避けて通れば全く問題ない。
「どうだ、カシュー。7階層の様子は?」
「足止め出来るのは、駆け出しの冒険者くらいだ。それは分かってるだろ」
カシューの機嫌は悪い。元々、魔物の強さを弱く設定している。それを急には変更出来ないし、全8階層のダンジョンにみあった強さを考慮し、消費魔力量を抑える必要がある。
「残るはマリアナの8階層か」
ジャック・オー・ランタンの死神コスプレをさせられた後のマリアナは、しばらく機嫌が悪く話せる雰囲気ではなかった。しかし、今はカシューとは対照的で機嫌がイイ。
「ダンジョンのことに関しては、私に一日の長があるのよ。黒子天使といっても、私からしたら新参者ばかりなのよ」
マリアナのダンジョンは、ヒケンの森の精霊のトレントやドライアドが避難した階層になっている。この階層は、広大な1つの空間で、壁はダンジョンの外郭しかない。
しかし、8階層はトレントやドライアドが枝葉を伸ばし、複雑な迷路をつくっている。さらには、迷路も時間と共に形を変えてしまう。1度として同じ迷路だったことはなく、冒険者達はマッピングすら出来ていない。さらに、転移トラップを仕掛けているのだから、ここで足止めされている。
「まだ暫くは大丈夫だけど、その内に精霊達に気付いて攻撃してくる馬鹿が出てくるわ」
「適度に、ゴールさせてやる必要があるってことか。どれくらい持たせれる」
「そうね、後1ヶ月ってところかしら。それまでには、次の階層が出来てるでしょ」
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