第15話 ラーミウの陰謀

『レヴィン司令官、報告します。こちらに向かってくる黒子天使あり、数は多数、数は多数。魔物達も迫っています』


「大体でイイ。もっと具体的に数を報告しろ」


『恐らく、黒子天使の数は5千』


「へっ、5千って?先輩、ヤバいっすよ」


「第6ダンジョンだけの黒子天使じゃないんだろ」


 第6ダンジョンの1つの階層は、約百人の黒子天使で維持管理されている。俺の管轄だった下層の黒子天使の約3千人は、全てダンジョン内に待避を済ませている。

 だから第6ダンジョンの残存する黒子天使は、上層の約3千人。それも全てが生存していての話で、5千人には遠く及ばない。


「ブランシュ、“残存”の黒子天使なんだよな」


「ええ、特に指定はされていないわ」


 そうなれば、まず考えられるのは第7ダンジョンの黒子天使。黒子天使の仕事は、ダンジョン内の仕事だけでなく、地上の仕事と多岐にわたる。

 ダンジョン内に出現させる魔物の捕獲やスカウトに、ドロップアイテムの確保など仕事は多岐にわたり、俺の場合は約5%程の黒子天使は地上で活動させていた。地竜ミショウや亡者の女剣士ローゼも、俺が第6ダンジョンへとスカウトしてきた魔物になる。

 強い魔物がいることも、ダンジョンのステータスの一つになる。


 ただ第7ダンジョンの中にいた黒子天使は、ほとんどがダンジョンの崩壊に巻き込まれている。


「3百、多くて5百ってところか」


「でも、5千っすよ。もっと多いんじゃないっすか?」


「第7ダンジョンで、2千人も生き残ってると思うか?」


「じゃあ、どこにそんなに黒子がいるんすか?」


「野良黒子だろ」


「げっ、ヤバいっすよ。それマジ、キツイっすわ」


 残るのは野良の黒子天使達。長い歴史の中で、崩壊したダンジョンは8つ。実力のある黒子天使は、次の引き受け先が見つかるが、実力がなく行き場を失った黒子天使は多い。


「でも、野良黒子なら情報を生業にしている者も多いだろ」


 ダンジョン内の情報は、どんなに些細なことであっても機密事項で、他のダンジョンに漏らしてはならない。

 だが地上での活動は、全てを隠すことは出来ない。地上でどんな魔物やアイテムを集めているかで、ダンジョンの特性を知ることが出来る。


「でもっすよ、やっと第6ダンジョンの黒子の統制が取れるようになったのに、また異分子が混ざるんすよ」


「でも、やるしかない。ブンシュが、ラーミウの命令を拒否することは出来ないんだ」


 珍しくマリクは不満げで、ブランシュの名前を出しても抵抗の意思を見せてくる。


「でも、話せば分かるっしょ。無理なものは無理っすよ」


 しかし、ブランシュは首を横に振り、マリクの意見を否定する。


「熾天使筆頭の命令は絶対なの。命令を履行しなければ、堕天させられる。結果が出なくても、もちろん堕天させられるわ。熾天使となれば、黙って命令を履行し、結果を出すしか方法はないの」


 堕天された熾天使は、頭上の輪を剥奪され、純白の翼は黒く染められる。それは失格者としての烙印で、悪の象徴として地上へと落とされれば、2度と天界に戻ることは許されない。


 地上で待ち受ける未来も最悪で、魔物からだけでなく、地上の人々からも命を狙われる。悪の象徴である、堕天使には何をしても構わない。

 命を奪い、天使としての生命力を得るも良い。永遠の命を持つ奴隷としても良い。全ては、捕らえたものの思いのままに出来る。


「そんなっ、ブランシュさんはまだ代理でしょ。先輩も、他に方法はないんすかっ!」


「ラーミウにとっては、最初から計画通りなんだよ」


 ブランシュが命令通りに実行すれば、過剰な黒子天使を抱えた第13ダンジョンは間違いなくブラックアウトを起こす。そうなれば、余剰な黒子天使達を一斉に処分出来る。残存する黒子天使は、神々にとっては無駄に魔力を喰らう不要物でしかない。

 もし、ブランシュが命令に従わなければ、ブランシュを堕天使とする。ブランシュが堕天使となれば、それ目当てに人々が殺到する。抵抗すればするほど、ダンジョンは効率良く成長する。


 どちらに転んでも、ラーミウは痛くも痒くもない。それが、熾天使のやり方である。


「じゃあ、どうするんすか?」


「大掃除に決まってるだろ!」

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