第16話 黒子天使達の聖域

「大掃除に決まってるだろ!」


「へっ、どこのっすか?」


「……今の状況で、第13ダンジョン以外にどこがあるんだよ。それが終われば、次は第6ダンジョン! やるべき仕事は沢山あるんだ」


 まずは押し寄せてくる、5千の黒子天使達を第13ダンジョンの中に入れなければならない。それが出来なければ、俺達が何かを隠していると疑われる。


「最低でも、第13ダンジョンの中に3千は入れろ。まずは、黒子天使の部屋からだ」


 廃ダンジョンから復活したことで、ダンジョンの他の空間も見えてくる。それは冒険者達が居る空間とは別の、黒子天使達や魔物達が待機している空間。


「先輩、本気で言ってますか?聖域っすよ、聖域。先人達のリスペクトは忘れちゃマズいっすよ」


 それには、マリクだけじゃなくカシューも後退りしている。


「やるといったら、やるんだ。ここが終わったら、第6ダンジョン。見られたくないものがあるなら、少しでも早くここを終わらせることだな」


 黒子天使の、仕事の中でも一番面倒臭いのがダンジョン清掃。ダンジョンの壁は破壊することが出来ないが、中に置かれた備品や調度品といったアイテムは破壊される。

 何故、備品や調度品を置くかといえば、力を誇示させることで冒険者に自信を持たせる為。どんなに鋭い斬撃や、強大な魔法を繰り出しても、ダンジョンの壁は傷一つ付かない。もちろん、魔物達も黒子天使によって守られ、倒されたことになれば転移魔法で姿を消す。だから、ダンジョン内では破壊される物がなければ、冒険者達は実力を測ることが出来ない。


 しかし、その後片付けをしているのも黒子天使。壊れた物が、勝手にダンジョンから消える訳もなく、大量の廃棄物が未処理のまま残され、黒子天使達の居住空間を圧迫している。


 見えてきた、ダンジョンの裏の顔。数万年の時を経えも尚、大量の廃棄物が山積みにされ、当時のままの姿を残している。


「いつの時代のダンジョンも一緒っすよね」


「やらかしたダンジョンだからな。もっと酷いかもしれん」


「さあ、すべき事が決まっわ。皆で協力して、さっさと終わらせましょう」


 ここで、強力なリーダーシップを発揮してくれるのがブランシュ。どこから持ってきたか分からないが、エプロン姿で頭には三角巾。

 第6ダンジョンのダンジョンマスターだったフジーコには無い家庭的な姿に、黒子天使達は完全にノックアウトされている。ブランシュはふわりと宙に浮かび上がると、采配代わりのハタキを振り次々と指示を飛ばす。


「ブランシュ、なるべく分別してくれ。少しでも、使えそうなものは再利用する」


 そして、大量にあるのは廃棄物だけじゃない。その奥から出てきたのは、無造作に山積みにされた冒険者達の遺体。流石に冒険者が持っていた魔石は回収されているだろうが、武器や防具などは朽ちずに形を残しているものもある。


「一から作るよりはコストはかからないっすけど、ダンジョンの低層なら大したものはなっすよ」


「他にもあるだろ。大量に出てくるものが」


「コイツっすか?」


 そう言って、マリクが摘まみあげたのは硬貨。金貨などは少ないが、大量の硬貨が出てくる。


「こいつも、再利用するんすか?でも、大した金属じゃないっすよ」


「違う、そのままドロップアイテムにするんだ」


 ダンジョンの魔物を倒せば、魔石やアイテムをドロップする。それを換金することで、新しい装備を揃え、さらにダンジョンの下層を目指す。

 それが、ダンジョンの循環システム。換金されないようなレアアイテムは、ほとんどがトップ4のダンジョンから排出され、特に新設のダンジョンにレアアイテムは必要ない。


「直接、金をばら撒くんっすか?そんな事、やって大丈夫っすか。今までに、聞いたことがないっすよ」


「廃ダンジョンなんだ。過去の遺物がドロップしてもおかしくないだろ。先にケチったのは、あっちなんだ。俺達は最大限に、この状況を利用する。それに、第6ダンジョンにも大量にあるんだろ」


「あるには、あるっすよ」


「気乗りしないなら、魔石集めに行ってきてもイイぞ。しばらく休み返上になるがな!」

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