第14話 魔力の接収

「おい、マリク。第13ダンジョンに戻って、魔力モニタを設置してこい」


「何で俺なんすか?魔力モニタの設置なんて、誰でもイイっすよ。カシューだって出来る仕事じゃないっすか」


 マリクの視線の先には、黒服・サングラス姿のカシューがブランシュの横に張り付いている。恐らくは、ボディガードをしているとアピールしているのだろう。


「マリク、何を言う。私には、ブランシュ様をお守りするという崇高な使命があるのだ。貴様には出来ん仕事なのだぞ!」


「オレは、ブランシュさんに第6ダンジョンを案内する約束をしてるんすよ。オレだって先輩にしごかれてるんすから、ブランシュさんの警護くらい出来るってもんすよ」


「ほうっ、マリク。貴様、抜け駆けしたな」


 カシューは腰の刀を抜くと、床に1本の線を引く。


「ここより、ブランシュ様に近づいてみろ。拙者の刀の錆にしてくれるわ!」


「カシュー、お前にも別の仕事があるんだ。それにな、残念だけどお前らの上司は“俺”なんだよ。2人とも、黒子天使だろが。何なら、第13ダンジョン専任にも出来るんだぞ!」


 情けない目で俺を見てくる2人だが、そこにブランシュが声を掛けてくる。


「カシューさんに、マリクさんですね。大切な仕事なんです。2人とも、宜しくお願いしますね」


「「お任せください」」




 俺のパソコンのモニター画面は横に2分割され、第6ダンジョンと第13ダンジョンの獲得魔力・魔力消費量が映し出されている。


 第6ダンジョンの安全は確認されているが、損傷がないことの確認だけであって、細かな確認はまだまだ時間がかかる。だから、ダンジョンの最下層にある司令官室でも、稼働させているのは俺のデスクの上にある1台のみ。


 ブランシュは俺の右肩に両手を置き、肩越しにモニターを覗き込んでくる。

 熾天使としての佇まいや言葉遣いは凛としているが、こんな所は学生時代と全く変わっておらず、幼馴染みのブランシュを感じさせる。


「近い、近すぎるぞ」

「穢れが移る」


 後ろからマリクとカシューの雑音が聞こえるが、一切相手にしない。


「やっぱりか」


「何がやっぱりなの?」


 第13ダンジョンに設置した魔力モニタから、情報が転送されてくる。魔法リボーン・ダンジョンで、ダンジョンとしての力を取り戻し、吸い上げる魔力量は大きい。


「ブランシュは、ダンジョン運用について何か聞いているのか?」


「ラーミウ様からは、崩壊したダンジョンの残存する黒子天使達を率いて、第13ダンジョンを統括せよとだけ。それ以上は、何も聞けないわ」


「そうか、もう魔力が接収されているんだ」


 新設されたダンジョンからは、軌道に乗るまで魔力の接収はされない。それが通例となっているが、第13ダンジョンからはキッチリと魔力が接収されている。

 まだ何もないダンジョンで、黒子天使も魔物達も全て第6ダンジョンへと移動している。それなのに、7割の魔力は消費しダンジョン内に残される魔力は3割。


「7公3民か。極悪だな、こんなので新設のダンジョンなんて運用出来ないだろ」


「でも、レヴィンなら出来るんでしょ?」


「何で、そう思うんだ?」


「だって、もっと切迫した事態なら、目つきが鋭くなるもん。こんな風にね!」


 ブランシュは、わざと右目だけを細めて、俺の顔真似をしてくる。俺がブランシュの癖を知っているように、ブランシュも俺の癖を知り尽くしている。

 俺の嘘は、何時もブランシュにバレる。自然と俺の右肩越しに顔を覗かせたのも、俺の右目を見るためなのかもしれない。


「ああ、逆に第6ダンジョン下層の魔力は接収されていないんだ」


 ダンジョン運営が軌道に乗れば、最大で7割の魔力が接収され、残りの3割の魔力でダンジョン運営が行なわれる。


 ダンジョン運営の魔力用途しては、主に3つがある。


■黒子天使や魔物の生命力源

■ダンジョンの空調や照明・パソコンなどの運用

■勇者への加護


 何もしなくても、第6ダンジョンの魔力の8割は消費されるはず。しかし、モニターに表示される魔力使用率は1割強。


「このダンジョンには、ラーミウも気付いていないんだ」

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