第13話 ブランシュのカリスマ
シーマが魔方陣に魔力を流すと、エメラルドグリーンの紋様が浮かび上がってくる。
「魔方陣に入れ、ここから避難するぞ!」
第6ダンジョンの下層に居た魔物達は、俺のことを良く知っている。第6ダンジョンから廃ダンジョンへの避難はスムーズに行なえた。
しかし、第6ダンジョンから避難してきたばかりで再び緊急避難するとなれば、動揺や反発は少なからず発生する。
「時間が無いんだ、俺を信用しろ!」
手当たり次第に魔物達を魔方陣に押し込む。カシューも、次々と魔方陣の中に魔物を放り込んでくれるが、やはり自発的に動いてくれなければ時間がかかる。
「皆さん、大丈夫です」
ブランシュが宙に舞い上がると声を上げる。魔物達が騒ぐ中でも、ブランシュの凛とした声は全ての者の耳に届き、頭上の輝く輪は目を引く。
一呼吸おいてブランシュが笑みを見せると、何故か皆の不安が打ち消される。
「私を見ていて!」
ブランシュが、急降下して魔方陣の中に飛び込み姿を消すが、再び魔方陣の中から現れてみせる。
「ほら、大丈夫よ。私が先に行くから、皆もついてきて欲しいの」
すると魔物達は落ち着きを取り戻し、素直にブランシュの言うことを聞き行動を始める。
「先輩、どうなってるんすか?人望とか、普段の素行の問題っすかね?」
「うるさいっ! お前は先に第6ダンジョンへ行って仕事してろ」
「えっ、第6ダンジョンなんっすか?」
「この転移陣は、第6ダンジョンにしか繋がってないだろが」
思わずマリクを蹴飛ばしてしまうが、マリクは待ってましたとばかりにニヤリと笑う。
「ブランシュさんに言いつけてやりますからね!」
俺の扱いを非難するように見えて、ブランシュに話しかける機会を狙っている狡いやり方。しかし、ブランシュは何もせずに、マリクや魔物達を籠絡している。
「俺には出来ない芸当だな。まあ、今以上にこき使われても文句は言わんだろう」
第6ダンジョンがブラックアウトした時よりも、切迫してはいない。ただ、少し想定外であっただけで、最悪は回避出来る。そして、俺は自ら転移魔法を使い、ミショウや大型の魔物を第6ダンジョンに転移させる。
全ての魔物達の第6ダンジョンへの転移が終わると同時に、各階層の被害状況の報告が入ってくる。
『55階層、異常無し』
『47階層、異常無し』
『32階層、異常無し』
「下層は大丈夫そうだな。これなら大丈夫だろ」
やっと魔物達の待避が終わって一息吐きたいところだが、目の前には鬼の形相のミショウとローゼがいる。
「レヴィン、ワシ等にも分かるように説明してもらおうかの。スタンドプレーが過ぎるぞ」
「そうだ、妾も黒子天使は信用しておらん。ましてや、女を泣かせるような奴には従うつもりはない」
「ちょっと待ってくれ。俺だって巻き込まれたんだぞ」
「じゃあ、この第6ダンジョンはどうなっておる。何故、ここが無事なんだ」
ブラックアウトを起こして、災厄が訪れたのはダンジョンは26階層のモンスター部屋。そこを中心として、破壊されたのは21階層から30階層の10階層のみ。
俺が管轄していた、31階層から60階層は無傷で残されていた。しかし何の確証もない、ただの勘なのだから、それを行動指針には出来ない。
「それはな……。俺だって、全てが分かっているわけじゃないんだ」
ヒケンの森の廃ダンジョンは、3階層までは形として残されていた。ブラックアウトが起こったからといって、全てが破壊されるわけではない。
だから第6ダンジョンには、少しだけ仕掛けをしておいた。バッテリーで稼働する俺のパソコンは、魔力予備率を調べる為だけではない。その役目を終えれば、転移の魔方陣へと魔力を流す。
もし、ダンジョンの最下層が無事なのであれば、再び第6ダンジョンへと戻れるかもしれない。
「天界でも、第6ダンジョンは21階層以降は消滅したと思っている。ここの存在は、誰も知らないんだ」
「ブランシュ様も知らんのか?」
「ブランシュ……様なのか?」
「何がおかしい。我らの主となるダンジョンマスターはブランシュ様なのだろ」
振り返れば、司令官のデスクに座るブランシュがいる。横には、黒子天使のカシューが睨みをきかせ、聖女っぽい娘が珈琲とお茶菓子を用意している。
「司令官は俺だぞ」
「主はブランシュ様だろ!」
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