第12話 第13ダンジョンの誕生
強制的に天界から転移させられ、見えてきた光景はヒケンの森の廃ダンジョン。立入禁止区域にあるが、それでも侵入者を考慮して入口は巧妙に隠されている。
廃ダンジョンの入口は幾つかあり、ラーミウが俺とブランシュを転移させた先は、俺たちが使っている入口の真正面。
無事天界から戻ってこられたと安堵している暇はなさそうで、ダンジョンの入口には目を見開いて俺とブランシュを凝視しているマリクがいる。
「マリク、先ずは説明を聞け」
「あー、先輩がハロ持ち天使を泣かせてる~っ!」
「違うぞ、マリク。これは、違うんだ!」
しかし、俺に抱きついて泣いている天使に、戸惑う俺という構図。“違う”と繰り返せば繰り返すほどに、俺の説得力は無くなる。
「天界に連れていかれたと思って心配してたのに、まさか悪さを働いてるなんて信じられな~い」
マリクが騒ぎだすと、ダンジョンの中から地竜ミショウと亡者の女剣士ローゼも出てくる。
「何だと、この非常時に女遊びじゃと!」
「やっぱり、黒子天使はどれもこれも信用ならんゲスばかり」
「ちょっと待て、これは俺の上司だぞ。新しく新設される、第13ダンジョンを治める熾天使代理のブランシュ。俺たちの上司になる熾天使だ。そうだよな、ブランシュ。早く説明してやってくれ」
「そんな見え透いた嘘をつくとは、見損ないましたぞ」
普段は寡黙な黒子天使のカシューまでが、俺に非難の声を上げてくる。立場は違えど、俺とブランシュが並べば、皆ブランシュに味方をする。
「そうだ、ブランシュ、早くダンジョンを!ダンジョンマスターであることを、証明するんだ」
ダンジョンから黒子天使や魔物達が出てきたことで、ブランシュは少し冷静さを取り戻す。幼馴染みのブランシュから、今は凛とした熾天使の顔付きへと変わっている。
ダンジョンの入口に手を翳し、魔方陣を指で描きながら詠唱を行うと、騒がしかった黒子天使や魔物達もその姿に見惚れている。
「リボーン・ダンジョン……。えっ、そんなはずは?」
「どうした、ブランシュ?」
「ダンジョンから魔力が感じられません」
魔法リボーン・ダンジョンは、地下遺跡となってしまったダンジョンに再び活力を与え、ダンジョンとして甦らせる魔法。ダンジョン蘇生の魔法使えることこそが、ダンジョンマスターの証明になる。
「ブランシュ、第13ダンジョンは何階層になるんだ?」
「下の2階層は瓦礫に埋もれていますが、ダンジョンの規模は5階層です」
通常のダンジョン創造では、魔法クリエイト・ダンジョンを使い、10階層のダンジョンが造られる。
だが、第6ダンジョンの大半と第7ダンジョンが壊滅したばかりで、魔力を大きく消費するクリエイト・ダンジョンは使えない。
だから今は魔力消費を抑える為に、廃ダンジョンを再生する魔法リボーン・ダンジョンを使った。そして、それはまだ3対6枚ではなく2対4枚の翼のブランシュでも行使出来る魔法になる。
「そうか、魔物の数が多すぎるんだ!」
慌ててダンジョンの中に入れば、中には第6ダンジョンから転移してきた魔物で埋め尽くされている。
「レヴィン、これは……」
ブランシュは、廃ダンジョンの中に第6ダンジョン下層の魔物全てが潜んでいる光景に絶句している。
「第6ダンジョン下層の魔物達だ。全て俺の指示でここに非難させた」
「26階層のモンスター部屋の魔物も居ますよ、先輩。大丈夫っすか?」
「ダメに決まってるだろ。ダンジョンの吸い上げる魔力に対して、魔物の数が多すぎるんだ」
「それって、ダンジョンが出来てすぐにブラックアウトするってことっすか?」
「みんな、魔力の吸収を抑えろ。安心しろ、直ぐにはブラックアウトしない」
「直ぐじゃなかったら、どうなるんすか?」
「最下層を目指す。黙って俺についてこい!」
時間の余裕はなく、有無を言わさずブランシュを抱きかかえる。ひしめく魔物達を飛び越えて、最短で魔方陣を目指し、後ろにはマリクとカシューが続く。目指す先は、第6ダンジョンから転移してきた魔方陣のある3階層。
「何してるんだ。遅すぎるぞ、レヴィン。魔方陣はまだ生きている」
そして、俺達を使えるのは黒子天使のシーマ。第6ダンジョン内の魔法や、マジックアイテムを統括する黒子天使。
「シーマ、直ぐに転移を始めてくれ」
「ホントに、人使いの荒い奴だ。後でしっかりと埋め合わせはしてもらうからな」
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