第5話 破滅の兆候

 各ダンジョンの魔力取得計画の数字の羅列。しかし、下の備考に書かれた定型でしかない文章が増えている。


■魔力取得計画は、1~15日までの実績により算出

■稼働率は95%として算出

■魔力予備率は5%を確保


 幾つかのお決まりの文章が続き、それは書かれているだけであって誰にも見られることのない文章でしかない。しかし、今回は最後に一文が付け加えられている。


■次月より第6・7ダンジョンは、勇者3人体制。第6ダンジョンの新勇者担当は、司令官補佐ワイーザ



「勇者3人体制って、フジーコもラーキも何考えてるんだ」


「でも、ワイーザの野郎が担当するなら、俺達は関係ないっすよね」


「3人の勇者が、同時にダンジョンに存在するんだぞ。同時に暴走すれば、魔力量が不足する」


 第1~4ダンジョンには3人以上の勇者がいるが、第5~12ダンジョンには勇者が2人と決まっている。単純にダンジョン規模の違いではあるが、第6ダンジョンでも勇者2人を同時に存在させることは難しい。

 それでも2人の勇者を擁しているのは、勇者の不在期間をつくらない為でしかない。黒子天使達によってサポートされるとはいえ、勇者は無敵の存在じゃない。精神が崩壊したり、不慮の事故で再起不能となる勇者の方が圧倒的に多いのだから。


「各階層、異常がないか報告しろ」


 そう言いながら、モニターの画面を切り替える。表示されるのは、31~60階層のダンジョンの様子。あくまでも副司令官である俺の権限は、全60階層あるダンジョンの下層となる30層のみ。


『31階層異常無し』

『38階層異常無し』

『42階層異常無し』


 次々と各階層の報告が届くが、異常を告げる報告はない。


「先輩、気にしすぎじゃないっすか?」


「3人目の勇者は、来月からの稼働だ。今月の計画に入っていない」


「ワイーザの野郎が、先走って勇者を稼働させるって言うんすか?」


 さらに俺は、モニターの画面を切り替える。映し出したのは、12のダンジョンの入り口を捉えた定点カメラの映像。


「こんな映像見て、何か分かるんすか?」


「良く見てみろ。映像が乱れてるだろ」


 12分割された画面の中でも、2つの映像だけにノイズが走り、時折大きく乱れる。


「第6ダンジョンと、第7ダンジョンっすか?」


「そうだ、魔力供給が不安定になっている証拠だ。もう、3人目の勇者が稼働している」


 第6ダンジョン司令官補佐のワイーザ。上層30の管理者であり、ラーキの子飼いの部下でもある。反発する俺とは違い、ワイーザはイエスマンで何でも言うことを聞かせれられる。

 だから、ラーキは司令官補佐という職務も権限も不明なポストをつくった。副司令官と司令官補佐、どちらが上で、どちらが下かの判別出来ない。指示系統も異なり、ラーキの直属の意味合いが強い役職。

 ただダンジョン下層の管理が、従来通りに俺であるから少し油断していが、まさか新しい勇者を立ててくるとは想像出来なかった。


「第6と第7ダンジョンのライバル争いか……。第7ダンジョンの方がマズそうだな」


「何が、マズいんすかっ?」


 さらに、モニターを映し出されている第6ダンジョンと第7ダンジョンの画像が大きく乱れる。しかし、今回は乱れたままで静止してしまう。


「ブラックアウトが起こるかもしれない」


 俺の言葉と同時に、部屋の中の冷房が止まる。そして次々に照明が消え、部屋の中は暗くなってゆく。残された灯りは非常灯と誘導灯だけだが、これには内部に魔力を蓄積してあるからで、間違いなく全ての魔力供給が停止されている。


『デマンド警報発令、デマンド警報発令! ダンジョン内での魔力消費が増大中。直ちに全ての業務、魔力消費を中止し、不測の事態に備えよ!繰り返す……』


 ダンジョン内に、緊急事態を告げる館内放送と警報が鳴り響く。しかし、これもダンジョン内の魔力消費でしかなく、館内放送の半ばで途切れてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る