第6話 ブラックアウト
全ての魔力が喪失した中でも、俺のデスクのパソコンだけは再起動を始める。このパソコンだけは、内蔵バッテリーがあり、貯めた魔力で動かせる。
本当は、最悪に備えて魔力を蓄積するべきだった。しかし、少しでも魔力を集めることが優先され、熾天使フジーコも、司令官ラーキもそれを許さなかった。
だから、分からないように集めた魔力は、パソコン一台を数時間だけ稼働させる程度でしかない。広大なダンジョン全てを一台のパソコンで管理することは不可能で、ただ1つの情報を得る為だけの措置でしかない。
再起動を始めたのは、その最小限のことを実行する為であり、再び灯りを取り戻したモニターは青一色で、他には何も表示されない。
「先輩、大丈夫なんすかっ?」
「こも状況が大丈夫だと思うか?そんな訳ないだろ」
そう言いながらも、キーボードを叩くとモニターに数字が浮かび上がってくる。
「ほら、やっぱり。いつも何かしらの準備をしてるじゃないっすか。これだって、助かるための方法なんすよね」
マリクが真っ青なモニター画面を指差すと、“2.9”と大きく数字が表示されている。
「そんな訳ないだろ。これも想定外だ」
俺は他のダンジョンの司令官達とは違い、かなりいい加減な性格だと思っている。最小限の労力で、最大限の結果を得たい。そして、出来るならば少しでも楽をしたいをモットーとしている。
その結果が、第6ダンジョンの副司令官という立場を招いてしまった。だから全てが、俺の思い通りになってはいない。楽したいだけだったのに、成果が出過ぎてしまった。そして、みんな厄介事は他人に押し付けたい。そんなことすら見えていなかったが、今ここで言っても始まらない。
「魔力予備率が3%を切った。いつダンジョンが崩壊してもおかしくない。こうならなければ緊急事態宣言を発令出来ないんだ」
数字が、ただのダンジョン崩壊のカウントダウンであることを告げると、マリクの表情が強ばる。顔色も変わったのかもしれないが、モニターの青い光が不気味に照らしている。
「どうやって、緊急事態宣言を発令するんすか?こんな状態じゃ、何も出来ないっすよ。もっと早くじゃないと、意味がないじゃないっすか」
事態の深刻さが分かったのか、いつも俺の指示待ちのマリクもこれからの行動を自分で考え始めている。
「それが、ダンジョンのルールなんだ。こればっかりは、俺じゃどうしようもない」
「でもそれだったら、俺達に死ねっていってるのと同じっすよ」
そんな話をしている間にも、数字は“2.8”と小さくなる。0になってしまうには、30分もかからないだろう。
「文明の利器に頼らなくたって出来るだろ」
魔力が絶たれ、通信機器は使えない。だが、方法がないわけではない。魔力は大地から溢れだす以外に、生命の鼓動からも生み出される。それに通信機器も、魔法を応用してつくったマジックアイテムでしかない。
「俺が念話魔法を使って、ダンジョンに緊急事態宣言を行う」
「でも、ダンジョンは広すぎっすよ。幾ら先輩でも、それは無茶でしょ」
「ああ、それでもやらないよりはマシだろ。間違いないのは、俺は魔力切れして動けなくなる。でも心配はしていない。ここにお前がいるしな」
「分かりましたよ。先輩の言うことは信用してます」
「ああ、後は任せたぞ」
右手の人指し指をこめかみに当てると、念話の魔法を発動する。俺が管理する下層の30階は大丈夫だが、上層の30階までは試したことがない。仮に上層まで念話魔法が届いたとしても、俺の指示に従うとは限らないが……。
「副司令官のレヴィンの名において通達する。総員退避せよ。全ての黒子天使に使い魔、魔物も全てだ。繰り返す、総員退避せよ。全ての黒子天使に使い魔、魔物も全てだ」
『55階層退避開始』
『42階層退避開始』
『36階層退避開始しますが、転移アイテムの使用許可求めます』
『魔物どもは、ワシに任せておけ!』
「全てのマジックアイテムの使用を許可する。繰り返す、総員退避せよ!」
そして全ての魔力を使い果たした俺は、意識を失ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます