第4話 魔力取得計画

 勇者タームが、無事に転移陣に辿り着き第6ダンジョンから脱出するが、俺達の仕事が終わりとはならない。

 俺宛に届いた一通の封筒。送り主は第6ダンジョン司令官であり、このダンジョンの黒子天使を率いるラーキの名が記され、宛名は副司令官であるの俺の名レヴィン。


 ここは、第6ダンジョンの最下層である司令官の執務室。しかし、ここにあるべき姿のラーキの姿はない。


 ラーキは第6ダンジョンのダンジョンマスターである熾天使フジーコの姪っ子であり、縁故関係で司令官にまで登り詰めた。殆どダンジョンに姿を見せることはなく、天界での出世争いにのみ没頭している。それは、熾天使フジーコの影響も色濃い。


 この世界にある12のダンジョン。毎年、ダンジョンの獲得した魔力に応じてランキングが発表され、その順位に応じてダンジョンの番号が与えられる。

 だが、ここ数千年と順位変動はなく、番号がそのみダンジョンの呼び名となっていた。しかし、最近になってその順位に変化が訪れた。


 フジーコとミターケという2人の熾天使。11番目と12番目だったダンジョンを、第6と第7ダンジョンまでに押し上げた。




「先輩、来月の計画はどうなってるんすか?」


「気になるのは分かるが、期待はしない方がイイぞ」


 俺に気安く声を掛けてくるのは、大学時代の後輩でもあり、俺の部下でもあるマリク。毎月20日に翌月のダンジョン計画が決められ、それが各ダンジョンへと配布される。

 今日は21日だから、俺のことろに届くのは来月の計画で間違いない。いや、ラーキからの連絡は、来月の計画しかこない。


 封筒を開けてみれば、中には1枚の紙が入っている。最初に見えてくるのは、熾天使フジーコと司令官ラーキの捺印。そして、後に続くのはダンジョン名と数字の羅列で、紙の大半は白紙に近い。この世界にある12のダンジョンの魔力取得計画の数字だけが記されている。


 このちっぽけな紙切れだけで、明日からの黒子天使の生活が大きく変わってしまう。俺が眺める紙切れを、後ろからマリクが覗き込んでくる。


「来月の魔力取得計画は11290って……」


「まあ、今月の2割増ってことだな。だから、期待するなって言っただろ」


「マジっすか、最近はずっと3残4特してるんすっよ。これ以上やれって無茶っすよ」


「でも、この決定は覆らない」


 単純に決定事項だけの通達であるが、1つだけ手が加えられている。この第6ダンジョンではなく、第7ダンジョンの生産計画の下に引かれたアンダーライン。第7ダンジョンも、生産計画は2割増。互いをライバルとし、絶対に下回る数字は提示しない。


「絶対に計画を遂行せよってことだ」


「アイツら、ダンジョンに姿を見せずに何考えてるんすか。言うのは簡単っすけど、どうやってやれって!」


「ダンジョンマスターと司令官だぞ。アイツら呼ばわりはマズい」


「でも、先輩が副司令官になってから、アイツらはここに姿すら見せなくなったじゃないっすか?」


 今月以上はないと思っていただけに、マリクの落胆と怒りは大きく、珍しく声を荒げている。


「まあ、そう怒るな。お陰で、好きに出来てるところもあるんだから」


「でも、幾らなんでも2割増って不可能っすよ。どうやったら、こんな数字を平気で出せるか!」


「取りあえず来月は、魔石もアイテムもドロップ率を3%上げる」


 ダンジョンに人々を呼び込むための手段の1つが、ドロップアイテム。ダンジョンの魔物を倒せば、一定確率で魔石やアイテムをドロップする。

 しかし、そんな都合の良い話なんてあるわけがない。ドロップアイテムだけじゃなく、魔物や全てのことが黒子天使によって管理されている。


「えっ2割増っすよ。ドロップ確率3%じゃ全然足りないっすよ」


「その変わり、レア度を上げるんだ。来月だけの限定的な措置だけどな」


「それで大丈夫なんすか?先輩が言うことを疑う訳じゃないっすけど」


「明日から4残以上したいなら、他の方法もあるぞ」


「3%アップで頑張るっす。でもやればやる程、無理難題が降ってくるんじゃないっすか。ここ出来ないって英断もあるっすよ」


「ああ、それは分かってる。うん、ちょっと待て。これはマズいぞ……」

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