第7話 子どもたちの親だから
翌日は東京ディスニーランドで盛大に遊んだ。それぞれカチューシャや帽子などで軽い仮装をし、場内を練り歩いた。
夏休みなので人が多く、ひとつのアトラクションに乗るだけでも数時間単位で並ばなければならない。なので子どもたちが乗りたいと言ったものを数個に絞り、攻略していった。
何かあれば駆け出して輪から外れようとする子どもたち、特に
真琴には「まこ庵」があるので、子どもたちがお休みの土日になかなか一緒に遊びに行けない。商売を生業にしている身としては仕方が無いと思うのだが、やはり申し訳無いと思ってしまうのだ。
せっかく大阪にはUSJ《ユニバーサル・スタジオ・ジャパン》もあるというのに、まだ一緒に行けていなかった。もっと近くには
子どもたちのこんな顔を見るためなら、少しぐらい無理をしてもと思える。この子たちを「自分の子どもたち」と認識すると、そういう気持ちが沸き上がって来るから不思議だ。これなら実際に自分で産んだ子なら、どうなってしまうのだろうか。
真琴は
しかし、考えたところで、どちらにしても今は「まこ庵」と5人の子どもたちで手一杯だ。今乳幼児を抱えてやっていける自信は無い。何より今真琴は、5人の子どもたちが大事なのだ。
真琴もできる努力はしたつもりだが、子どもたちが慕ってくれたことが大きいと思っている。だから真琴は子どもたちと家族になれたのだ。
なら、今はこの親子関係を大事にするべきだ。子どもたちのために自分の精一杯を賭ける。
雅玖と一緒に子どもたちの成長を喜びたい。夢の成就をお祝いしたい。そのために真琴は
帰阪のための飛行機も、壱斗と四音は大興奮だった。新幹線であれだったのだから、空を飛ぶ飛行機でもと思ってはいたものの、他のお客の迷惑にならない様にするのはなかなか骨が折れた。
と同時に、子どもらしい部分を見せてくれることに嬉しさも感じる。
飛行機はまた雅玖の財力が炸裂してビジネスクラスになった。行きのグリーン車もだが、小さなうちからこんな贅沢をさせて良いのかと思ったのだが、ここでも雅玖は譲らなかった。
「せっかくの飛行機なので、たまのことですから快適に過ごして欲しいのです。あの子たちが大人になったときには、自分の好みや
そう言われ、雅玖はやみくもに甘やかしているわけでは無いのだな、と感心した。自分の力でお金を稼げる様になったとき、それが夢を叶えたときかどうかはまだ分からないが、そのときの個人の感覚に
子どもたちも自室で寝つき、真琴と雅玖は恒例のふたり時間。ふたりともいつもの缶ビールと日本酒で乾杯した。
「やっぱり旅行はちょっと疲れるわ。楽しかったけど」
「そうですねぇ。子どもたちも楽しそうでした。私はそれが嬉しくて」
「そうやんな。それが何よりやわ」
「
「そうなん? あの子らのことやから、特に三鶴、私らがよう分からん専門書とかやろか」
「そうですね。あの子たちの探究心には頭が下がります。皆、本当に頑張っています」
雅玖はしみじみ言って、グラスに口を付けた。今日の切子グラスはオレンジ色だ。
「壱斗はちょっとかわいそうやったかな。これが現実って言われたらそうやねんけど」
真琴は小さく溜め息を吐く。壱斗の期待値が高かっただけに、きっと落胆も大きかった。真琴の撃退劇を喜んでくれてはいたが、きっと悔しさ、悲しさを堪えてくれていた。
「そうですね。壱斗はまだ、スカウトされるには小さすぎたのかも知れません。私は詳しくは無いのですが、やはり10代にならなければ難しい様な気がします」
「そうかもな。壱斗、まだ6歳やもんなぁ。その代わり、この先たくさんチャンスがあると思う。今度オーディションとかも考えてあげたいな」
「はい。四音と
「うん。めっちゃ見せてもろた」
1日目夜にどぜう料理をいただきホテルに戻ってから、真琴は得意げなふたりに何枚もの写真を見せてもらった。繊細だったり可愛かったりな数々のデコレーションは、勉強にも目の保養にもなった。
真琴はふたりをたくさん褒めつつクラウドに上げてもらい、真琴もいつでも見られる様にしてもらっている。
「今度、ふたりと一緒にオリジナルメニュー開発するんええかも。これからも少しずつできることを増やしていって、自分たちが関わったメニューがあったら嬉しいかなって思うねん」
「その時は、ぜひ試食させてください」
「もちろん。あの子らのアイディア楽しみ。なぁ雅玖、これからも子どもたちを一緒に見守っていけたら嬉しい。私はお昼も「まこ庵」あるから、ずっと一緒にはおられへんし、雅玖に頼ることも多いけど」
雅玖は真琴のせりふに一瞬目をぱちくりさせたが、すぐにふんわりと優しい笑みを浮かべる。
「もちろんです。これからも真琴さんと子どもたちを育てていけたら、私も嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いしますね」
「うん。よろしくね」
真琴は言って、右手を差し出した。雅玖は一瞬目を見張り、だが嬉しそうに眦を下げ、その手を握り返してくれた。それはしなやかな見た目と違い、とても力強いものだった。
ふたりは恋愛関係では無い。だが紛れもなく夫婦で、子どもたちの親なのだ。これからも協力して、子どもたちのためにできることをしよう。真琴はあらためて心に刻み付けるのだった。
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