第12話 新居お披露目

 3ヶ月が経ち、店舗兼住居が完成した。真新しいそれを雅玖がくと子どもたちと見上げ、真琴まこと嘆息たんそくする。


 季節はすっかり冬になっていた。今日は幸い風は強くなかったが、気温はしんと低くなっている。真琴はニットやコートを着込み、マフラーもぐるぐるに巻いている。


 雅玖や子どもたちも重装備ではあるが、あやかしはあまり暑さ寒さを感じないそうで、人間世界で不自然にならない様に、気候に合った服装にしているだけなのだそうだ。


 なので寒さのあまり肩を縮こませて鼻を赤くしている真琴とは違い、雅玖たちは平気そうに背筋を伸ばしている。少し羨ましい。


「……凄いわ」


「大工たちが頑張ってくれました」


「ほんまですね。お礼をせんと」


「あまり気にしなくて大丈夫ですよ。ありがたいことに、皆、真琴さんと私たちの家を建てることを光栄に思ってくれています」


「なら、なおさらお礼をせんと。人さまのご厚意にあぐらをかいたらあきません」


「……そうですね」


 雅玖は眩しそうに目を細めて真琴を見る。何となく真琴は照れてしまい、さりげなく視線を逸らした。


 3階建ての外壁はクリーム色に塗られている。店舗を兼ねているので、親しみやすい外観にしたかったのだ。


 1階の正面が店舗の入り口になるので、木材などを使って和の雰囲気に装飾してある。ドアは片開きのタッチ式自動ドアにした。窓も大きく取られている。ちらりと見えるカーテンは落ち着いたマスタードイエローだ。


 ドアの上には店名が書かれた板が貼り付けられている。店名は「まこ庵」とした。


 住居への入り口は1階の左端に控えめに作ってもらった。もちろん店舗からも上がれる様になっている。


 真琴は経営する店舗を和カフェに決めた。お昼は日替わりランチも提供する。


 実は理想は小料理屋だったのだが、雅玖との話し合いで和カフェに落ち着いたのだ。営業時間は11時から17時まで。夜は子どもたちに会いに来るあやかしたちにお店を解放することになった。


 妖力で閉店している様に見せて、その実はあやかしたちの貸し切り状態である。雅玖の希望もあって、そこでも真琴は腕を振るうことになっている。


「入りましょうか」


「はい」


 建物にはすでに電気が通っているため、自動ドアもちゃんと動いてくれる。真琴は手をかざしてドアを開けた。すると新品特有の香りがふわりと鼻をかすめた。


 ベージュのフローリングの床に、壁も同系色の木材が使われていて柔らかな雰囲気。椅子やテーブルは白木のものを選んだ。カウンタ席も白木だ。1枚板はさすがに高価なので、数枚を繋げて作られている。


 この「まこ庵」はふたりで切り盛りする予定なので、席数はそう多く無い。カウンタに椅子が4客と、ふたり掛けテーブル席がふたつ、4人掛けテーブル席がふたつ。


 奥には小上がりを作り、お子さま連れのお客でもゆっくりできるように座敷席を作った。大人なら4人が座れる。


 ああ、しかし我ながら良いお店になったと思う。資金的には雅玖に頼りまくったお店ではあるが、インテリアや食器など、全てを大事に大事に選んだのだ。


「可愛いお店やねぇ〜」


 四音しおんののんびりとした声が響く。


「そうですね。真琴さんがこしらえたお店ですよ。素敵ですね」


 雅玖が応えると、四音は嬉しそうに破顔した。


「真琴さん、上にあがってみましょう」


「はい」


 店内から住居へ行くには、フロアの隅にあるドアを開ける。住居側の玄関に繋がっているのだ。


 施錠は住居側からで、「まこ庵」側からは鍵が必要なので、きちんと閉めておめばお客が入り込んでしまうことは無い。そのドアには「Privateプライベート」のプレートを貼り付けた。


 今は鍵が開いているので、真琴はドアノブを回す。充分な広さのたたきと2階への階段の間には短い廊下があり、壁際には大きな靴箱が作り付けられている。


 階段を上がると、すぐリビングが広がる。壁紙が白いのと、窓から入ってくる陽射しのおかげで室内は明るい。ブラウンのローテーブルを囲むのはクリーム色の本革ソファ。家族全員がゆうに座れるサイズである。


 テレビや録画機器も揃えられていて、ここで全員でくつろいだりするのだろう。


 リビングから続くのはダイニング。キッチンとはカウンタ越しで対面でき、7人が掛けられる大きなブラウンのテーブルはカウンタに着けられている。


 2階には他に水回りと、真琴と雅玖それぞれの部屋、そして3階が5人の子どもたちの個室だ。


 真琴のマンションを引き払うのはこれからだが、ここで生活をするのかと思うと楽しみになる。


 見ると、子どもたちはリビングダイニングをあちらこちら巡っていて、雅玖はそれを微笑ましげに見つめている。それはまるで、本当の親子の様に見えたのだった。

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