第67話 勇者はヒーロー! Ⅶ
警備員室の制圧を終えて俺はモニターを見ている。
拘束されていた警備員さん達はバイヤーさんが解放してくれたので、その警備員さん達にテロリストの拘束をお願いした。
それから警備員さん達にその中で指示を出していたテロリストのリーダーと思われる人物を聞きだし既に尋問を終えている。
どうやら今回のシージャック全体のリーダーだったようで操舵室の時のハンマー尋問に3回も耐えた。実に大したものだ。俺なら最初の一発目で折れる自信がある。
とはいえ別に拷問を楽しむような趣味は俺には無いしあまり時間も掛けたくない。
なのでハンマーと同じく帝国との戦いの準備で使用したチェーンソーを使ってみた。
そしたら今度は2回目で実に素直に色々と教えてもらう事が出来た。
コツとしては少しずつゆっくりと近づけていくのがポイントだったようだ。
尋問後は見た目がちょっと悲惨なのでちゃんと治癒しておいた。
もっとも怪我は治ってもズボンまでは修復されないので股間が丸出しである。
手足が拘束されているので隠すことも出来ないしな。
尋問が終わり警備員さん達の様子を見ようと見回すと殆どの人が蹲り両耳を押さえて涙目だった。
どうやらテロリストに襲撃されて拘束されたのが心因的なトラウマとなったのだろう。
気の毒なことだ。
「いや、そう言う事じゃないと思うぞ」
バイヤーさんが俺の呟きに反応して何やら言っていたが気にしない事にする。
「我々の救出に感謝する」
モニターを見ている俺に警備員さんの1人がそう言ってきた。
当初俺の姿を見てかなり警戒していたのだが、遅れてバイヤーさんが入ってきて状況を説明してくれたので警戒を解き制圧したテロリストの拘束に協力してくれていたのだ。
因みにこの人が警備部門の責任者らしい。
「必要だったからしただけだ。気にしなくて良い。それより状況を確認したい」
俺がそう言うと彼は頷き、襲撃された状況とそれ以後のテロリストの行動をわかる範囲で説明してくれた。
そしてモニターのコンソールを操作して船内の状況を確認しつつ解説をしてくれた。
船内にはカメラが全部で50台ほど設置されているらしい。
ただプロムナード内は各所にカメラが設置されているもののその他は船員以外立ち入り禁止の境界や通路に設置している程度でそれほど数もない。
外に面している甲板などには相応の数が設置されているがとても船内をくまなく確認できるほどではないそうだ。
実際通常であればそれで充分なのだろうし豪華客船に搭乗する乗客はそれなりにセレブリティな方々だろうからそこら中に監視カメラがあるような状況では評判にも影響してしまうのだろう。
なので残念ながらカメラでテロリストの行動全てを把握するのは出来なそうだ。
ただ、幸いなことにこの警備員さんが連中の動きをモニターで確認し、さらに指示の内容も聞いていたためにある程度連中の配置と行動の予測が出来た。
「やっぱり爆弾が問題だな」
「ああ。それもセムテックスを10kgも持ち込んでいるとはな」
バイヤーさん曰く、セムテックスっていうのはプラスチック爆弾の一種で『テロリストのC4』などと呼ばれているらしい。一般的なTNT火薬よりも高い爆発力がありながら安定性が高く信管を使わなければ爆発しない上に爆発物探知が非常に難しい事からテロによく用いられるそうだ。
こうして日常で使うことのない無駄知識が増えていく。
「なんだ? 故障か? いや、煙?」
今後の行動を考えていると警備員さんがモニターを見ながら呟いた。
「ノーラン、どうした?」
警備員さん改めノーランさんにマイヤーさんが聞く。
「プロムナードの入口、船尾側のモニターが見えなくなった。ランプの明かりが微かに見えるから故障では無さそうだが煙かもしれない。あ! 別のモニターもだ!」
示されたモニターを見ると確かに画面には黒い煙のようなものに覆われたプロムナードが映し出されている。
更に別のモニターに3人のテロリストと思われる男達がその黒い煙のようなものに瞬く間に包まれる光景が映っている。
……非常に見覚えのある光景だな。
俺は慌てて魔力を探り船内を探査する。
あー、アレ、レイリアじゃん。
待つのが嫌になって動き出したみたいだ。
一応正体を隠すために闇魔法で姿を見えないようにしているんだろう。
そうしている間に黒くなっていた画面に元のプロムナードの光景が戻り、一つには床に倒れている3人が残されているのが映る。
そして今度は別のモニターが暗転する。
「……心配ない。俺の仲間の仕業だ」
俺が頭痛を堪えながら説明するとノーランさんとバイヤーさんが驚いて俺を凝視する。
「クロノス、他にも仲間がいるのか?!」
「あ、ああ、後1人な」
余計な事は言いたくないので言葉を濁す。ってか、その名前やめてくらはい。
「そ、それよりも上側のテロリストは向こうに任せるから、俺は機関部と爆弾の処理に向かう」
「わかった。私も同行する。ノーラン、君はここでモニターを確認しながら随時私に情報を伝えてくれ」
「わかった。おい! 予備の通信機を」
ノーランさんの指示を受けた別の警備員さんがバイヤーさんに煙草大の機械とイヤホンマイクを渡す。これでこのモニター室と通信できるのだろう。
準備を終えたのを確認して俺とバイヤーさんは部屋を出る。
「爆弾の処理は軍ではどうやってるんだ?」
機関部に移動しながらバイヤーさんに聞く。
前回は警察に丸投げしたけど今回はそれが出来るかどうかわからない。
なので海軍出身というバイヤーさんなら知ってるかもしれないと思ったのだ。
「爆弾の種類にもよるが……基本的には信管を取り外すか安全な状況を確保した状況で爆発させるか、だな。プラスチック爆弾の場合は信管を取り外すのが一番だがセットした段階で振動感知のセンサーが取り付けられている場合があるからやっかいだ。信管が分離できない場合は液体窒素で雷管を不活化させて処理するが、これもセンサーが付いているとそもそも動かすことが出来ない。おそらくそこまでの機器は用意できないとは思うが……」
過剰な期待は出来ない、か。
「液体窒素で処理できない爆弾もあると聞いたことがあるが?」
「対冷却システム付きの時限装置だと液体窒素に浸けた途端に爆発するな。だがテロリストが使用したという話は聞いたことがない。構造も複雑になるし振動センサーを付ければ事足りるからまずそれは無いだろう」
であれば処理は何とかなるか。
俺なら設置された爆弾を取り外さずに魔法で液体窒素に浸けることができるし。
「不活化させれば信管を外せるか? 後はセットされる場所だが」
「不活化されたら取り外すのは私でも出来るな。爆発物処理の専門ではないが訓練は一応受けたことがある。それと場所か……セムテックの量からいって爆弾の数は多くても4個だろう。それ以下ならこの船に損害を与えることは殆ど出来ない筈だ。場所も限定される」
「どこだ?」
「船底はまず考えられない。客船は船底部がバラストタンクになっていて構造上2重だ。爆弾で穴を開けたところで航行に影響は少ないし沈没もしない。となると、短時間で設置できて船体に損傷を与えられるのは機関部の壁面と船体中央部のバラストタンク上部にある整備用通路の壁だ」
情報提供ありがとうございます。
そこまで聞いたところで機関部の入口に到着する。
入口の前で中を探査する。
中に居るのは10人。
拘束されている気配は無い。テロリストと協力者だけなのか、他の船員もいるのか。
「中には10人いるようだ。全員テロリストだと思うか?」
「わからん。私の把握している予定では今日は機関部に人は居ないはずだからな」
強制されているだけかもしれないし、判断が出来ないな。
とにかく船員と見られる人達は怪我をさせないように拘束することにしよう。
バイヤーさんをその場に残してまず俺が中に侵入することにする。
ロックを解除してもらい、そっと扉を開ける。
途端に凄まじいエンジン音らしき騒音が響く。
かなり煩いがお陰で魔法を使わなくても物音は気にしないで良さそうだ。
人一人がようやく通れる程度の隙間を開けて身体を滑り込ませる。
機関部は広さはかなりあるが見通しは良くない。
というか、エンジンでか!!
うなりを上げているエンジン、ディーゼルエンジンか? 高さが4メートル位、幅が3メートル弱、奥行きに到っては10メートル位ありそうだ。しかもそれが4基。
ふえー、やっぱこれだけの船を動かすってのはこんなのが必要なんだろうなぁ。
そんな場合じゃないのに思わず呆然と見上げてしまった。
呆けること数秒。
我に返って周囲を確認。
エンジンの影に隠れながら『探査』で人の配置を調べるとそれまで分散していたのが一カ所に集まりだしているのがわかった。
死角になるように位置取りをしつつその場所が見える所まで移動する。
4基あるエンジンの中央部、大きな操作盤と思しき場所の前で男達が10人。
その内3人が作業服姿。残りは服装の統一感は無いものの手に拳銃を持っている。
数人の男達が一人を取り囲むようにして何かを話しているが相当興奮しているのか表情は険しく大きく身体を動かしながら怒鳴るような仕草をしていた。
多分、警備員室が俺に制圧されて連絡が取れなくなっていることに気が付いたのだろう。
一人がこちら、というかおそらくは機関部の入口の方を指さしながら何事かを指示すると、男が2人拳銃を構えながら走ってきた。
一瞬見つかったかと思ったが動きを見るとどうやら違うらしい。
機関部を出て様子を見に行くつもりなのだろう。
どちらにしてもテロリストに警備員室の異常を知られた以上早めに動く必要がある。
なのでサクっと終わらせることにしよう。
爆弾も何とかしないといけないしな。
と、いうわけで、こっちに向かって走ってくる男達の前に躍り出るとそのまま突っ込む。
そして2人の間をすり抜けるようにしてラリアット!
咄嗟に反応できなかった男達はそのままそれを首にくらってあっさりと昏倒する。
後頭部を床にしたたか打ち付けたような気がするが、まぁいいか。
そのまま小走り程度の速度で残りの連中を目指す。
銃声は聞こえなかったが障壁に数発の弾丸が着弾する。
当然こちらに被害は全くなし。
それを見たテロリスト達は慌てて作業服を着た船員に銃を突きつけた。
「……っ、ごくな! 人質が、なっ?! ぐわぁぁ!!」
言葉の最初は聞き取れなかったもののどうせ言ってることは想像できるので構わず魔法を発動させる。
使う魔法はファンタジーでお馴染みの風系魔法『エアーハンマー』。圧縮した空気を叩き付ける魔法だ。
それを人質諸共テロリストにぶつける。
当然全員が吹き飛ばされて壁とかに叩き付けられた。
転がったテロリストは一人ずつ丁寧に『雷撃』で処理。作業員達は気絶しているようだったので『治癒』を掛け、念のため結束バンドで拘束しておく。
誰が連中の仲間かわからないからしょうがない。
まさか人質ごと攻撃されるとは思わなかったのだろう。あっさり片付いたので良かった。
残りのテロリストも拘束して、バイヤーさんを招き入れる。
そして恒例の尋問タ~イム!
その結果爆弾は合計3個、内1つがこの機関部の後方、2つがバイヤーさんの予想通り船体中央部に取り付けられている事がわかった。
バイヤーさんと手分けして爆弾を探す。
すぐにバイヤーさんが配電盤のようなボックスの下の視認し辛い場所に取り付けられていた爆弾を発見した。
俺は魔法で窒素を集めて冷却し液体窒素を作る。
「このまま冷却して信管を凍らせる。後はバイヤーさんに任……なに?!」
樹脂のようなものに埋め込まれている機械に付いていた液晶が点滅し表示が10:00となりすぐに09:59、09:58と変化していく。
「き、起動した?! 何故?!」
バイヤーさんの慌てた声。
俺も慌てて周囲を見回す。
そしてこちらを睨み付ける作業服の男と目があった。
すぐにその男の所に走り寄る。
後ろ手に拘束された男の手には携帯電話ほどの機械が握りしめられていた。
どうやらリモコン式の起爆装置らしい。
おそらくこの10分と言う時間が脱出のために設定した時間なのだろう。
「やってくれる!」
「くはははは! こうなったら全員死ねばいいんだ! 異教徒共が!! ぐぎゃぁ!!!!」
問答する時間が惜しい。
俺は起爆装置を持っている手ごと男の腰を踏みつぶす。
「時間がない直ぐに凍らせて引っぺがすぞ!」
バイヤーさんの所に戻った俺は起爆装置ごと液体窒素で凍らせる。
直ぐに表示が消え、バイヤーさんが頷いたのを確認して爆弾を壁から引きはがしアイテムボックスに放り込む。
「取りあえずこれでこの爆弾は大丈夫だ。次は船体中央部。場所の指示を!」
「わかった! まずここを出て右側の通路を真っ直ぐ、うわぁぁぁ!!」
途中まで聞いた俺はバイヤーさんの襟首をひっつかんで走り出した。
機関部の部屋を飛び出し右の通路を走る。
間違いなく豪華客船内障害物競走の競技があれば世界記録を更新する勢いで高速移動。
「ちょ、ちょっとま、そこ! そこの右の扉の向こうだ!」
悲鳴を殺しながらの指示に従い停止して扉を開けてもらう。
扉の向こうには狭い通路が有り何本ものパイプが並んでいる。
そこを2人で注意深く見ていくと程なく爆弾が見つかった。
表示は06:41。
先程同様に凍らせてアイテムボックスにIN。
「もう一つは多分逆側だろう「了解!」うわぁ!」
走る。とにかく走る。
生憎ここからはまっすぐ行けないのでぐるっと大回りしなければならない。
バイヤーさんの重さは大したことないがとにかく船が広い。
こんな時ばかりはこの巨大さが恨めしい。
体感的には数十分ぐらい掛かったのだが実際はほんの数分だろう。
ようやく逆側の扉に到着する。
通路を探すとさっきと同じような場所に爆弾が見つかる。
その表示は00:15。
……ヤバくね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます