帰還した勇者の後日譚

月夜乃 古狸

エピローグのプロローグ

初めましての読者様

月夜乃古狸と申します。

そして、すでにカクヨムで呼んでくださった読者様、ありがとうございます!

この作品は「小説家になろう」で投稿していた作品を要望があったために転載したものです。

すでに読んだことがある! という方は申し訳ありません。

古狸が最初に書いた小説なので稚拙な部分は多いですが、あえて修正しておりません。

楽しんでいただけるとうれしいです。



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 何かがぶつかり合う轟音が響く。

 甲冑を身に纏った人らしき姿と影としか表現のしようのない、色も形も大きさも何故かはっきりとしないが確かな質量と尋常ではない存在感を持った『何か』が幾度も激しく交差する。

「がぁぁ!!」

 どうやら若い男であるらしい甲冑姿の人間が光り輝く剣を片手で振るう。

「!!!!」

 『何か』の叫びとも唸りともつかない無音の声が空間を震わす。

 

「オオオォォォォ!!」

 甲冑男のこれまでにない大きな雄叫びの直後、

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 音のない凄まじい叫びが空間を震わす。



 そこは何もない真っ白な空間としか表現の使用のない場所だった。

 壁も天井も足下の床ですら存在感のないただ白い虚無の空間。

 そこに男が剣を下に振り抜いた姿勢でいた。

 ぐらりと身体が傾ぐとそのまま仰向けに倒れる。

 生きてはいる。荒く上下する胸がそれを知らせるが、身体は血に塗れ左腕はまるでプレスでもされたかのように原型をとどめていない。

 満身創痍としか表現のしようのない、とても今の今まで戦いを繰り広げていたとは思えない状態だった。

「……くそっ……たれ!……もう……二度と……やんねー……ぞ……こんな事!」

 息も絶え絶えに独りごちる。


「終わったみたいね~~」

 突然間延びした女性の声が響く。が、男はその声には応えず声のした方を見ることもしない。

「なによ~~、無視することないじゃな~い!」

 声の主は不満げに唇を尖らす。

 美しいという表現では無礼に過ぎるといえるほどの美貌を備えた女性がいた。

 まるで神話か伝承のなかの女神としか思えないほどの女性を、男はチラリと目線だけを動かして睨みつける。

「……こっちの……状態……見てから……言いやがれ……クソ女神!」

 ……どうやら本当に女神らしい。

「あら~、大変だったみたいね~~」

 のんびりとした微妙に人をイラつかせる口調で言いながら女神(らしき女性)が男に手を翳す。

 すると男の身体に光の粒が降り注ぐ、と瞬く間に怪我が癒えていき呼吸も穏やかなものになっていく、つぶれた腕さえも身につけた鎧ごと元に戻っていった。


 しばしの後、男がゆっくりと上体を起こす。

「これで全部終わりってことで良いんだよな」

 男は女神(らしき女性)を睨みつけながら問いかける。

「そんな睨まなくたっていいじゃない~。そうよ~、これで本当に『ルエナビリオ』も消滅。少なくとも数万年は復活もしないわ~。世界の歪みも少しずつ戻っていくと思うわ~~」

「んで、俺は本当に元の世界に戻れるんだろうな!」

「大丈夫よ~~!ちゃ~んと元の世界、元の時間に戻れるようにするから~~!少しは信用してほしいわ~~、ぐすん」

 男が『嘘だったらタダじゃおかねぇ』とばかりに睨みつけると女神が即座に応じる。ご丁寧に泣き真似付きで……

 男の視線からほんの少し険が消える。

「約束通り~、召喚された場所で『送還の儀』をしたらあとはこっちで調節するから安心して~~」

 女神がのんびりとした口調で続ける。

「……そうか」

 そう言ってようやく男が大きく息をつく。


 しばらくして、男が立ち上がる。

 20歳位のまだ若さを残す面差し。鍛えられ引き締まった体躯で身長は180センチ位だろうか。甲冑に覆われたその姿は女神の光で身体と甲冑の傷は無くなってはいるものの血の跡がそのまま残っていた。

 その姿を女神が慈愛に満ちた表情で見つめ、静かに厳かに言葉を紡ぐ。

「異世界より一方的に召喚され、苦しい試練を超え、よくぞ魔王と邪神『ルエナビリオ』を倒し、この世界に秩序と安寧を取り戻してくれました。神の一柱『ヴァリエニス』の名に於いて、あなたに感謝と祝福を」

 男が少し驚いたように眉根を上げる。

「……まぁ、こんな事はこれっきりにして欲しいってのと、俺がした努力を無駄にしないようにしてくれ。言いたいことは山ほどあるがとりあえずはそれでいいさ」

「人の営みに過度に干渉するわけにはいきませんが、できるだけ見守っていきましょう」

 女神はそう応じると、男の前方に手を翳す。光の粒子が集まり目の前の空間が大きく開いた。

「さぁ、間もなくこの神域は閉じます。戻って皆に無事な姿を見せると良いでしょう」

 男は促されるまま開いた空間を潜る。

(そういうしゃべり方が出来るんだったら最初からしやがれ)と内心で悪態をつきながら。



 通り抜けた先は薄暗い神殿のような場所だった。

 数人の人影が見える。各々武器らしきものを構えこちらを伺っているようだ。

 男がそのまま進んでいくとこちらを認識したのだろう、緊張が解れたように構えを解く。

「ユーヤ様~~~~!!!!!」

 小柄な少女が男の胸に飛び込んでくる。

「お怪我はありませんか?!こ、こんなに血だらけで!すぐに治癒を!!」

 男、ユーヤの姿を見て半ばパニックになっている少女に、

「大丈夫。もう治ってるよ」

 と少女の頭を撫でて微笑みながら応じ、その場にいる他の者を見渡す。

 長身で褐色の肌の女性(美女)、ガッシリとした大柄な体格の厳つい男、白いローブを纏った少女(美少女)、神経質そうな顔をした長身の男。

 その誰もが、笑顔とも泣き顔とも取れない表情をしながらユーヤを見つめている。


「終わったのか?」

「ああ、全部終わった」

 大柄な男の短い問いにユーヤが答える。

「こ、これで世界は救われたのですか?」

 ローブの少女の期待と不安が綯い交ぜになった言葉に頷きながら、

「ええ、ヴァリエニスの言葉が確かならそうなりますね。後は……姫様や王様達の仕事ですよ」

 と、悪戯っぽく軽口で応じる。

「さぁ!早う外に出て皆に応えてやらんか!」

 褐色の女性が促し、長身の男も同意するように頷く。


 ユーヤ達が神殿から外に出るとそこには大勢の兵士達が神殿を囲むように集まっている。

 誰もがその顔に疲労の色を浮かべ、血に濡れている者、怪我をしている者も大勢いる。

 子供にしか見えない少年兵や孫のいそうな老兵、女性もいる。装備もバラバラでどこかの国の正規兵らしき甲冑を纏った兵もいれば山賊か盗賊にしか見えない者、簡素な服に武器を持っただけの者までいる。

 その数はユーヤから見えるだけでも1万を遙かに超えているだろう。全体で数万にも及ぼうか。

 それら周りの全ての兵の視線がユーヤに注がれる。皆一様に期待と不安の入り交じった表情で見つめていた。

 誰も言葉を発しない。そこには異様な静けさがあった。


 ユーヤはその視線に半ば圧倒されつつも何か言おうとするが言葉が出てこない。

 この世界に召喚されて3年、無我夢中で走り続けた。その間の様々な出来事が去来し胸が詰まって言葉が声に乗ることはない。

 だから、ユーヤは言葉にするのを諦め、ただ、拳を握り、右手を高く突き上げた。


 一瞬の静寂の後、歓声が爆発した。



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今回はただのオープニングとなっています。

次話からは主人公の一人称。

コメディ作品ですので、気軽に読んでみてくださいませ。

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