第29話
「まず……第一の事件はもう仕方ないとして、第二の事件をまず考えなければいけなさそうですね」
小石が切り出した。
「あ、ちなみに言うと、第二の事件の後、シャムを埋めた墓が掘り返された跡がありました。中を掘ってみると、ちゃんとお骨はありましたが」
――掘り返されていた?
ふと、土の、少しカビが入った自然の臭いを思い出した。
――これは、あの時の臭いだ。
覚えている。いつの日か、土の臭いを持った人間がバックヤードに入ってきた。
――あいつがやったのか? でも。
僕はその時眠っていて、実際どんな人だったのかを覚えていない。
「ひとまず、第二の事件でアリバイが無かったのは葉山さん、加藤さん、宮田さん、浅田さん、大倉さん、今川さんです。第三の事件でアリバイが無かったのは、私、宮田さん、宇野さん、浅田さん、今川さんです」
小石が切り出した。
「あ、そう言えば、第二の事件の後、シャムを埋めた墓が掘り返された跡がありました。中を掘ってみると、ちゃんとお骨はありましたが」
――掘り返されていた?
ふと、土の、少しカビが入った自然の臭いを思い出した。
――これは、あの時の臭いだ。
覚えている。いつの日か、土の臭いを持った人間がバックヤードに入ってきた。
――あいつがやったのか? でも。
残念なことに、僕たちはその時眠っていて、実際どんな人だったのかを覚えていない。
「第三の事件でアリバイが無かったのは、私、宮田さん、宇野さん、浅田さん、今川さんです。また、葉山さんはその時倉庫にいました」
――なるほど。
「とりあえず、重複する人をまずは調べていかなければいけませんね」
なんと、宮田が当てはまっている。
「まずは……もうすぐいなくなりますし、浅田さんを調べましょうか」
「え」
「宮田さん、何かご不満でも?」
何の意思も感じさせないがゆえに、強い圧力を感じるその視線が、宮田をジッと照り付ける。
「いや、ありません」
「では、捜査しようと思いますが……凶器の可能性のあるものとして、かぎ爪があります。また、浅田さんには性癖があるようで、えぐり出された内臓や血まみれの死体を見ると性的興奮を抱くようです。彼は自分で解剖が好きなこと、殺人ゲームをプレイしていることを明言しています」
淡々と読み上げていく小石の姿は、僕は実際に見たことが無いが、まるで死刑宣告をする裁判官を思わせた。
「第二の事件の時、浅田さんは一度、ゲージスペースに入ってきています。その後は拷問切腹晒首推奨享楽委員会というゲームを同僚とプレイしていたということですが、最初の方は一人でやっていたようですし、分かりません」
宮田が苦痛を抱いているのが分かる。世界一苦いゴーヤを食べればこうなるのであろう顔だ。
「第三の事件の時、彼は車で五分ほどの場所で訪問トリミングをしていました。もちろん自動車で行っていたので、すぐに帰ってくることが可能です。そして、五時の少し前に車で帰ってきました。死体が私のロッカーから見つかった六時ごろには、途中で帰った大倉さんに電話をするという名目で仕事から抜けていますが、電話している様子は誰も見ていません」
――なるほど。
だが、それだけでは証拠として弱い。可能性だけを列挙しても意味が無い。
「とりあえず、その時の行動はそういう感じですね。ちなみに、浅田さんはあと一週間で、ビューティーサロン・憩い荘の井戸橋店に異動されます。一週間以内に、彼がやったのかやっていないのかを明らかにしなければいけません」
小石のそれは、聞いているだけで背筋が伸びるような声色だった。
小石が帰ってきた。閉店時間は三十分以上過ぎている。
「店長から聞いたのですが、キングは毒によって死んだそうですよ」
――毒?!
「また手口が違うじゃないですか」
そう言えば、元から呻き声がしているとは思っていたが……あれはキングのものだったのか。しんどそうな様子もあったし。
「エサに入ってたんじゃない? もしかすると」
「今川さんが?」
「……あり得るかもね」
――やはり今川か!
名前を聞くだけで、僕の心には燃えるものがあった。背中の擦り傷が少し痛いけれど。
「いや、それが、調べてみれば腕に毒が付いていたんだそうです」
「……腕ぇ?!」
加藤は違和感しかない、というような顔をしていたが、僕には覚えがあった。
キングは、よく腕の付け根をペロペロと舐めていた。犯人は、それを利用したのではないか。
「私、覚えがあります。キングはよく腕を舐めていました」
「宮田さん、ご名答。犯人は、キングの癖を知っていた。なら、人物は絞られます」
空気がどんどんと冷却されていっているのを感じる。初冬でも、室内なのに、ブルンと身体が震える。
「その絞られた中には、浅田さんはもちろん、宮田さん、あなたも含まれています」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます