第41話 「…………我は」
優輝が近づいて行くと、二人は気配で気づき振り向いた。
近くで立ち止まり、優輝はなんの躊躇いもなく口を開く。
「ねぇ、もしかしてだけど、その気まずい空気って、俺関係ある?」
単刀直入に聞かれてしまい、夕凪は顔を真っ赤にし神楽は大きなため息を吐いた。
よくわからないと言いたげな顔を浮かべている優輝に怒りが芽生え、神楽は唇を噛み怒り任せに彼へと荒い足取りで近づく。
彼女の様子を見て、これはまた怒られると、優輝は不安に駆られ視線を合わせられない。
神楽も、ここから怒鳴り散らそうと優輝を見上げ口を開こうとしたが、言葉が喉につまり、出なくなってしまった。
理由は、優輝の不安そうな表情を見てしまったから。
先程の言葉も、優輝は悪気があったわけではない。ただ、思っていることをそのまま聞いただけ。
わからないから聞いただけ。
優輝がそのような性格なのは、神楽も夕凪もわかっている為、怒るに怒れない。
夕凪は目を細め、微笑みながら肩を落とす。
先程までの銀籠と優輝のやり取りや、二人の想い。それを聞いてしまい、変に諦めが着いてしまった。
それでも、最後の望みをかけて気持ちを伝えようと、優輝の前まで歩く。
近づいてきた夕凪に優輝は首を傾げ、神楽は不安そうに眉を顰めた。
「――――優輝、これから伝える事、聞き流さないでしっかりと聞いてほしい。いいかな?」
「え、うん。夕凪姉さんの言葉を聞き流したことなんて、今まで一度もないと思うけど…………」
「ふふっ、そうね。貴方はいつでも私の話を真剣に聞いてくれて、悩みを自分の事のように考えてくれる。そんな貴方は、本当に素敵だと思うわ」
「??? あ、ありがとう? 改めて言われると恥ずかしいなぁ。どうしたの?」
頬をポリポリと掻き、夕凪が言いたい事を理解しようとするが、わからず困惑。
神楽が歯を食いしばり飛び掛かろうとしたが、夕凪が肩に手を置き冷静に止めた。
「あのね、私。――――貴方が好きなの。これは同じ陰陽師だからとかではなく、古い友人だからでもなく。貴方が、銀籠さんに向けている感情と同じ気持ちを私は貴方に持っているの。これで、私の伝えたいことはわかったわよね? 流石の、鈍感さんでも」
今の言葉に、優輝はやっと夕凪の伝えたいことがわかった。だが、だからこそ困惑してしまい、目を大きく開く。
「え、俺の事が、好き? え?」
まったく気づいていなかったのがわかる反応。
夕凪はやっと気持ちを伝える事が出来て、スッキリしたような表情を浮かべ、周りの空気を吸い込む。
神楽はすっきりしたような夕凪を見て、悲し気に顔を歪めた。
この後、優輝がどのような言葉を言うのかわかっている。だからこそ、辛く苦しい。
でも、二人が正式にお付き合いするのも、神楽にとっては心から祝福ができない。
モヤモヤする気持ちの中、邪魔だけはしないように気を付け、二人を近くで見守った。
「えぇっと……。気持ちはものすごく嬉しいよ。まさか、俺の事を好きでいてくれていたなんて思わなかった」
「そうね、貴方は全く気付いていなかったわ。自身への感情には疎いものね、それは理解しているつもりだから問題ないわ」
「うっ。そ、うかなぁ…………」
自身が過去、夕凪に言ってきた言葉を思い出し気まずくなる。
誤魔化すように顔を逸らすと、目線の先に銀籠が映った。
銀色の瞳と目が合うと、すぐに逸らされてしまう。
それに対しショックを受け、項垂れた優輝はすぐに気を取り直し夕凪へと向き直した。
「え、えっと。気持ちが嬉しいのは本当だよ。でも、応える事は出来ない、本当にごめんなさい」
眉を下げ、目線を伏せる。
申し訳ないというような表情を浮かべている優輝を見て、夕凪は微笑んだ。
「うん、大丈夫、私の気持ちに気づいていない優輝が、私に銀籠さんののろけを話していたからね。気持ち的にもう吹っ切れているから問題ないわ」
「うぅ……。言葉に棘があるなぁ……ごめんて…………」
「ふふっ、少しは仕返ししないとね」
申し訳ない表情を浮かべ、優輝は苦笑い。
くすくすと笑う夕凪は、本当にもう吹っ切れているのか清々しい。
「あ、でも。少しだけ銀籠さんとお話がしたいわ。いいかしら?」
「いいとは思うけど……でも、怖がらせないでね? あまり近づかないで」
「わかっているわ。少し、お時間いただくわね」
夕凪はそれだけ言うと、銀籠に向かって歩き出す。
予想出来ていたらしく、険しい顔を浮かべつつも近づいて来る夕凪から銀籠は逃げない。
今は二人が両手を伸ばせば届く距離まで近付くことが出来た。
一度そこで足を止め、夕凪は銀籠に問いかける。
「お話し、できるかしら?」
「あぁ、出来るぞ、大丈夫だ」
口では大丈夫と言っているが、体は震えており冷や汗が滲み出ている。
これ以上近づくのは危険と判断し、夕凪は話を進めた。
「銀籠さん、貴方は優輝の事をどう思っているのかしら」
「ど、うとは?」
「言葉のままよ。どのように思いながら接してきたのかしら。ただの気まぐれ? 優輝の事を断れず? どのような思いをお持ちだったのかしら」
夕凪の質問に、銀籠は真剣に考え込む。
自身の気持ちがまだわかっていない今、その質問には簡単に答えられない。
目線を下げ考え込んでいる銀籠に、これ以上何も言わず、夕凪を返答を待つ。
優輝は大丈夫だろうかと思い、助け舟を出すため銀籠に近付こうとしたが、それを神楽が肩を掴み止めた。
「今は二人に任せて」
「でも、銀籠さん、困っているし…………」
「あんたは馬鹿なの? 夕凪姉さんの話聞いていた? 自分本位なのもいい加減にして」
冷たく睨まれた優輝は体に悪寒が走り、小さな悲鳴と共に肩をビクッと上げた。
不安に思いつつも、神楽の言葉も理解できるため、優輝はこれ以上何も言わないことにし見守ることを決めた。
何も言わない銀籠を待ち続けている夕凪。
数分でも数十分でも待ち続ける、そう思いながら彼を見つめていた。
だが、思っていた以上に銀籠は早く言葉をまとめる事ができ、答えを出した。
「…………我は、優輝の事が好きだ。出来る事なら今後、共に居たい、話したい、触れあいたい。だが、それは優輝の為にはならん。我は、あやかしだ。生きる時間、生活環境、思考。すべてが違う為、ここで素直に優輝の言葉を受け止めてしまえば、これから大変になるのは我ではなく優輝自身だ。陰陽師である優輝が、あやかしと共に居るのは世間体も悪いだろう。これからは九重家の陰陽頭にもなるのだ、それも踏まえると、我のわがままで優輝を縛り付けてよい物なのかわからなくなっていた」
胸を押さえ、すべてを吐き出した銀籠。
夕凪は、銀籠の素直な気持ちを聞いて、安心したような表情を浮かべた。
「そう、安心したわ」
「な、何故? 逆に不安になるような事しか言えなかったと思うのだが…………」
「安心するに決まっているでしょう? 優輝の事を大事にしたいと、そう思っているのが分かる、素敵な答えだったのだから」
笑みを浮かべ、見上げて来る夕凪の言葉が理解できない。
今の言葉でなぜそのように思えるのか、どこにそのような要素があったのか。
銀籠は腕を組み考えるが、やっぱり分からない。
理解出来ないまま、夕凪は最後というように口を開いた。
「ねぇ、最後に一つだけいいかしら」
「な、なんだ?」
「貴方は、”我のわがままで優輝を縛り付けてよい物なのか”と言っていたけれど、どちらかというと優輝の方がわがままだから気を付けた方がいいわよ。貴方が何を言っても、優輝は諦めないし、銀籠さんを手に入れられないのなら陰陽寮すらやめるんじゃないかしら」
「なんだと!? それは駄目だ。銀籠よ、我々陰陽寮のために優輝をむかえっ――――」
陰陽寮の話になると過激になる開成を銀が抑え、その場から離れさせる。
苦笑を浮かべながらも咳ばらいをし、気を取り直した夕凪は銀籠を見た。
「銀籠さん、これからもっと、素直になっていいと思うわよ。自分の気持ちに自信をもって? 大丈夫、優輝なら貴方のどのような言葉も、行動も受け入れてくれるわよ。だって、私が唯一愛した、素敵な方だもの」
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