第31話 「絶対に駄目だ、俺達で何とかするよ」

 次の日、約束通り夕凪が九重家に巫女の姿で訪れていた。


 優輝は学校だったが、狗神の件を話し合うという事で仮病。

 元々予習や復習は欠かさないタイプなため、授業が一日遅れたくらいでは特に問題はない。


「学校を休んでよかったの?」

「眠たいのを我慢しながらめんどくさい事をするより、狗神について話したい。早く解決して安息を得たい」

「ん? 安息?」

「はぁ……。こちらの話だ、こやつのことは無視してよい」


 優輝の言葉に首を傾げたが、開成がため息を吐きつつ夕凪に無視してよいと伝える。

 まだ納得出来ていないが、ここで話を長引かせても意味はないと考え、夕凪は本題に入った。


「では、本題に入りますね。まず、狗神は人の負の感情が集まり強くなるあやかし。人に憑いてさまざまな祟をなすとされている。それだけならまだ倒す手段はあるかもしれませんが、ここからがあやかし自体の怖いところ。人の記憶や恐怖心が、そのあやかしを強くしてしまう。知れ渡れば知れ渡るほど、力は強大となる。狗神はもう、一般人にも名前を言えばわかってしまう程有名になっているため、もう簡単には倒せないでしょう」

「あぁ、我ら九重家が全員出動したとしても、封印できるかわからぬ。桜羽家と共に共闘しても難しいだろう」

「そうですね。私達桜羽家は元々戦闘能力は強くないため、狗神などと言った、強力なあやかしを相手にするのは難しいです」


 二人の会話をただただ聞いている優輝は、目を逸らし何か考える。


「…………ねぇ、一つ聞いてもいい?」

「なんだ?」

「昨日電話で言っていた、狗神を倒したことがある人物って、いったい誰なの?」


 優輝の質問に、開成は昨日の会話を思い出し名前を教えた。


「教えるのを忘れていたな。お前もよく知る人狼だ」

「俺がよく知る人狼って……。まさか、銀さん?」

「確証はないが、今知っている限りで狗神の事を倒せるのは銀一人。だが、銀は昔ほどの力はもうないため、期待は出来ん状況。協力を願う事も出来るが、それは最終手段と考えたい」

「なんで?」

「銀の事だ、絶対に自分一人で何とかすると言いかねないからな。狗神の力を直で感じているんだ、予想は出来る」


 優輝にとって銀は優しく、たくましい理想の父親。

 確かに、危険な事をわかっているのなら自分で解決をすると言ってもおかしくは無い。


「…………銀さんが動くかもしれないという事は、銀籠さんも動く可能性があるって事?」

「そうだな。銀からの話によると、銀籠は最後の肉親である銀を命に代えても守る傾向にあるらしい。それと、自身の口でも言っていることがあるみたいだ」

「なんて言っているの?」

「銀が死んだら後追いする――と。そこまで言っているのなら、今回の件も、もし話が行けば必ず動き出すだろう」

「それだけは絶対に止めなければならないね! 絶対に駄目だ、俺達で何とかするよ!!」


 今までにないほどの気迫で宣言。

 開成は呆れ、夕凪も苦笑い。でも、どこか悲しげな瞳を浮かべ、目を輝かせやる気満々の優輝から目を逸らした。


「…………やる気になってもらえてよかったわ。優輝が本気を出せば、狗神も倒せるかもしれないわね」


 無理に微笑んでいる夕凪の表情は固い。

 優輝は違和感を覚えるが、問いかける事はせず話を進めた。


「元々、俺は本気だよ。だからといって必ず勝てるなんて保証はないけど。今回の狗神の件は、姉さんにも話を通して作戦を立てよう。夕凪姉さんの神通力は強力だけど、使い続けると自身の身体に影響が及ぶから、援護とか裏方をお願いしたいんだけど、いいかな?」

「え、私も前線で戦えるわよ? 確かに手助けが主な動きにはなると思うけれど、それでも裏方まで下がらなくても……」

「駄目だよ、無理しちゃ。神通力は使い過ぎると、五感のどれかが壊れてしまう可能性があるんでしょ?」

「そうだけど……。それでも………」

「九重家の法術は占いや予言も出来るけど、あやかし討伐を主に修行させられるんだよ。だから、得意分野を生かして、さっき言った割り振りの方がいいかなって思ったんだけど……駄目かな?」

「でも…………」


 優輝の言葉も一理ある。


 神通力は、すべての声や音を聞き分けたり、相手の気持ちを読み解くことなどが出来るため援護に徹した方が良い。

 逆に、優輝は式神使い。援護も出来るが、どちらかというと対面した方が動きやすい。


 頭で理解はしているが、夕凪は優輝が無理するのを見たくはない。

 自分より年下の人が危険な目に合っている姿を、ただ後ろで見ているなど出来はしない。

 それを伝えたいが、優輝の雰囲気がいつもとは違い本気なため、躊躇してしまう。


 気持ちと状況をしっかりと判別できないなんて。

 夕凪は膝に置いていた手を強く握り唇を噛んだ。


 すると、頬に優輝の手が触れ、顔を上げさせた。


「夕凪姉さん、裏方なんて言い方してごめんね。俺が言いたいのは、戦闘を行うようになった場合、後ろで俺達の援護をしてほしいってことなの。神通力で俺達に出来ないことをしてほしいの。戦闘を、後方で助けてほしいだけ」


 頬から手を離し、言葉を続ける。


「ゲームで言う所のサポーター的立ち位置をしてほしいの。だから、戦闘には出てもらう形にはなるかな。アタッカーポジションは俺達九重家がやるから、サポーターは桜羽家にお願いしたい」


 夕凪が納得できるように、かみ砕いて説明をしている優輝の姿を見て、本当に年下なのか疑問を抱く。

 ここまで状況を理解し、自分の役割をはっきりさせ、相手の気持ちに寄り添える。


 夕凪の中には、諦めかけた恋心がまたしても膨らみ、頬が赤く染まる。

 でも、その気持ちは優輝に悟られてはいけない。


 優輝にはもういる。自分以外に、好きな人、愛したあやかしが。

 それを邪魔してはいけない。そう思うが、気持ちと思考がちぐはぐで、心臓がきゅうと痛くなる。


 開成はそんな二人を見て、話しを進めるには神楽もいた方がいいだろうと口にし、ここでの話し合いを早急に終わらせた。

 優輝は話し合いが終わったと同時に「ゲームしてもいい?」と聞いたため、ゴツンと大きな音と共に、頭にたんこぶを作らされた。

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