初冬
第18話 「うん。必ず守るし、銀籠さんの大事な銀さんも傷つけさせないよ、絶対に」
完全に体調が戻った銀籠は、いつものように薪を抱え森の中を歩いていた。
あともう少しで雪が降るんじゃないかと思い、雲で覆われている空を見上げる。
白い息を吐き手を摩っていると、後ろから足音が聞こえ振り返った。
そこには、いつもと同じように優輝の姿が――……
「銀籠さん、遅れてごめっ――――」
「ギャァァァァァアア!! しろいおばけぇぇぇええ!!!」
「あ、やっぱり驚かせてしまった。ごめん、優輝です…………」
銀籠の後ろに立っていたのは、予想通り優輝だった。
だが、何故か今の優輝は白い綿のようなものに全身包まれており、一瞬誰だかわからない。
銀籠は驚きのあまり悲鳴をあげ、バクバクと波打つ心臓を抑える。
そんな彼と一定の距離を取り、優輝は自身を包み込んでいる白い綿を払った。
「…………な、何があったのだ?」
「じじぃの修行を少しだけ受けて、そのままの足で来たの。人気のない道をチャリンコ飛ばしてきたから多分、誰にも見られていないと思うよ」
「見られたとしても、誰も優輝だという事は気づかんと思うぞ…………」
優輝はやっと綿を全て払い、一息ついた。
「はぁ、まったく。あのじじぃ、昨日俺が課題さぼったからって、今日は森に行くの禁止とか……、絶対に許さない」
ぶつぶつと恨みを漏らしている優輝を見て、銀籠は苦笑い。
さぼったおぬしが悪いだろうと思いつつ何も言わず、近づいて行った。
「動くでないぞ」
「? はい」
近付いて来た銀籠に戸惑いつつも、言われた通り微動だにしない。
何をされるのかと思っていると、頭に手を伸ばされた。
言われた通り動かず待っていると、何かを掴み、くすくすと笑いかけられた。
「まだ、白い綿が付いていたぞ」
白い歯を見せ、純粋に笑いかけてくる銀籠を間近で見てしまい、優輝は思わず固まる。
顔を両手で覆ったかと思うと、小さくお礼を口にした。
「ありがとうございました」
「そこまで喜んでもらえると思わなかったぞ。頭に残っていた綿を取っただけで」
「はい、ありがとうございます」
「??」
銀籠は優輝の思考がわからず首を傾げる。
そんな仕草をしている銀籠も可愛い。
優輝は大きく息を吐き、落ち着きを取り戻した。
顔から手を離し、銀籠を見る。
じぃっと見てくる視線に耐えられず、銀籠は目を逸らし頬を染め、「なんだ」と問いかけた。
「いや、ここまで近くに来てくれたから。今のうちに堪能しようかなと思って」
「…………」
「あ、待って! 俺が悪かったから置いて行かないで!!」
呆れたように目を伏せ、銀籠は何も返さずスタスタと歩き去る。
優輝は置いていかれないようにすぐに駆け出し、隣へ。
そのまま、何事も無かったかのように二人は会話を楽しんだ。
すぐ小屋へと辿り着き、薪を下ろすのを手伝っていると、銀が狼の姿で現れる。
「おっ、今日は来ないかもと思っていたが、振り切ってきたんじゃな」
「知っていたんですか? 銀さん」
「通達が来ていたからな。今日はそちらに優輝は行かないかもしれんと」
「うわぁ」
なんでそこだけ律儀なんだよと、優輝はため息を吐いた。
銀はそんな彼の姿にケラケラ笑い、垂れている手を舐めてあげる。
「元気出せ、戻ってからが怖いぞ」
「うっ、言わないで…………」
さきほどとは違う意味で顔を覆い、項垂れる。
そんな優輝の姿を見て、銀籠は眉を下げぽんっと肩を叩いた。
「どんまい」
「…………いいよ。銀籠さんの笑顔を見る事が出来たから」
「あほか。我の笑顔にそんな価値はない」
「いて」
肩に乗せていた手で優輝の頭を優しくはたく。
衝撃で思わず「いて」と言ってしまったが、まったく痛くはない。
ここまで気を許してくれたのかと、頭を摩りながら銀と話している銀籠を見る。
楽しげに笑っている銀籠を目にし、優輝も釣られるように笑みがこぼれた。
近付き、二人の会話に入ろうとしたが、踏み出した足が止まる。
「…………」
周りに視線を向け、何かを探し始めた。
銀籠は優輝の様子に子首を傾げ、銀は平然と問いかけた。
「優輝、気づいたか?」
「銀さん、まさか気づいていたのですか?」
「まぁのぉ」
二人の会話が理解できない銀籠は唖然。
だが、すぐに気を取り直し銀へと振り向いた。
「何か来ておるのか?」
「まぁな。じゃが、邪悪なものではない」
鼻をヒクヒクと動かし、周りへと視線を送る。
優輝も警戒を高めつつ、銀籠をいつでも守れるように札を一枚取り出し、気配を探っていた。
「────確かに。銀さんの言う通り、殺気などは感じません。感じは、しませんが……」
「うむ…………」
二人は険しい顔を浮かべながら銀の近くにいる銀籠を一斉に見た。
なぜいきなり見つめられたのかわからず、銀籠は数回瞬きを繰り返す。
「な、何が近づいて来ておるのだ?」
「…………人、だと思うんだよね、この気配」
優輝が眉を下げ言うと、銀籠はヒュッと息を吸い、顔を真っ青にした。
そんな銀籠の背中をさすり、大丈夫だよと安心させる。
銀は狼姿のまま銀籠の隣に移動し、頬を舐めた。
「安心するがよい、銀籠。ここにはわしと優輝がおる。なにか悪い者だったとしても、簡単に払う事が出来るじゃろう」
「うん。必ず守るし、銀籠さんの大事な銀さんも傷つけさせないよ、絶対に」
優輝は、近づいて来ている気配を探る為、目を閉じると、すぐに誰だか分かった。
「あ、この気配、知ってる」
「む? 知っている?」
「はい。あの人なら、大丈夫です。同じ、陰陽師仲間なので」
今の言葉に銀は目を丸くするが、何かを思い出した。
「もしかしてじゃが、
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