第87話 真相究明
あれから、フィーリアは四日間、一度も目を覚ます事なく眠り続けていた。
最初、アワーズ伯爵家で看病をとキャロルが申し出たが、ダレンはそれを止めた。
フィーリアが膨大な魔力を使ったからだ。
伯爵家を監視していた何者かが、もしフィーリアの祖国からの者達であれば、魔力の使用に気が付いたかも知れず、再び伯爵家に現れる可能性があると言うダレンの言葉に、キャロルは納得した。そして自ら、ダレンの家に寝泊まりし看病する事にしたのだ。
キャロルが看てくれる事もあり、ダレンとエリックは事件の首謀者であるトバリの行方を毎日探し続けた。が、アパートは既に撤去されており、部屋の中は
トバリは行き付けの店も少なく、トバリ自身を知る人物も少なかった。アゴーが盗んだトバリの日記を押収品から借りて読んだが、特に店の名など書いておらず、アゴーにもトバリが行きそうな場所を聞いたが「公園と俺の店以外、彼奴の行き付けなんて無い」と言い、何の情報も得られなかった。
ダレンとエリックは、本当に彼がこの町に暮らしていたのかすら疑い出したくらい、彼がこの町に居たという痕跡が少な過ぎたのだ。
トバリを慕っていたアゼル達も、彼の行方を知らなかった。
アゼル達は家を失い、貯金も失ってしまった上に、仕事も暫く出来ない状態となっていた。王立公園は広大なために、担当以外の場所で仕事が出来ないのかとダレンが交渉をしていたが、どうやらアゼル達は正式に雇われた庭師では無かったことが分かった。ベンにその事を問えば『トバリに金を渡され、面倒を見ていただけだ』と答えた。その事実をアゼル達は当然、知らずにいた。
何故、トバリはアゼル達にそんな遠回しな施しのような事をしていたのか。そんな事を出来る人間が、あの様な惨たらしい事を行ったという、その矛盾に、ダレンは違和感を抱いていた。
しかし、目の前で起きていた出来事は事実であり、確かに彼が魔法使いである事も、自身の目で見ていた現実だ。
ひとまず、新たな仕事と休める場所が見つかるまでアゼル達をどうにかしてやりたいと思ったダレンは、カリッサ教会の院長に頼み込み、子供達の面倒を見る世話係という名目で、アゼル達を預かってもらった。
カリッサ教会の子供達は、突如現れた三人の兄に、すぐに懐き、三人も満更では無さそうだった。
すぐに次の仕事を見つけてやると伝えれば、あれだけダレンを「オッサン」呼ばわりしていた三人が「ダレンのアキニ」に呼び名が変わった。ダレンはその予想外の呼び名に、思わず声を上げて笑ったが、止めなかった。それを見ていたエリックが何やらブツクサと言っていたが、三人も「アキニ」呼びを変える気はないのか、エリックの小言を笑いながら躱していた。
トバリについて、何も手掛かりになるものも無く日々は過ぎ、四日目の朝。
毎日寝ずに看病をしていたキャロルにも、疲れが見え出したその日に、フィーリアは目を覚ました。
やっと目が覚め、ダレンは即フィーリアの部屋へ向かった。ほんの僅かの手掛かりを掴みたくて話を訊きたかったのだ。しかし、そうしようにもキャロルの制止があり、それは出来なかった。
「目覚めたばかりの乙女に、労わる優しさは無いのか」
と、キャロルに一喝され、ダレンは自分が如何に今、余裕が無いのかに気付かされる。
今回の件は、どうも調子が狂いっぱなしだと一人反省をし、キャロルに謝罪をすれば、キャロルは困った様に微笑んでダレンを抱擁した。素直にそれを受け入れ、互いを労うように背中を軽く叩き合ったのだった。
♢♢
事件から一週間後。
ダレンは王宮にて、ディランと会っていた。
あの日、ディラン達が到着した時には、蔦屋敷になっていたアルバス公爵家は、普段と何一つ変わりのない姿をしていた。
ただ一つ、違いがあるとすれば、エドガーとクロエだけではなく、護衛騎士や使用人までもが全員、倒れている状況であった。
その異様な光景の中で、ダレンがたった一人で、使用人達の脈や呼吸を必死に確認している姿があった。ディランに連絡をして来たウィリスもエリックも居ないことに、何があったのか訊ねても、ダレンは人命救助を優先してくれと言って、それ以上は何も語らなかった。
翌日、命が助かった者、全員が目を覚ましたが、誰一人、何があったのか記憶がなかった。その日一日分が、ごっそり丸々抜け落ちていたのだ。全員が一日分の記憶が無い状態。話を訊く際に日付を言えば、その全員が驚いた。それも皆、演技ではなく、だ。
ディランの部下の調べによれば、全員が睡眠薬を服用していたと報告書にあった。その日の食事に混入されていたのだろうとされていたが、調理場からは証拠となるものは出て来なかった。
調査が難航していると、庭師のベンが突然、自分が調理場の下っ端を誘惑していたと語り始めた。ベンには、公爵家に何があったのかなど、一切話していないのにも関わらずだ。
あまりに出来過ぎな話にディランは何度もベンの取り調べを行ったが、ベンの供述にはブレが無く、薬の入手先や、どのように指示したのかなど、細かく話をした。
ベンの話に出て来た下っ端の料理人女性に話を聞こうと任意同行を申し渡すと、その日の夜に自害をし、真相を解明する事は叶わなかった。しかし、その死もディランの中では違和感でしか無かった。まるで全てが、操り人形の様に何者かに操られている。そんな気がしたのだ。だが、誰かに殺害された形跡もなく、書類上は【自害】と記載された。
この事により、アルバス公爵家の事件は、全て庭師のベンによるものであるという事で、幕閉めとなった。
が、ディランはそれで納得している訳ではない。そのため、何かを自分に隠しているだろうダレンを、王宮に呼び出したのだった。
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