第27話 報告



 翌朝。


 ダレンは王宮へ向かい、アーサーを伴って兄と面談をし、昨夜の報告を行った。


 犯人と共に行動をした運転手は、ひとまず死刑は免れた。が、懲役三十年となり、残りの人生は全て牢獄で過ごす事になる様だった。協力した理由は、病気の親の為に金を必要としていた。治療費や薬が高値であるため、どんな金であっても良い、親が助かるならと、協力をしたのだと言う。それを聞いたダレンは、小さく息を吐き出した。なんて馬鹿なことを、と。


 犯人達はダレンとエリックが予想した通り、この国の者達では無かった。そして、予想していた国も的中。

 南部にあるイベラ帝国であった。

 リーダー格の男とフィーリアを初めに攫った男二人は元海軍に居た。エリックが見たタトゥーは、その時のものだったのだろうとダレンは思った。女はタトゥーが入った男の妹だという。残りの犯人は漁師だった。彼等もまた、自国の貴族に雇われて人攫いを行っていた。

 ここ最近の不漁により、路頭に迷っていた所を雇われたのだとか。漁師の男達がいうには、貿易船の乗組員として雇われたのだという。だが、蓋を開けてみると人攫いだった。元海軍の二人は、最初から知った上で雇われていた。怪我をして退役した所、高給に目が眩んだと話していた。


 プラナス教会の院長は、この事実を知らず、若い修道士が単独で行っていた事だった。若い修道士は最近入って来た者であり、元々犯人達の仲間だった。

 犯人達の話に出て来た貴族をディラン達が追う事になり、この件はダレンの手から離れる事になった。



 子供達がどう攫われたのか、それが気になっていたダレンの質問に、ディランは神妙な顔付きで答えた。


「一番は、女の催眠術だ。簡単な催眠術ではあったが、子供には掛かりやすかった。子供達は皆、親と逸れた所を催眠をかけられ『向こうで親が呼んでいた』と言われ、一緒に着いて行ってしまっていたんだ。どの子供も十歳以下で、催眠は簡単だったと。だが、犯人共の言葉から、ダレンが助けた黒髪の少女と赤茶の髪の少年は、予定外の拉致だったと分かった」

「何故、そんな小さな子供達ばかりを?」

「催眠術が掛からなかったとしても、信じやすいのもあるし、攫いやすいからだろう。拉致した子供達は奴隷として売ると言っていたが、それ以外にも理由がありそうな気がする。その辺は、俺の方でこれから調査していく」

「そうか……。何か分かったら、教えてくれ。協力出来る事があれば、協力する」


 協力する、という言葉をダレンから聞いたディランは「あーー!! アーサー! 聞いた!?」と奇声を上げる。


「ね、ね!! 今の聞こえたでしょ!? 俺の弟が、めちゃくちゃに可愛いこと言ってくれたぁ!! えっ、待って! やだ! 今日、雪降る? ダレーン! もう大好きぃー!」


 対面に座っていたディランが立ち上がりながら「お兄ちゃん嬉しすぎて、もうお仕事したくなぁーい! ダレンと帰るぅー!!」と、ダレンに手を伸ばすそれを、ダレンは素早く払い除け睨み付ける。


「うるさい。黙れ。もう二度と協力しない!」

「えぇぇぇーーーー!!」


 ダレンが苦々しい顔でディランを睨み付ける。すると、ディランの隣に座っていたアーサーがディランの首根っこを掴み座らせ「ところで、ダレン」と、ニッコリ微笑んだ。

 嫌な笑顔だなと思っていると、次に出て来た言葉は、やはり嫌な言葉であった。


「せっかく王宮に来ているんだ。久々に第三王女殿下にお会いして行ってはどうかな?」


 今度は嬉々として言ってくるアーサーを睨み付ける。普段、キャロルを揶揄っている仕返しのつもりであろう。

 ディランが早速、第三王女付きの侍女長に話をしに行ったが、当然、ダレンであっても前触れも無い面会などあり得るはずもなく、呆気なく断られて帰ってきた。

 第三王女殿下への面会は、急だった為に会う事は出来ないと分かったダレンは「本当に残念だ! あとはお願いします、アーサーにディラン!」と、こんな時だけディランが喜ぶ「兄さん」呼びで、満面の笑みを浮かべ部屋を出て行った。





「ダレン!」


 背中に当たった声に振り向くと、アーサーが小走りで追いかけて来た。


「まだ何かあるの?」と、嫌な予感がして問えば、アーサーは「違う、違う」と苦笑いする。


「フィーリアの事だ」と、声を潜めた。


 二人は中庭へ向かい、話をした。


「フィーリアの事は、父の了承も得たよ。もちろん、は伏せてある」


 例の事。

 フィーリアの治癒魔法の事であると分かってダレンは「ああ」と返事をする。


「我が伯爵家に養女として迎える手続きを今日にでも進める。それから、これ」


 アーサーが一枚のメモ紙をダレンに手渡す。

 二つ折りされた紙を広げ、サッと目を通す。


「明日の昼に、面会出来るよう調整した」

「ああ、ありがとう」

「ダレン?」

「なんだ?」

「これは、もしかしてだが……。エリックの?」


 アーサーの顔を上目遣いでチラリと見ると、ニヤリと口角を上げた。


「さぁな。たまたま、赤茶色の髪ってだけで、そうとは決め付けられないよ」

「まぁ、そうだが……。赤茶色の髪は珍しい……」


 片手を上げ、アーサーが言わんとする事をダレンは遮った。


「とにかく、ありがとう、アーサー。フィーリアのこと、宜しく頼むよ」

「ああ、もちろん」

「また連絡する」

「ああ」


 アーサーと別れてから、ダレンはマーケットへ向かい食材を買い付けた。ふと、考え事をし、その足で薬屋へ向かう。犯人の共犯になってしまった運転手の名を伝えると、薬師はすぐに分かった。その家の母親に薬を届けて欲しいと伝え、当分足りるであろう金額を置いていった。


 空を見上げる。随分と陽が高くエリックが腹を空かせているだろうと思うと、急いでエリックの待つ自分の部屋へと帰って行った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る