第30話 本当の黒幕 


 救出劇から三日後---


 ディランから、事件解決の連絡が入った。

 犯人の黒幕は、南部にあるイベラ帝国の貴族とレイルスロー王国の中産階級の貿易商が手を組んで行っていた。

 イベラ帝国にはレイルスロー王国の国王陛下から、抗議がなされ黒幕の貴族は拘束されたとの事だった。


 レイルスロー王国の貿易商が人身売買を行った理由は、他の商人とは売買しない商品を格安で大量仕入れが出来る事、そして南部の貴族間で人身売買が成立した場合、膨大な手数料が入ることから、どんどんと派手に子供を誘拐していたのだという。

 十歳に満たない子供ばかりを狙った理由は、出港までの間、疑われる事なく教会に預けられること。そして、その年齢であれば自ら逃げようとは考えない事が理由だった。そして何より、奴隷として従順に育てられるなどの理由から、南部の貴族に高く売れるのだと言った。


 王族が祝い事などで利用するプラナス教会を隠れ蓑に選んだ理由は、その教会が一番孤児が多く、出入りも他の教会に比べ多くあるため、新しい子供が居ても疑われ難いこと、そして万が一、疑われても王族が利用する教会で、その様な事が行わられているなど噂をすれば、下手すると不敬罪に値する。

 おかしいと思っても、話す者は居ないだろうと踏んでの事だという。

 

 雇われた南部の漁師たちは、近年、魚の水揚げ量が減った影響から、廃業状態の漁師が多くいるのだという。それに目を付けた貴族は、彼らには船もある事から話を持ち掛けた。

 そうして彼らは、金に目が眩んで悪の道へ進んだ。最初こそ怯えながら行なっていたが、誰にも疑われない事から次第に慣れていき、魚を水揚げするのと何ら変わりないと感じ出したのだと、話したそうだ。


「だが、それは表向きの話だ」と、ディランは言う。


 レイルスロー王国では人身売買は死罪に値する。いくら国外との輸出入を手広くしている商人だといった所で、命を賭けてまで危険を犯すだろうかとダレンも考えていた。それを伝えると、ディラン自身もそれは感じていた。


「イベラ帝国の貴族だけじゃない。必ずレイルスロー王国の貴族、ないしはそれ同等の地位のある者が絡んでいるはずだ」と、ディランが続ける。


「だが、表向きでは【子供の神隠し】の犯人は全て捕まった事になっている。それでも、俺は引き続き調査するつもりでいる。もし、ダレンも何か情報が入ったら、俺に知らせてくれ」

「了解。小さなものでも、気になる情報が入ったら、知らせるよ」

「ああ、頼むよ」


 席を立ちかけ、ふとディランを見る。


「いや……ひとり、やはり怪し人物が居るんだ。僕は、そいつを今から追ってみようと思う」

「それは誰だ?」


 ダレンがその人物の名を伝えると、ディランは一瞬、訝しんだが、ダレンの読みが外れることの方が少ない。


「わかった。俺は念の為、他の線で探ってみる。そっちはダレンに任せるよ」

「了解。何か変化があればすぐに知らせる」

「わかった」


 そう言って、二人は別れた。




 

 その二日後。

 深夜一時、港の船着き場。


 暗闇の中で、一人の男が一隻の船に近寄った。どこか慌てる様に船に荷物を放り投げ、自らも乗り込もうとしている。


「プラナス教会の院長様ではないですか?」


 突然後ろから声を掛けられ慌てる男。

 素早く振り向けば、そこには黒いスーツを着た男がゆっくりとした足取りで近寄って来る。


「だ、誰だ!?」

「こんばんは、院長様。私はダレン・オスカー。先日もお会いしましたよ?」

「……。どうされたのです、こんな夜更けに」

「星が綺麗な夜だったものでね。少し夜風に当たりながら散歩でも、と」


 コツリと、靴音が止まる。

 街灯の明かりが僅かに当たる以外、明かりはない。そんな薄暗い中でも目の前に立つ男は、同性から見ても美しいと感じる程だ。


「院長は? そんなに急いで、どちらへ?」

「いや……私は……」

が全員捕まり、イベラ帝国の貴族も捕まりましたし。次は自分だと不安になりましたか?」

「な、何を言っているのか、私には」

「馬鹿な振りを演じるのも、大変だったでしょうに」

「だ、だから! 一体、何の話だ!」

「おっと。そんなに下がると、海に落ちますよ?」


 ジリジリと後ろに下がっていた院長に注意を促す。


「この度の【子供の神隠し】の事件。この国での本当の黒幕は、貴方ですよね? サイラス院長殿」


 ダレンの据わった瞳と、足の裏から這う様に響く声に、院長はその場で崩れ落ちた。



 

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