第40話 ダレンの家
【子供の神隠し】事件から、五年後。
ダレンは借りていたアパートを買い取って、エリックと二人で暮らしていた。
一階にエリックの部屋と依頼人が来た時のための応接室。通いの使用人用の控え室とトイレを作り、二階は変わらずダレンの部屋だが、寝室とトイレ、キッチン、リビングが別部屋になった。そのため、キッチンとリビングが以前よりも広く作り直され、いつもの七人が集まっても余裕があり、居心地の良い空間となった。三階は二人の本が増え過ぎたため書庫が一部屋と、ダレンの仕事部屋。そして、風呂場とトイレがある。それぞれの部屋にもシャワールームは備え付けてあるが、湯船に浸かれるのは三階の風呂場だけだ。四階の屋根裏部屋は客人用にベッドルームが二部屋ある。だが、今まで誰も泊まった事もないしキャロル達も見た事はなく、ほぼ物置きになっている。
新装された元アパートは、二人で暮らすには少し広めではあるが、静かで丁度良かった。
探偵の仕事依頼は、相変わらずアーサーとディランから入るものが多かったが、仕事そのものは順調であった。
一度依頼した事のある依頼者から、個人を通して再依頼を受ける事も増えてきた事もあり、休みの日が少なくなってきた。
エリックはダレンの「助手」という名の弟子で、事件解決に大いに役に立っている。
エリックは二十歳になり、身長もダレンに並ぶ高さにまで成長した。チャームポイントでもあったそばかすは、成長するにつれすっかり消えて、凛々しさが際立つ様になった。
ダレンの中性的な美しさは相変わらずであったが、年を重ねた事で色気が増し、依頼人に好意を持たれる事も少なくない。
社交の場に出向く事はほぼ無いが、どうしても出向かなくてはならない事もあり顔を出すと、あっという間に令嬢達の注目の的となった。
だが、エリックが成長した事で、ダレンとエリックのどちらかで悩む令嬢が増えたとか。
噂によれば、本人達非公認の後援会なる物があるとか無いとか……。その会報には、絶対にあり得ない二人の情事が書かれており、後援会の人数は凄まじいものとか、何とか……。
当然、ダレンはその事を知っていたが、彼女達が直接ダレンに何かをして来た訳でもないので放置していた。だが、ある夜会で令嬢達が会話していた「どちらが攻めで、どちらが受けか」との意味が分からず、キャロルに訊ねた。
キャロルから爆笑しながら意味を知らされたダレンは、一瞬砂塵と化し消えかけたが「令嬢達が自分に付き纏う事がなくなっているなら、勝手に妄想させておこう」と、頭を切り替えた。
だが、エリックは、その後援会の存在すら気が付いていない。エリックはまだ若い。出会いがあれば、その女性と結ばれる事をダレンは願っているのも確かだ。だからこそ、やはり止めなくてはと思ったが……。ふと、悪戯心が疼いてしまった。
ダレンはエリックが気が付いて発狂するまでは、そのまま彼女達の好きにさせておこうと思い直した。理由は、単に彼女達に関わる事が面倒くさいこともあるが、いつもおおらかなエリックが、たまに怒るとなかなかに面白いと思っている為だ。
弟子が、いつ気が付いて取り乱し発狂するか。あろう事か、この師匠は一人で賭けをしだした。ダレンの見立ててでは、恐らく少なくともあと一年は気が付かないであろうと思っている。
そんな事を思いつつも、エリックが知れば当然、そんな後援会など再起不能なまでに潰すつもりだ。
余談が長くなったが、そんな新装して二年目のダレンの家。
久しぶりの休日。
リビングの入り口で、ダレンは不機嫌に顔を引き攣らせ、仁王立ちしていた。
「と、いう訳で、ダレン。いいえ、オスカー子爵様。我が愛娘を、どうぞよろしくお願い致します」
キャロルは畏まった物言いで淑女の礼をして見せた。三十歳を過ぎているが、若々しい容姿に変わりはない。ただ、実子では無いにしても、子供を持った事による「大人」としての貫禄の様なものが備わった。
そのキャロルの後ろで十五歳になったフィーリアが養母に習って頭を下げている。
「なにが……? と、いう訳で、なんだ!」
ダレンは腕を組み仁王立ちしたまま、据わった目でキャロルを見下ろしたのだった。
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