第18話 自転車


 キャロル達はエリックが連絡をして来た教会へやって来た。


 カリッサ教会でダレンと別れ、彼が向かった森へ続く先は、この教会に続く近道であった。メモに書かれていた教会名を見たキャロルは、ダレンの目は正しかったと感じた。しかし、道は途中から舗装されており、煉瓦道になる。タイヤ痕を追っていたら、途中から分からなくなり見失うのでは、と思ったが、すぐにその考えを訂正する。

 ダレンの事だ。走り出した時から、恐らく犯人が教会へ向かうであろうと気が付いた筈だ。

 キャロルは、ウィリスを連れて教会の中へ向かった。

 丁度、牧師が通りかかったため、エリックがここへ来なかったか訊ねると、快く答えてくれた。


「エリックが来たのは、昼の少し前です。すぐに帰っていきましたが、彼に何か?」

「いえ、彼に渡し忘れた物があるとカリッサ教会の院長様がおっしゃっていて。わたくし、車がありますので是非、お届けしますと。でも、もうエリックはカリッサ教会へ帰っているかも知れませんわね。牧師様、ありがとうございます」

「そういう事でしたか。いえ、お気を付けて、アワーズ次期伯爵夫人様」


 キャロルは教会を出て、辺りを見回す。教会から近い電話を探すと、教会とは反対側の通りの先に公衆電話があった。

 キャロルは急いで電話のある場所へ向かう。辺りにエリックが何か残していないか。公衆電話の位置から見える物を見落とさない様に、視線を走らせる。

 ダレンと共に行動をし、ダレンの姿をただ漠然と見て来た訳ではない。手掛かりになりそうな何かを探し、観察することは、ダレンほど鋭くは無いが、キャロルにも出来る事だ。そうでなければ、伊達に助手などしていない。

 地面には、特に何も落ちてはいない。公衆電話にも、特別何かある感じもない。

 次に、公衆電話のある位置から見える店に視線を向ける。ここで電話をしていた少年の様子を、見ていた人がいるかも知れない。

 通りの向こう側には本屋に靴屋……。公衆電話のある通りは、隣にカフェがある。

 キャロルはカフェに向かい、店に入った。


「いらっしゃいませ」と、すぐに女性店員がやって来くる。


「ごめんなさい、ちょっとお聞きしたい事があるの」

「はい? 何でしょうか?」


 女性店員は、軽く首を傾げ訊ねる。


「少し前に、そこの公衆電話を使っていた少年を見ていないかしら?」

「少年ですか?」

「ええ、テラス席の接客をしてる時とか、見てない? 赤茶色の癖のある髪をした……」


 キャロルがエリックの髪を思い出しながら伝えると、女性店員は「ああ!」と声を上げた。


「ええ、いました! すごい勢いで自転車を走らせて行った子ですね! テラス席を掃除しようと外に出たら、すごい勢いで横を走って行ったので驚いたのを覚えてます」

「その自転車の子、どちらへ向かって行ったか分かる?」

「この通りを真っ直ぐ。それ以上は見ていません。危ないわと思ったくらいで、たいして気にしていなかったので」

「そう……。ごめんなさい、ありがとう」

「いえ」


 キャロルは店を出て、ウィリスが待っている車へ戻った。


「ウィリス、とりあえず、この通りを真っ直ぐ行ってくれる?」

「かしこまりました」


 しばらく走らせていると、キャロルは目の端にある物を捉えた。


「ウィリス! 止まって!」

「はい!」


 車が止まると、キャロルは急いで車を降りて走り出した。


「これ……エリックの乗っていた自転車だわ……!」


 自転車には、カリッサ教会のマークがサドルに付いていた。よく盗まれず、ここにあったと、キャロルは思った。中心街から少し離れた場所では、鍵が掛かっていなければ、あっさり盗まれる。それが、ここにあるのは不幸中の幸いとでもいって良い物なのか。キャロルは自転車を起こし、辺りを見回した。

 後から着いてきたウィリスが、驚いた声を出す。


「若奥様、この自転車は……!」


 ウィリスはサドルに描かれたカリッサ教会の印を見て、「どういう事でしょう」と呟く様に言った。


「あの子、ここで犯人と対峙したのよ……」

「連れ去られた、という事ですか」

「恐らく。ウィリス、すぐにアーサー様に連絡を。それから、にも連絡を!」

「ディラン様に連絡して、よろしいのでしょうか……?」

「こんな時にダレンを気遣う必要なんて無いわ! そもそも、エリックを巻き込んで危険に合わせたのは、あの馬鹿男よ! 使えるものは全て使う! ぐずぐずしない! 早く連絡を!」

「は、はい!」


 ウィリスは近くにある店に駆け込み電話を借り、アーサーと、そしてダレンがあまりよく思っていないであろうディランという人物に連絡を取った。その間に、キャロルは自転車を車の近くに寄せて、どうやって運ぶかを考えるのだった……。



***



 一方、ダレンは自転車を走らせながら、途中で方向を変えていた。

 犯人はこの先にある教会へ向かっただろうとダレンは自転車を走らせていたが、そこに長居をするとは思わなかった。カリッサ教会に子供を預けた様に、その教会にも子供を預けている事は知っている。恐らく、その子供を迎えに行った後は直ぐに移動するだろう。ならば、何処へ向かうか。

 そう考えた時、ひとまずプラナス教会に集まるのでは無いかと考えた。


 ダレンは自転車を走らせ、プラナス教会へ急いだのだった。

 

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