第15話 サイドストーリー#4 一ツ橋雪希 ver.1.0
一ツ橋雪希という少女は、友人に縁のない生活をしてきた。幼稚園の頃にはいたかもしれないが、小学生の時はクラスから浮いていた。
いや「浮いていた」と舌触りのよい言葉を使うべきではないだろう。仲間はずれだった。
悲しみはあっただろうが、少女は親にそれを告げることはなかった。心の中で一人涙を零していた。
幼少期から本を読んでいたので知識はあった。知識量で負けたくなかったから勉強も怠らなかった。しかし中学生になってからはそれが裏目に出ることになる。
勉強ができすぎたのだ。なかには羨望の眼差しを向けるものもいたが、一部はこの寡黙な少女をよく思わなかった。
明らかないじめを受けたわけではない。時々、陰口を言われる程度だ。しかしそのことを両親には言えなかった。自分は2人から望まれる役目を果たすべきだと思ったから。完璧でないといけないから。
両親は雪希が思い悩んでいる姿を見ても思春期特有の現象だと考え、とくに話題にしなかった。彼らは大人びた雪希のまだ幼く傷つきやすい心を見ていなかったのかもしれない。
雪希は誰も頼れなくなった。
そんな雪希に手を差し伸べてくる少女がいた。
「ねぇねぇ一ツ橋さん。どうしてそんなに頭がいいの?」
「えっと……本を読んでるからかもしれないけど……」
雪希はどきどきしながら話した。もしかしたら友達になれるかもしれない。
「今度、勉強教えてくれない? 私バカだから全然できなくて」
「私でよかったら……」
「ありがとう! ねぇねぇ雪希ちゃんって呼んでもいい?」
「じゃあ私も依織ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろんだよ! 仲良くしよ!」
それから放課後に二人で図書館へ行き勉強をした。雪希はそれぞれの科目ごとに要点をまとめた手書きの資料を作ってきた。
しかし一週間が経った日。勉強をし終えてから、依織の態度が変わった。
「この一週間、怠かった〜!」
「え? 速度が速すぎたかな?」と雪希。
「これ罰ゲームだから」
雪希にはなにも理解できない。罰ゲーム?
「気が付かなかったの? 私、あんたのこと嫌いだから。友達とゲームして負けたからあんたに勉強を教わってたわけ。途中から資料作ってきちゃったりしてアホくさ。笑うの我慢してつらかったわ。友達にでもなったつもり? 痛いわ〜」
事情はわかった。しかしそれが上手く飲み込めない。涙が溢れる。
「あんたほんとバカだね。勉強はできるかもしれないけど、その他のことは分かんないんだね。友達少なそうで可哀想だわ。じゃあね」
雪希? 雪希〜! 雪希!! 雪希ってば!!
優乃だ。雪希は部室で物思いに耽っていたようだ。
「なんだ?」
「泣いてるの?」
自分では気が付かなかったが涙が出ていたようだ。慌てて拭く。
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫じゃないでしょ! 泣いてるんだから。なにかあったの?」
「気にしないでくれ。個人的なことだから」
「おつかれさまです〜」
ゆめが明るい声で入ってくる。
「ゆめ〜 なんか雪希が泣いちゃってさ……」
「え? 優乃さんが泣かせたんですか? いくら優乃さんでも許しませんよ?」
「いやいや違うよ。ウチがここ来たら雪希が泣いてたんだよ」
「そうなんですね。でも私たちがどこまで聞いてもいいものか分からないですね。なんとなく雪希さんってそういうの苦手そうなイメージあるので」
「じゃあ放っとくってこと? ウチはそういうの嫌だよ」
「二人ともありがとう。もう大丈夫だから」
「そうなの? 本当に大丈夫なん? つらい時につらいって言ってほしいよ。友人なんだから」
「友人か……じゃあ聞くが私は2人の友人か?」
「あたりまえだね。友人っしょ!」
「同じくですわ。友人だと思っています」
「それがどうかしたの? 昔、そういう奴に騙されたとか?」
雪希はドキリとした。まるで見透かされたようだ。
「そんなところだ。私が信じられないだけだから……でももう一度信じてみようと思う」
「つらかったね。いいよウチらのこと信じなくて。ウチは雪希が信じられるようになるまで待ってるから。優乃ちゃんの懐は海より深いんだぜ!」
「わたくしもお待ちしますわ。つらくないと言えば嘘になりますが、大丈夫です!」
「感謝する」
「あーあ。なんか辛気くさくなったな。じゃあ今日はこれからみんなでサイゼ行こう。雪希のおごりで! 親交を深めよう!」
「わかった。行こう。私がご馳走する」
本気で驚いた顔をする優乃を見ながら、雪希はまた泣きそうになった。面と向かって言えないが2人には助けられている。いつもありがとう、そう言いたかった。
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