第14話 夢の意味は? ver.1.0

 ゆめは珍しく授業に身が入らなかった。現国の授業はいつも楽しめるのに……。昨夜の夢のことが気になっている。


 それは裸で高校に来てしまった夢だった。羞恥心はそこまでは湧かず、生徒とも平然とすれ違える。

 ただどこへ向かえばよいか分からず、てつがく部に向かった。ドアを開けようとすると閉まっている。中から優乃と雪希の声がするので「開けて」と言うが一向に開かないのだ。


 もちろん夢と現実は違う。しかしこの夢がゆめの無意識の現れだったらとても怖い。私は疎外されているのかも……と心配だ。


 そんなことを考えていたら午前の授業が終わっていた。


 学食に行ってサンドイッチを1つだけ買い食堂で食べていると、背後から声をかけられる。


「横いい?」


「もちろんですわ」


 クラスメイトの柊悠ひいらぎ ゆうだった。とりたてて仲良くないが、仲が悪いわけではない。そんな関係の友人———ゆめにはこの手の差し障りない友人が多い。


 それでも柊さんは時々こうやって話しかけてくる。


「ウチもパンにしたんだ! ほらサンドイッチ。ゆめちゃんと縁感じるね! おそろおそろ」


 気持ちが浮かないゆめとは正反対で嬉しそうだ。


「ゆめちゃんはサンドイッチひとつなの? 調子悪いとか?」


「そんなことないですよ」


 ゆめは少し嘘をついた。


「ねね、ゆめちゃん少し変わった部活入ってるよね。哲学部って言うんでしょ。なんだか難しそう」


「難しくはないですよ。ただみんなとお喋りしているだけですので」


「ふーん。議論とかしてるのかと思ったよ。今度遊びに行っていい?」


「私は構いませんが……ちょっと聞いてみますね」


 ゆめは内心複雑だった。柊は悪い子ではない。むしろ気さくに話しかけてくれる。けれどお気に入りのおもちゃを貸すような気持ちになった。独占欲。心が小さいなとつくづく自分が嫌になる。


 柊は「楽しみにしてるね!」と去っていった。


 早くてつがく部に行きたい。


 午後の授業も上の空で過ごし、授業が終わったと同時に一目散にてつがく部に走った。ドアを開けようとして、身体がピタリと止まった。開かないのでは?


 ゆっくりドアをスライドさせる。開いた。


 雪希が窓際で本を読んでいる。いつもの光景、安心の光景。


「どうしたんだ? そんなに焦って?」


「いえ、その大したことじゃないんです」


「だったらまず座ったらどうだ?」


「そ、そうですわね」


「茶でも淹れよう。いつもゆめに任せているからな」


 雪希が紅茶を淹れてくれた。ゆっくりと口に運ぶとすーっと気持ちが落ち着く。雪希の方をみると、ふーふーと息をかけている。猫舌。


 昨夜見た夢の話をしようとしたタイミングで優乃がやってきた。


「なになに? 2人ともそんなかしこまっちゃって? なんかあった?」


「いや、それがわからない。ゆめがすごく焦ってここに来たんだ」


「ええ、実は昨夜、変な夢を見まして」


 ゆめは昨日の夢を2人に話す。


「あの、これって夢分析できませんか?」


「私はできないぞ」


「え〜またまた。雪希ならそれくらいできるでしょ? たくさん本読んでるんだし」


「うーん。たしかにそういった本も読んでいるが軽々しく分析するのはどうかと思ってな。占いなどもそうだが、変に印象に残ってそれに捕らわれる場合がある」


「固いこと言わずにさぁ……ゆめだって困ってるんだし」


「お願いしますわ。このままじゃ寝れませんわ」


「夢を午後まで覚えているというのがそもそも不健康なんだ。夢なんて忘れた方がいいと思うぞ」


「今の方が気持ち悪いです……」


「うーん。ではごくごく一般論として、ゆめは自分の存在が場違いだと思っているように感じた。裸というのも、てつがく部に入れないのも同じだ。だがそんなことは断じてないと私は思う」


「それっぽいじゃん! さすが雪希センセ!」


「茶化すな!」


「でももしゆめが無意識にでもそう感じてるなら、雪希の言う通りなんの心配もないよ! ウチら友達じゃん。いや、親友じゃんね。夢がどうしたって話だよ!」


「そうですか……ありがとうございます」


「そんな暗い顔しないでよ。大丈夫だって」


 優乃がゆめに抱きついた。


「ゆっくり呼吸して……ウチの体温感じるでしょ? 心音も聞こえるでしょ。これは大丈夫な温かさとリズムなの」


「ありがとうございます……」


 ゆめは少しだけ頬を赤らめたが、こうしていると落ち着いてきた。そうなんだ、大丈夫なんだ。呼吸がゆっくりになる。少しでも2人との関係が心配になった自分が嫌になる。


 それから3人で少し喋ってゆめは帰路についた。寝るときになってもまだ優乃の温かさがほんのり残っていた。


 その晩はこんな夢を見た。


 場所はどこだろう? どこかのショッピングモール。優乃と雪希と一緒に歩いている。優乃が「これあげる」と可愛くラッピングしてあるプレゼントをくれた。

「なんですの?」と訊くと今度は雪希が同じようなプレゼントをくれる。あっという間に両手では抱えきれない量になった。

「こんなにもらえませんよ〜」と言いながら内心はとても嬉しい。持ちきれないプレゼントがガタガタと揺れ、どうしようかと思っていると中から優乃と雪希が出てきて抱きつかれた。


 翌朝、2人宛てのLINE。


「昨日はありがとうございました。今日はとてもいい夢を見ました。でも、内容は秘密です」

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