第13話 無駄話#1 アイスでも食べよう ver.1.0

 未だ梅雨は明けず、外は雨が降っている。三人は色とりどりの傘を差して———優乃はピンク、ゆめはベージュ、雪希は黒だ———下校し途中のコンビニに入った。


「アイス食べよー アイス! 暑くてやってられないよ」


「そうですね。蒸しますね」


「そうか? あまり気にならないが?」


 雪希は眼鏡を直しつつ、涼しげな顔をしている。


「なんでだよ〜 今日は暑いよ! ウチが暑いと感じたらそれは暑いの〜」


「それは流石に暴論じゃないでしょうか?」


 そう言いつつ、ゆめは傘を傘立てに入れて店内に入る。残る二人もそれに続く。


「店内は涼しいな」


「そうでしょ? 外は暑いんだよ! 雪希はいま気が付いたの?」


「なんだろうな、私は人より鈍感なところがあるのだ」


「にぶちん!」


「さすがにその罵倒は気が付くが?」


「お二人とも、店内ですよ。はい、店員さんににっこり笑って〜」


「「そこまでしなくていいだろ?」」


 優乃と雪希の言葉がシンクロした。


「あらそうですか? 私はいつも店員さんにご挨拶しますよ」


「私が間違っていたのか……不安になるな……」


「ウチ、今度から挨拶しようかな……」


 3人は優乃を先頭にドラクエよろしく列になりながら、アイスケースのところまでくる。


「ねぇねぇサクレあるよサクレ! なんとなく雪希が好きそう」


「なぜそう思う?」


「うーん。おばあちゃんぽいから?」


「さっきから喧嘩売ってるだろ?」


「うそうそ! ちゃんと理由はあるよ。サクレってフランス語で“聖なる”って意味でしょ? ウチは詳しいんだ。なんかそういう名前に惹かれそうだな〜と思ったんだよ」


「たしかにそういう意味はあるが、この場合はサクッと食べられるという意味ではないだろうか? ちなみには私はこれが苦手だ。レモンを上手く食べられないからな」


「それわかりますわ! 固いうちに食べないと美味しくないのに、固いと食べづらいですわ」


「ゆめもこういうアイス食べるんだね! なんか英国王御用達みたいなアイスばかり食べているのかと思ってたよ」


「それは少し心外ですわ。時々、誤解されますが私の家は普通の家ですよ? でもなぜ英国なんですか?」


「ごめん、今度は意味ない。雰囲気?」


「私はもう決めたぞ。アイスボックスにする。二人は?」


「ウチはクーリッシュ! ソフトクリーム好きだから」


「わたくしは雪見だいふくにしますわ」


 3人揃ってレジに向かい、代金を払い、店を出て軒下で食べ始めた。しかしゆめの表情が少し暗い。


「ねぇゆめ、なんか暗くない? なんかあった?」


「いえ、そんなに大したことじゃないんです」


「そういうの気になるじゃん。言ってみてよ」


「私も相談に乗るぞ?」


「えっと、さっきのことなんです」


「さっき? じゃあウチらについて?」


「ええ。ほんと些細なことなんですけど、聞いて頂けますか?」


「もちろん」


「さっき、優乃さんがコンビニのアイスなんか食べないのでは? と仰いましたよね。あれが気になってしまって……。わたくしお嬢様ではないんです。そう思われがちですが。クラスでからかわれるくらいならなんともないんですが、優乃さんにそう思われるって、距離を感じてしまって……」


「え。ごめん。ウチは距離を置こうと思って言ったんじゃないよ。でもごめんね。今度からは直すから……ご、ごめんよぉ……そんなつもりなかったんだよぉ……」


 優乃はボロボロと大粒の涙を流して、ゆめに抱きついた。ゆめは両手を広げて抱かれるがままになる。


「ごめんね、ほんとごめん。疎遠にしようなんてこれぽっちも考えてなかったよ。でもゆめはそう感じたんでしょ。ウチ、最低だよ……」


 雪希が優乃の背中をゆっくりと撫でる。


「私も気が付くべきだったよ。優乃、ゆめ、済まなかった」


「そんな泣かないでください。ほんの少し、ほんとうにほんの少し気になっただけですから」


「そうなの? ほんとうにそう? ウチさ友人傷つけるとか最低だと思ってて、だから今のウチは最低なんだよ」


「大丈夫ですわ。私も優乃さんがそんな意図で話していないともっと信じるべきでした。仲直りしましょ」


 強くハグする2人。それを目を細めて眺める雪希。雨が上がりそうだった。

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