第12話 空は無限? ver.1.0
放課後、優乃はトイレに駆け込んだ。湿気で髪がボサボサになってしまったのだ。スクールバッグからケープを取り出してスプレーし、櫛で整える。前髪は命だ。てつがく部の面々なら誰も気にしないだろうと思ったが、自分が気になる。
雪希やゆめとは違い優乃はブリーチを何度もしているので、アホ毛が出やすく髪のコンディションが悪い。「メリット・デメリットねぇ……」と誰にともなく呟いた。
トイレを出て、購買に行くときも髪が気になる。髪をいじりながらポッキーを2箱買った。1箱2袋入りだから、3人分ちょっと。
そのまま旧校舎に向かい、部室のドアを元気よく開けるとすでに雪希とゆめがいる。
「やっほー! ポッキー買ってきた! みんなで食べよ!」
「ありがとう」と雪希。
「お茶淹れますね」とゆめ。
優乃は一人につき1袋配り、そそくさと自分の分を食べ始める。やっぱり極細は美味しい。外に目をやると五月雨が降っている。
「あーあー今日も雨か……」と優乃が呟くとゆめが返答した。
「風情があるといえば、風情がありますがこう長いと憂鬱になりますよね」
「私は雨が好きだぞ」と雪希が口を挟む。
「その心はどんな感じ?」
「うーん。改めて聞かれると困るのだが、この湿度と雨音が好きだ。嫌なものすべて洗い流してくれる感じがする」
「それはさ雪希がストレートヘアだからじゃない? ねえ、今日の私の髪ちょっとひどくない? ボサボサだよ」
「流石に髪質とは関係ないと思いますよ?」
ゆめがフォローする。
「髪質についてそこまで深く考えたことはなかったが……そうなのか?」
「なんでわかんないんだよぉ。雪希だって朝家で髪をセットしてくるだろ。その時に今日は上手くいったとか、いかないとかあるでしょ?」
「ふーむ。あまりないな」
「なんでだよ! ゆめ、ゆめならわかるよね?」
「優乃さんの髪がそこまでボサボサだとは思いませんが、気持ちはわかりますわ。私もこの髪型めんどうですし、湿気を含みますね」
「まぁウチがブリーチしすぎなんだけどね、でもサロントリートメントもしてもらってるし気を付けているんだけどな……なんか悲しくなってきちゃった」
「まぁまぁ残ったポッキーを食べましょうよ」
「ありがとう」
みんなでポッキーを食べ、部室自体が静かになった。少ししてまた優乃が声を上げる。
「ウチ、空飛びたい! でさ、雨雲を突っ切って太陽の日差しを受ければ万事解決だって気づいた!」
「一瞬、スペースキャットになったぞ?」
「まぁそうだよね〜 空飛びたかったんだけどな。無限に広がる空。飛びたいなぁ……」
「空は無限だと思うのか?」
「大気圏がどうのって言うつもり??」
「その通りだ」
「優乃さんの言いたいことも、雪希さんが言いたいこともわかりますわ。私たちが地上から空を見たら無限に見えます。まだ宇宙進出できていなかった時代の人は空は無限だと信じていたはずですね。でも現代の私たちは空が有限だと知っている……難しいですわ」
「で、優乃どうなんだ?」
「ええ〜 そんなぁ。なんで人の揚げ足をとるんだよ。でもマジレスすると両方じゃね? ウチが見ている雪希と、ゆめが見ている雪希は違ってみえるじゃん。でも同一人物。だから見方の問題だと思う」
「空は無限であると同時に、有限であるということか?」
「えーなんかそう言われると矛盾してるみたいじゃん。雪希はどう思うのよ?」
「空は無限だと思う。科学的事実と人間の生活を混同すべきではない」
「なんだ見解一致じゃん!」
「その方が夢がありますわ。無限に広がる空を縦横無尽に飛び回る。きっと怖くもあり楽しくもありそうですわ」
ゆめがまとめたところで、雪希がぼそっと呟いた。
「飛び回ったら余計に髪が乱れるのではないか?」
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