第11話 サイドストーリー#3 決起集会 ver.1.0

 授業終わり。部室にて。


「今日みんなに集まってもらったのは、今後の部活についてなんだけど……」


 早々、優乃は言葉につまった。なにも考えていなかったからだ。見切り発車もいいところ。


「えと、まぁ、これからどうするかってことね、なにしようか? ウチ、こういうの苦手でさ」


「そうですね……部活と言うからにはなにか指針はあった方がいいですよね……」


 ゆめが首を傾げながら応えた。


「一応、ウチも考えては来たんだけど、ディベートなんて嫌だよね?」


「ディベートですか……競技であるとはいえ、みなさんと言い争うのはちょっと苦手かも知れません。代わりに『哲学対話』などはいかがでしょう?」


「哲学対話って?」


 優乃が食いつく。


「哲学や倫理学の問題をみんなで話し合う会です。例えばですが、死刑の是非などについてです。ここで重要なのは、意見を押し通した人よりも意見を変えた人の方が称賛される特徴があります」


「それは面白そうだけど、ちょっと重いね。もうちょっとラフにできないかな。それ」


「お茶会にすればいい」


 唐突に雪希が話に入ってきた。正直、雪希が意見を出すとは思っていなかったので優乃は少し驚いて、反射的に聞いた。


「お茶会?」


「そうだお茶会だ。哲学対話というのは、古代ギリシャの対話編に着想を得ている。哲学の始祖と呼ばれるソクラテスは弟子との対話によって哲学を展開した。お喋りするだけ。それでも立派な哲学的な営みになる」


「そうなの? でもウチ頭よくないよ? 雪希がなにか問いかけしてくれてもちゃんと返せる自信ないよ」


「それはわたくしもですわ」


「そんなに肩肘張らなくても大丈夫。私だって少し哲学が好きなだけだ。いつもよりほんの少し『なんでだろう?』と思ってもらえればいい」


 優乃はまさか雪希からこんな積極的な意見がでると思わなかった。雪希を見ると顔と耳がほんのりと赤みがかっている。勇気をもって言ってくれたのかもしれないし、緊張したのかもしれない。可愛いところあるじゃん。


「ウチはいいアイデアだと思う! ゆめはどう思う?」


「私も素敵だと思うのですが、部活としては怒られそうですわ」


「それは考えてなかった」と優乃。


「私に任せて欲しい。私は学校へ来なかったが、この部活のために来るようになったという実績ができればカウンセラーも後押ししてくれるだろう」


「ねぇ雪希さ、最初はこんな部活興味ない、みたいな態度だったけどなんでそこまでしてくれるの?」


 優乃は口に出してからまずいと思った。せっかくやる気になっているのだから、それに文句をつけるなんて最低だ。しかし返ってきた言葉は意外だった。


「10回に1回だったか……人の善意を受け入れようと言ったのは優乃じゃないか。私は今の状況を受け入れようと思っている。だからその、なんだ、この部活を作ってくれようとしているのは、そんな見つめないでくれ!」


 雪希の顔が真っ赤になり、うつむいてしまった。可愛い。正直、ほっておけない可愛さだ。優乃は雪希の言葉の先を言わせたくなってしまう。


「この部活を作ってくれようとするのは?」


「う、う、嬉しいことだ。私には居場所がなかったから……」


 俯いたまま恥ずかしそうに告げる雪希。


 優乃は雪希を抱きしめる。


「大丈夫だよ。ウチらは雪希を傷つけたりしない。ウチらがちゃんと大丈夫にしてあげるから。安心して」


 ゆめが幸せそうな笑みを浮かべながら言った。


「優乃さん、かっこいいですわ。王子様みたい……」


「え! そんなことないでしょ!! めっちゃ恥ずかしい!! ちょっと今の待った! たんま〜!」


 その様子をゆめはにこにこと、雪希はどこか恥ずかしそうに眺めていた。

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