第10話 スマホはなぜ割れたの? ver. 1.1
「購買で肉まん買ってきたよ!」
優乃は大きな声をあげて部室に入ったが、無人だった。
「なんだよ〜」と言いながら椅子に腰掛ける。雪希にはあんまんを、ゆめにはピザまんを買ってきたばかりに寂しさが募った。
彼女は見た目がギャルということもあってか、明るいと思われがちだ。しかしその役割を知っているからこそ、明るく振る舞ってきた。他の人が寂しそうにしていたり、つまらなそうにしていることに人一倍敏感なのだ。
しかしこの部屋に来る2人は良くも悪くも、マイペース。それゆえ無駄な気遣いをしなくて済む。リラックスできる場所。
肉まんを食べながら、スマホをいじる。本を読んでもいいが、今はただなんとなく動画でも見たい気持ちだった。
肉まんを持った手をテーブルにあるティッシュで拭こうと、スマホを置いたのが間違いだった。ティッシュをとった時に袖がスマホに触れ、そのまま床に落下。
思わず悲鳴をあげてしまった。
「やかましいな」
雪希が部室に入ってくる。続いてゆめも入ってくる。
「いま、スマホ落として……」
恐る恐るスマホを拾う優乃。そして表面を見て、顔が青ざめた。
「ひび入った……たぶんガラスフィルムだけだろうけど……クソ凹む……」
「まぁフィルムだけで済んだと思いましょう?」
ゆめが優しい言葉をかけたが、雪希は冷たくこう言い放つ。
「どうせ食べながらスマホいじったりしていたんだろ? 天罰だな」
「どこの世界に天罰でJKの大切なスマホを割る神様がいるんだよ。そいつはもはや悪魔だよ! 悪魔! むしろ2人のためにあんまんとピザまんを買ってきたんだから、徳を積んでるわ」
「昔の人は本当に天罰だとか考えたのかもしれませんね! ちょっと面白いです」
ゆめは椅子に腰掛けながらにこにこしている。
「ゆめ〜 どこが面白いんだよぉ」
優乃は未だショックから立ち直れないでいる。
「雪希さんはスマホの画面が割れたのは天罰だと言っています。優乃さんは違う理由を考えていますよね?」
「うん。袖が当たったから落ちた、そして割れたって感じ」
雪希がテーブルにあったあんまんをちゃっかり食べながら口を挟む。
「ゆめが言いたいのは因果関係は恣意的ということであっているか?」
「どういうこと?」
優乃が聞き返し、雪希が答える。
「スマホが落ちて割れたのは、スマホが落ちたという出来事と、スマホが割れたという出来事から構成されてるよな。けど私たちは“落ちたから割れた”の“から”を見ることはできない」
「そう言われればそうだけど、落ちたから割れたなんて一目瞭然じゃん?」
横からゆめが口を挟む。
「そこで先程の天罰の話が出るんです。落ちたから割れたのではなく、天罰で割れたという理解もあると思うんです。例えば疫病の原因は細菌やウイルスですが、一昔前は怨念や呪いだと考えられていましたし」
雪希が言葉を繋ぐ。
「つまり、因果関係は経験的なものだとも捉えられる」
優乃はうつむきつつ指で髪をいじる。これは彼女が考え事をするときの癖だ。
「たしかにそうやって考えればそうなるけど、ちょっと非常識じゃない? ボール投げをしてて窓ガラス割ったときに、“ボールをぶつけた”と“窓ガラスが割れた”は無関係だ! って言ったら殴られるよ」
「大目玉ですわね」
雪希は少し憂鬱そうに小声でこう言った。
「常識なんて嫌いだ……」
「私もピザまん頂いていいですか? 大好きなんですよ〜」
ゆめは“うきうき”を絵に描いたように嬉しそうだ。その様子は小さな子がはしゃぐ姿に似ていて、雪希も優乃も目を細めた。
次の瞬間、ぼと……という音とともにゆめの手にあったピザまんは床に転げ落ちる。
「ええええ〜 これも天罰ですか〜?!」
悲痛な声が部室に響いた。
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