第9話 コインの裏表

 あれだけ寒かった季節が移り変わろうとしている。夕日が柔らかくなり、しっとりと沈んでいった。

 3人は帰り支度をしている。


「今日の帰りはカラオケ行こう!」


 優乃はこの3人のなかで最もカラオケが好きだ。だが一人でマイクを独占することはなく、盛り上げも全力で行う。残り2人はもともとカラオケとは縁遠かったが、今ではちょっと癖になっていた。

 けれど今日は別の意見が出た。


「私は市立図書館に行きたい」


 雪希である。彼女たちは3人揃って図書館へ行くこともある。学校の図書館もよく使うが、蔵書量は市立図書館の方が上だからだ。


「カラオケ!」


「図書館!」


「ゆめ、カラオケ行きたいよね?!」


「ゆめ、図書館だよな?」


 ゆめは、うんともなんともつかぬ返事をする。ようやく、じゅ、順番に……と口にした途端2人から「「いや!」」と言われてしまう始末。だったらバラバラで行けばいいじゃないかとも思うのだが、あくまで3人で行動したいらしい。


「この前、図書館行っただろ」「それだったらカラオケも行った」「図書館は明日でいいじゃん、今日はカラオケの気分なの」「それを言うなら私は図書館の気分だ」


 ゆめは閃いた。こんな時にはあれだ。この前、アニメで見たやつ。


「団員同士のマジギレ禁止!」


 そう言って財布から500円玉を取り出す。


「これで決めましょう。これなら公平です!」


 にこやかなゆめとは対照的に、優乃は不思議そうな顔をした。


「コイントスってサッカーとかでもやるけど、ほんとにランダムなのか前々から気になってんよな」


「どういうことですか?」


「つまりさ、弾き方とか空気抵抗、コインの重心とかを全部計算できたら裏か表かは最初から決まってない? 的な?」


「私たちに選択の余地はない、という立場だな」


 さっきまであれほど言い合っていたのに、妙に息の合う2人。


「雪希が言うように選択の余地がないかどうかまではわかんないけど、コイントス見ると宇宙開闢から今まで全てが決まってる感じするんだよな」


「もしお二人が言うように全てが決まっていたら、ちょっと怖いし、寂しいことですわ……でも、もしそうだとしても私たちにそれを知る余地はありませんわ」


「その通り」


 すかさず雪希が合の手を入れる。


「いわゆる運命みたいなことについて考えるには、神の存在が不可欠だな。神が予め全てを決めていると考えることもできるし、運命について考える時、私たちは神の視点に立っているとも言える」


「ウチは神さまとかあんま信じてないよ? じーちゃんの墓参りとかはするけど」


「わたくしも神様はちょっと……」


「そうなると優乃の疑問にも答えが与えられそうだな」


「ランダムってこと? 納得できね〜 でもわかった。ゆめ、コイントスして」


 ゆめ、優乃、雪希、3人が見守る中でコインが弾かれた。

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