第7話 サイドストーリー#2 優乃の憂鬱 後

 3人で席に着き、それから食事を取りに行く。

 優乃はアイスを食べたかったが、一番安いコースにハーゲンダッツは含まれない。どうしようかと思っていたら、ソフトクリームがあったのでそれにした。


 ゆめは、まず店内をぐるっと回ってからサラダを、雪希は大盛りのスパゲッティとスープを持ってくるのを見て、優乃が声をかけた。


「雪希〜 そんな食べたら甘いもの入らなくない?」


「問題ない」


「わたくしもいつもの癖でサラダを選んでしまいましたが、これではスイーツが入らなくなりそうです!」


 ゆめは、さも残念そうにサラダをもしゃもしゃ食べているのに対して、雪希はフードファイターよろしくムシャムシャ食べまくっている。優乃が甘いものを持ってくると、雪希はカレーを食べていた。ゆめも甘いものをほんの少量持ってきていた。


「わたくしもうすでにお腹いっぱいです……」


「まだサラダと、ケーキ2,3切れじゃない?」


「そうなのですが、わたくしそれほど食べられなくて」


「ウチはもうちょっと食べるね!」


 優乃はそう言って、席を立つと雪希がくっついてきた。

 ん? と思って表情を伺うと下から見上げるような視線を送ってくる。


「おすすめ。教えて」


「そっかぁ……うーん。でもせっかく食べ放題なんだし、自分で選んだ方がよくない? ウチ、雪希の好みとか知らないし?」


「つまり、おすすめはないってこと?」


 優乃としては、たとえばコスメを勧める場合、相手の肌質や得たい効果などを徹底的に聞いてからにしている。だが現状、雪希の好みはまったく分からなかった。


「そういうわけじゃないんだけど……」


「じゃあ、教えて」


「はい……」


 優乃は「がんばれ優乃ちゃん!」と心の中でエールを送り、気持ちを切り替えた。


「やっぱりプリンロールは外せないかな。スイパラの定番って感じするし。それからベリーのケーキもいけるね。表面のツルっとした感じが好き。カップ系だったらショコラがいいかな」


 そう言った端から雪希はそれぞれ3つほど皿に取り、あっという間にこぼれんばかりのスイーツタワーができあがった。それに唖然としている優乃を尻目に、雪希は「ありがと」と言い残して席に戻って行く。


 なんだったんだろう……優乃は首をかしげながら、先ほど勧めたスイーツを一つずつ取って、席に戻る。すると、ゆめはもう食べられないという感じなのに対して、雪希はムシャムシャ食べまくっている。


 それを見た優乃もなんだか胸焼けがしてきて、持ってきたスイーツをメロンソーダで流し込んだ。メロンソーダも甘かったので、ブラックコーヒーを持ってくることにした。


「ドリンクですか? 私も行きます〜」


 ゆめがついてくる。


「ウチはいつも飲まないけど、コーヒーにしょっかな」


「私はホットティーにしましょうか」


「ゆめって、お嬢様ぽいよね。家ではもっと美味しい紅茶とか飲んでるんじゃない? スイパラのスイーツも正直、コンビニスイーツ並だし、美味しかった?」


「お嬢様ではないと思いますわ」


 そう言って、あはははははと笑うときもしっかり口元を手で隠す。いや、だからそういうところが……と言いかけてやめた。


「質問にあらためてお答えしますと、たしかに家で飲む紅茶の方が味だけで言えば美味しいかもしれません。けれど、一人で飲むものより、お友だちと飲む方が何倍も美味しいですよ」


 ゆめの表情が少し曇ったように思えた。優乃はなんとなく、ゆめが家で一人寂しそうに紅茶を淹れて飲んでいる様子を思い浮かべた。


「そっか、ならいいや!」


 優乃はさっと笑顔に表情を変えた。


「はい!」


 そんな話をしながら、席に戻ると雪希が新たにスイーツを持ってきたみたいだった。どんだけ食べるんだ……。


「雪希さんはたくさん食べるんですね! 見ていて嬉しくなりますわ!」


 雪希は咀嚼しながら「こへがさいご」と返答している。そりゃそうだろ。優乃は諦めにも似た境地で、スイーツを貪り続ける雪希を眺めていた。甘いものは「まぁまぁ」と言っていたが、これなら満足しているのだろう。


 隣にいるゆめをチラと見る。丁寧な所作でホットティーを飲んでいたが、視線を感じたのか、ニコッと微笑んできた。


「美味しかった。優乃ありがとう」


 雪希が食べ終わり、そう言った。


「じゃ、帰ろ!」


 ◆


 2人と別れて、ひとり帰路につく優乃。


「あれ? 今日って話し合いするんじゃなかったっけ?」


 まぁなんか2人のことはあんま分かんなかったけど、ま、いいか。感触は悪くなかった。夕日がいやにまぶしく感じられた。

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