第6話 サイドストーリー#2 優乃の憂鬱 前

 昼休み。中山優乃は、購買で買ったメロンパン片手に悩んでいた。

「てつがく部ってなんだよ?」


 そもそも哲学には疎いし、その部活というのがわからなかった。最も近いのはディベート部かもしれないが、好んで誰かと議論するなんて気が知れない。


 にしても言い出してしまったのは優乃だ。あのときは一ツ橋さんや葛城さんの手前、言ってしまったが今となっては後悔している。


 だいたい昔からそうだ。中学の文化祭でも、アイデアを出してそれの統括役になったり、友だちとの遊びの予定を提案したら幹事的な役目にされたり……。


「貧乏くじか〜」と誰に言うでもなく、つぶやいた。


 あ、そうだ。どうしたらいいかわからないときは、甘いものを食べよう!

 そう思って、購買に行くと優乃のお気に入りプリンは売り切れ。ヨーグルトくらいしか残っていない……。またも不幸。


「でもそんな逆境にはめげない優乃ちゃんなのだ!」と内心つぶやき、学校外のコンビニに行こうと思った瞬間に閃いた。


 そうだ! まずはスイーツにしよう! 3人でスイパラに行こう! すぐにこの前教わったLINEにメッセした。


 葛城ゆめ:大歓迎です!


 一ツ橋雪希:わかった。


 ゆうの:じゃあ放課後に、校門前集合!


 そう書きながら葛城さんは、明るすぎて裏がありそうだし、一ツ橋さんはほんとに乗る気なのか不安ではあった。


 ◆


 放課後。校門前に3人が集まり、しゃべりながら駅に向かう。


「てつがく部の第1回がお茶会なんて素敵ですね〜 提案してくださってありがとうございます」


 葛城さんはさも嬉しそうにニコニコして、スキップでもしそうな様子。ちょっぴり考えすぎだったかな、と優乃は反省した。それにしても、葛城さんはお嬢様ぽい。まずスクールバッグが違う。たぶん本革。ついてるアクセも、シルバーぽい。


 学校は服装などにも寛容で、バックも自由に選べるが、優乃はせっかくだからと指定のバックを使っている。加えてディズニーやサンリオなどのぬいぐるみを大量につけているから、葛城さんとは正反対だ。


 ハーフアップにした髪の毛も手入れが行き届いている。ブリーチで痛めた優乃とは違い、シャンプーやトリートメント、ヘアオイルなど良質なものを使っているのだろう。


「誘っておいてなんなんだけど、葛城さんってスイパラとか行く?」


「ゆめでいいですよ! そうですね……小さい頃にお友だちと一緒に行ったきりですね。なのでシステムとかは忘れているかもしれませんわ」


「アフタヌーンティーとかの方がよかったかな?」


「いえいえ! せっかくのお誘いですからスイパラに参りましょう!」


 たぶんこの人は、吉牛やマックなどへ自発的には行かなくとも、誘われれば偏見なく行くのだろう。育ちがいいってこういうことか……と優乃は思う。


 ひるがえって、一ツ橋さんはどうだろう? 黙々と歩いているが、この人はこの人でスイパラとか行かなそうだなぁ……。スクールバッグではなく、ノースフェイスの黒いリュックを背負い、靴はNIKEの黒という実用重視だ。


 でもここで声をかけなくては不自然だ。そう思って優乃は話題を振った。


「ねぇねぇ、一ツ橋さんもスイパラとか行く?」


「これから行く」


「あはははは それはそうなんだけど、時々行くかなぁ的な?」


「過去に一度もない」


「そ、そっかぁ! 甘いものは好きだよね?」


「まぁまぁ」


 じゃあなんで来たんだよ! と内心思ったが、そんなことは口が裂けても言えない。気まずい沈黙が流れる。


「でも大丈夫。公式HPは見たし、どう振る舞えばいいかも調べたから」


 うーん。なんだろ。これがいわゆるツンデレの、ツンのみverなのだろうか。そんなことを考えながら、一ツ橋さんをよく観察してみる。髪は真っ黒ストレート。レベル的には3〜4くらいだろう。かなり黒い。前髪を黒猫のピンで留めている。

 そういえばリュックにも黒猫のチャームがついていた。


「一ツ橋さんって黒猫好きなの?」


「なんで?」


「リュックにつけてて、かわいいな〜って」


「ありがと。これは小さいときに、おばあちゃんに買ってもらった。気にいってる。あと私も雪希でいい。この名前もおばあちゃんの提案で、気にいっているから」


「黒猫かわいらしいですよね〜」


 ゆめも話題に入ってきて、ーーほとんど優乃とゆめのキャッチボールだったがーーなんとか電車でも会話を続け、スイパラにたどり着いた。しかし早くも優乃は気疲れしていた。

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