第23話 あざと可愛い佐藤さん
佐藤さん。下の名前はまだ聞いていない。大学1年生で、こかげと同い年らしい。
見た目ははそこまで派手でもないのだが、所々着崩したファッションにはこなれ感(使い方合ってるか?)があり、薄いメイクは逆に何か色っぽく感じさせるものがあった。
一言で表すなら、清楚系ビッチ…………俺は今日初めて同じシフトになったばかりの後輩に向かって、なんて最低なことを思ってるんだ……?
と、ともかく……! バイト終わり、俺は帰りの電車を待つ佐藤さんの暇つぶし相手として、駅のベンチで拘束されていた。
ほら、俺ってやっぱりベリージェントルマンだからさ、女の子のお願いとか断れないわけ。全然「うっひょ~! こんな可愛い子といられるなら電車なんて一生来なければいいのに!」とか思ってないからね。
「ちなみに~、せんぱいって高校はどこなんですか~?」
このとろ~んと間延びした喋り方が妙にあざといんだよな。
たぶん人によってはイラッとくるんだろうが……かまととなのかなぁ……この子。
「て、聞いてます~?」
こうやって普通にボディタッチしてくるとことかね。ほんと。
「ああ……俺、北海道じゃないから」
「へぇ~! そうなんですね~! どこですか~?」
佐藤さんはわざとらしくも、興味津々
「……関東」
「え~!? 関東……すご~い! 東京ってことですか~!」
佐藤さんの目が輝きを増す、が。東京の人だったら最初から東京って言うよね。
「東京では、ない……けど」
「え~? じゃあどこですか~?」
「まあまあ……」
「え~、もったいぶらないで教えてくださいよ~。ぶぅ~」
佐藤さんはぷくっと膨れっ面を作り、ほれほれと俺の脇をつついてくる。
こ、これじゃあまるで人前でイチャつくカップルじゃないか! 気持ちいいけどやめてくれ! 知り合いにでも見られたらどうするんだ!
あ……ここに来る知り合いなんていないか……。そもそも俺ボッチだし。
「と、栃木……」
「とちぎ……?」
ポカンと口を開け、まるで初めて聞いたかのような反応だった。
たちつてとちぎだよ。
そんなに印象薄いのかな俺の故郷? 確かに毎年魅力度ランキングは低いけど最下位にもなれなくて茨城においしい所持ってかれてるけど!
イバァーラキィィィ!!!
キミも小学校の社会で習ってるはずなんだけどね! いちごの国栃木だよんっ☆
「なんか……すごいですね~!」
何がだよ。笑顔でごまかしてもだめだからね?
「ああ……どうも」
「じゃあじゃあ~、実家がとちぎってことですか~?」
「そうだよ」
「へぇ~。……あ! せんぱいきょうだいは?」
「……妹が、一人……」
「妹! いいな~。わたしも妹ほしかったんですよ~。どんな子なんですか~?」
どんな子と言われてもなぁ……可愛いのは間違いないんだが、そんなこと言ったらシスコンとか言われそうだもんな……。
他に特徴と言えば……
「ん~? んん~?」
さながらエゾリスのように小首を傾げながら顔をのぞき込んでくる仕草が可愛い。とてもあざと可愛い。
ここまで積極的なのはもしや俺に気があるからなんじゃ……?
っていかんいかん。こういう女は大体どの男にも同じようなことやってるんだから。純情な童貞の心を
……俺はほぼ初対面の女の子に対してなんて最低なことを思っているんだ……?
「か、可愛い女の子が好きだよ……あいつは」
嘘は言ってない。だってVtuberはみんな可愛いもん。
「へぇ~! そうなんですね~! レズってことですか~?」
「レズ……!? 違うよ!? こかげは普通にノーマルだから! そういう趣味はないから! ……たぶん」
「冗談ですよ~。も~、本気にしないでくださ~い」
「ご時世的にツッコミにくい冗談はやめてくれ! 多様性バンザイ!」
安心して下さい。僕はたとえ妹にそういう趣味があってもちゃんと受け入れられます。
「たははは~! ところでせんぱい、さっきからあそこでわたしたちのことを見てるあの子、誰なんですかね~?」
言われて佐藤さんの視線の先を見ると、そこを歩く多くの人が「なんだこのバカップル爆発しろ」と
背の低い地味めな女の子で、胸の前でオレンジのみかん娘が大きく描かれたトートバッグを抱えている。
「あ……妹」
「え~!? そうなんですね~! ……ふむふむ」
こかげは俺と目が合ってもその場を動かず、ただこっちを睨んでいる。
……まずいんじゃないか? なんとなく……。浮気現場的な。
「たしかにかわいいですね~! なんのアニメかはわからないですけど~」
「…………あ、うん」
いつの間にかこかげがオタバレしていた。まだ喋ってもいないのにね。なんかごめん。
……Chu! ばらしちゃってごめんねごめんねー!
あとアニメじゃなくてVtuberね。そこんとこよろしく。
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