1-3
細長いテーブルが並ぶ食堂にはまだ誰も来ておらず、ソランジュと母はそれぞれ席についた。ほどなくして二番目の姉エステルがやってきて、続いて一番上の姉コラリーと、その夫が一緒に現れた。
なごやかな
「ごきげんよう、お父様」
ソランジュは立ち上がって
父がソランジュに対して冷たいのはいつものことだが、今日は何やら空気が
「お父様。わたしに縁談が来ているのは本当ですか?」
無作法とは思いつつも、ソランジュは自分から直接問いかけた。せっかくひさしぶりに家族が全員そろったのだから、なんのわだかまりもなく食事をしたかった。
「相手は、コルドラ王国のアルベリク王だ」
「……え?」
父の口から出た名前に、ソランジュは
てっきり、レアリゼ王国内の貴族令息がお相手だとばかり思っていたし、縁談そのものが何かの間違いだろうとタカをくくっていた。
西の
たとえるなら、
「何かの間違いじゃありませんか?」
「まだ正式な縁談ではないの」
そう言ったのは、二番目の姉エステルだった。
「コルドラの国王様がお
「そのパーティーにわたしが?」
「本当はね、あちらの
ソランジュはようやく
「でも、わたしは……」
ソランジュは言いかけて、父の顔を見た。父は何も言わずに食前酒に口をつけている。
「心配しなくても
「どうして?」
問い返すと、エステルはユリの花弁のようにたおやかな指先を
「なんでも、コルドラの国王様はこれまでに何度も婚約
「経費と時間の
「今度のパーティーも、おそらく誰も選ばれないだろうと言われているの。それなら外交も兼ねてソランジュを出席させてもいいんじゃないかしらって、私は思うのだけど……」
エステルは、父のほうをちらりと見やった。
「外交……」
これまでの人生で
「興味がありそうな顔ね」
エステルに
この機会を
「あの、お父様」
ソランジュは父に向き直った。
「コルドラ王国訪問の許可をいただけませんか? けっしてお父様に迷惑をかけることはしません」
父は食前酒のグラスを置いた。
「条件がある。お前の加護の力を絶対に使わないこと。加護を授かっていることをコルドラの人間にけっして
父がソランジュと目を合わせてくれたのは何年ぶりのことだろう。
「ありがとうございます、お父様」
「コルドラ王国の王妃に? ソランジュ様が?」
「あちらの王様のお見合いパーティーに行くだけよ。選ばれることはないから大丈夫」
すっかり旅行気分のソランジュに対して、リディアは心配そうに
「心配です。ソランジュ様は見た目だけでしたらレアリゼで一番の
「絶対にないから安心して。それでね、リディアも一緒にコルドラへ行ってほしいの」
「もちろんです。おまかせください」
ガサツなソランジュと四六時中、行動を共にできるのは
「楽しそうですね、ソランジュ様?」
リディアの問いかけに、ソランジュは口角を上げた。
「レアリゼの外に出るのは初めてなんだもの」
リディアが
「それに、コルドラの王都は海に面しているのよ。海って初めて見るから楽しみ。海のお魚とか、貝とか。それから、レモンは絶対に買って帰りたいわ。あ、収穫時期はまだ先だったかしら?」
いまだ試作段階のタンポポシロップが完成に近づくと思うと、わくわくする。
「完全にグルメツアーになりそうですね」
「出発前に下調べをしておかなくちゃ」
「ソランジュ様。その前にマナーの総ざらいをしておくべきでは?」
十八歳の現在まで一度も社交界に出た経験のないソランジュは、淑女のマナーもダンスも食事作法も最低限は身に付けているものの、とても人前で
「リディア……特訓に付き合って」
「おまかせください」
この日からおよそ一か月に
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