本気
テッラの目の前を斬線がかける。
防御が間に合わない。
体を後ろに倒しながら体を後ろに放り投げるように後ろに跳ぶ――距離が開いたことで再び攻守が逆転した。
返しに放った槍が何もない空間を突き抜けたのを確認して、テンプスを見つめる。
恐ろしい技量だった。
彼に並々ならぬ弱化の魔術がかかっているのは知っているが――それでも押されている。常人なら容易く死に至るほどの呪いを受けてこれなら、一体正常な状態ならどれほどの強さなのだろう?
『サンケイの奴……どこが「強いのは剣だけ」だ、魔術抜きじゃ勝てないぞ……!』
槍を大きく回転させて彼の体を引きはがしにかかったテッラの手に伝わってきたのは固く硬質な感触――槍の刃の内側に侵入していたテンプスの刃が、自分の槍の軌道をせき止めている。
即座に槍を引きにかかるが――それよりも、テンプスの動きの方が早い。
上からかぶせるように抑え込んでいた片手半剣の刃が横に寝るように構え直され、そのままテッラに向かって滑る。
相手の攻撃を基点に相手の手指を切断しにかかる技があると聞いたことはあった。サンケイにかけられたこともある――が、これほど滑らかに放たれたのは初めての経験だった。
急ぎ、槍を手放す。
その動きをすでに知っているかのようにテンプスの足が動く――槍を蹴りはらう動き。
これが決まれば、テンプスの勝ちはぐっと近ずく。
しかし、それが通るほどテッラも弱くはない。槍を挟み込むように繰り出された彼の蹴りをテンプスは受け止められない――すでに足に力が入っていなかった。
そのまま、足首で槍を受け止め、下手に受け取って槍を切り上げるように振る――すでにあった鋼の刃がそれを切り払った。
手首を返す、双方の武器が勢いよく激突、よくみる鍔迫り合いの形で止まった。
体の力が十全に使えないテンプスは、まるで槍と刃に体を預けるように全身を預けて、テッラに呼吸がかかる場所にいた。
空気を求めるようにあえぎ、呼吸が乱れる。
かすかにふるえる空気がごく狭い空間を揺らす。
再び顔を顰めたテッラが前蹴りを放つ。
左で放たれた攻撃をテンプスの右足が受け止め、まるで軽い紙のようにひらりと空を舞って再び距離が開いた。
「――どうした?大見得切った割にずいぶんと。」
どこか嘲笑するようにテッラが口を開いた。
「そう……言うなよ――君の思惑に乗ってやれない理由ってもんがあるんだ。」
息を整えるように告げるテンプスにテッラの顔にさらに渋みが走る。
気づかれているとは思っていたが、こうもあっさりと告げられると調子が狂う。
本当に――
「――厄介な人だ。」
こちらの計画に乗ってくれれば――と、内心でテッラは思う。
体に魔力を通す、計画を変える必要があった。
計画に乗ってくれれば、二人とも――いや、三人ともどうにかできたかもしれないのだが。
「――さっきも言ったが、君を置いて行くつもりはない。」
まるで思考を読むような一言にテッラの眉間のしわはいよいよ深まる――本当に厄介な相手だった。
「――そうか……――」
何事かを口につけようとしたテッラの体中にテンプスの知らない魔術の反応が宿った。
一瞬、ひどく顔を顰めたテッラの視線が観客席の方に向かって流れる。
その方向には明らかにほかの席よりもグレードの高い客が座るための貴賓席のようなものが設えられている――その場所に何があるのかを、テンプスの目は見逃さなかった。
そこに居たのは――老人だ。
しわがれて、まるで枯れ枝のような老人。
その傍らに立つのは――
『彼女がテッラの理由か……』
巨大な瞳を模した仮面……あの日、水晶の蜘蛛を捕まえたあの少女だ。
距離の遠さからいまいち完全には見えないが、おそらくその老人から離れられないのだろう。
となれば――
『あれが魔女……か?』
おそらくはそうだろう――その彼我の距離は遠く、まだ手は出せない。
「――それでも、俺はここにいるしかない。」
泳いだ視線が再びテンプスのもとに戻ったとき、テッラの視線には明確な力と――絶望のようなものが満ちていた。
その様子でわかった――何かしら、あの老人が彼に対して伝えたのだろう。彼にとって、許容できないことを。
「――ほんとにいいんだな?」
「悪かったらここにはいないさ。」
「――そうか。」
だとしても、テンプスは彼をあきらめるわけにはいかない――弟の友人に、このような場所は似合わない。
となれば――あとは彼はこちらの思惑に乗って来るかだ。
ピクリとこめかみが震えた、視線の先でテッラの体内の魔力が変質をはじめている――大技が来る。
確信に近い思いを抱えてテンプスは泰然と立ち尽くす。
これ以上派手には動けない。体の限界だ。
剣を持ち上げることもなく、彼は相手の動きを舞った――変化は劇的だった。
テッラの手の中で槍の石突が地面に強くたたきつけられると、瞬間的に地面が隆起した――土の創造魔法。
テンプスとテッラを囲うように隆起した石柱が屹立し、二人を冷たい牢獄の中にしまい込む。
「――行くぞ。」
「どうぞ?」
次の瞬間、稲光を残してテッラの姿が消えた。
脇腹に鋭い痛み――斬られた。
剣を動かす暇すらない。恐ろしいほどの速攻。
「驚いたな……」
脇腹を抑えながら、テンプスが告げる。
「――君、土が得意なんじゃなかったか?」
そう告げる彼の視線の先で、稲妻をまとったテッラが石柱の上で彼を睥睨している。
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