会議は踊る、されど進まず
「――おい、まだあの実験場の場所分かんねーのかよ?」
「わかるわけないだろ!あそこは本来イベント進行で勝手に辿りついてるところで、探し出すのはイベントキャラなんだから!」
「だから原作とコミカライズに強いお前らの事呼んでるんだろ!なんかこう……プロファイルとかして割り出せないのか!?」
「無理言うな!前世で警官だった奴なんてここに居ねぇよ!」
侃侃諤諤の進まない議論を繰り広げる同類たちを、少年――マゼンダ・ブロッサムもしくは
もうかれこれ二時間はこの調子だった。
彼らの議題は数日前に消えた三人の生徒――より正確に言えば、マギアの行方についてだ。
彼らはテンプス達が今どのような状況にあるのかわかっている。
男どもはあの悍ましい地獄のような場所で戦っているのだろう血と汚泥にまみれて。
まあ、そんなことはどうでもいい。
彼らからすればあの二人の男は自分達の幸せに対して立ちふさがる障害物でしかない、消えてくれるのならそれが一番だ。
彼らにとって重要なのはマギアともう一人のヒロインのことだ。
マギアとテッラが学校に来なくなった時点でこのイベント――ゲームシナリオの名前を借りるなら『いずれ怪物という名の魔女』が開始したのはすぐにわかった。
一日たっぷりと待って、それが確定したと同時に彼らは動き出した。
誰ともなく情報を集めようと言い始めて、それぞれが知りうる情報を交換し始めた――とはいえ、その結果がこれなのだが。
『これだから、メインヒロイン推しの凡人共は……』
その光景を眺めながら、一歩引いた場所からマゼンダは彼らを嘲嗤っていた。
アマノ推しの彼がこの一件に関わっているのには相応の理由がある。
このイベント、影響が大きいのだ。
まず第一に、このイベントはこれまで接触したことのあるすべてのキャラクターの好感度を上昇させる効果がある。
ヒーローが悪人を倒して、ヒロインたちの好感を得る。ゲームにはありがちなシステムだ。
とはいえ、彼にとってこの効果はおまけだ。
本来ならあの食堂での一件で稼げるはずだったイベント好感度を取り戻すだけのささやかな効果。
彼にとって重要なのは次の一点だ。
ゲーム内でマスクデータとして反映されている『名声値』と呼ばれるパラメータがある。
これは基本的に初期好感度に補正を掛け、また、特定のキャラの出現条件になっているデータで、これがなければ一部のキャラは攻略できない。
彼はこの『名声値』を上げたいのだ――アマノ攻略のために。
彼女の次のシナリオはこの名声値が一定以下だと発生しないのだ。
これはテンプスからアマノを奪い返そうとたくらむ彼にとっては致命的だった。
ない頭――失礼――を必死にひねった彼はこの事件を思い出した。
そして、このパラメータを上げるのに、この事件うってつけの一件なのだ。
町の地下に張り巡らされた悪の巣窟、それを打ち破った学生の一人――その名声はうなぎのぼりだ。
システム的にも目標名声値の8割はここで稼げる。
彼の行動原理はどこまでもアマノが中心だった。
『ま、気持ちはわかるさ、このシナリオ、うまくやれば確実にヒロインが一人手に入るんだしな。』
理解はできる。
元々、自分と話の合うような奴らだ、女っ気などないだろう。
そんな自分たちがかわいらしく献身的な彼女――彼らにとってはそれは奴隷を意味している――が手に入るのだ。
そして、何より――このイベントで手に入るヒロインはこのゲーム内でもかなり人気なのだ。
何せこのゲームで一二を争うほど性格がいいのだ。
献身的で、朗らか。助けられた経験から従順で、それでいて周囲への気遣いを忘れない――しかも美人。
これだけの要素があれば彼らが目の色を変えるのも分かろうものだ。
問題はこのイベントに乗り遅れないかどうかと――
『テッラの奴が死んでるかどうかだな……テンプスの奴と相打ちになって死なねぇかなぁ……』
もう一人のヒロインに興味はないが、テンプスには恨みがある。
それを考えると相打ちになってくれるのが最良だった。
ヒロインの方は――適当に誰かに渡したって良い。
そのためにも、こいつらにはイベントの場所を割り出してもらう必要があるが――
「――だから!地下だってことは分かってるんだろ!入口の場所が分かればいいんだよ!」
「それが分かんねぇってんだろ!」
「わかんねぇじゃ済まねぇだろ!もっと必死に探せよ!」
「いっそ下水の中に入って全部総ざらいにした方がいいんじゃねぇのか!」
「はぁ!?なんで俺がそんな汚物まみれになるんだよ!てめぇが行けよ!」
「あぁ!?糞の役にも立ってねぇ癖に何言ってんだ!」
「あのくそ婆になぎ倒されたのはお前もだろうが!」
侃侃諤諤の会議は続く――まるで前に進まないまま。
「――この分だとサンケイさんに何かすることもなさそうですね……捨ておきますか。」
「……そもそも、あいつらは何を言ってるんだ?イベントだのなんだの……」
「さぁ?何かの妄言か……あるいは何か、彼らにしかわからない暗号か……役に立たないのなら気にすることもないでしょう。行きましょう。こちらの害にならないのなら気にすることもありませんよ。」
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