前哨戦の終わり
砲撃をばらまく、敵の数が一人減ったが、いまだにまずい状況であることは変わらない。
放たれた稲妻の矢を盾にした男の体で防ぐ。
感電した男の体が激しく痙攣するのを腕で押さえつけながら、テンプスの右手が動く。
その矢に対する返礼とでもいうように砲口を差し向け、横方向にむけて砲声を放った。
全六発の不可視の砲弾が下に陣取っている襲撃者に襲い掛かる。
「――ピッピッ」
短い口笛が響く。
これが回避の合図であることをテンプスはすでに二度の砲撃で学習していた。
そして、この砲撃に対して襲撃者たちの行動は、横に飛びのくことであることも理解している。
二人が左に一人が右に。
左の二人のうち、一人は遠くに一人は最小の動きでもって砲撃を躱す。
まるで蓋のように散会した彼らの陣形には明確な意図があった。
その動きには覚えがある――相手はゆっくりと自分を包囲しようとしているのだ。
標的を散らし、致命的な隙を自分に与えるために、一人が犠牲になってもほかの二人がこちらを殺せるように考えられた布陣。
それを上の二人の援護が補強する。
それを食い止めるべく放った砲弾が地面をえぐり、粉塵を巻きあげた。
両端の人間に向けて放たれた横薙ぎの砲弾四発が、彼らを再びひとところに集める。
すでに戦闘が開始してから、一分二十三秒立った。ブースターの限界は近い。
あるいは敵もそれに気がついているのかもしれない、往々にして、強い術というのは長続きしない物だ。
なるほど敵も馬鹿ではない。
残りは五人。
何よりも厄介なのは明らかに上に陣取っている二人組だ。
ほとんど要塞と化した自宅を盾に、こちらに放ってくる攻撃は非常に煩わしい。
そもそも、上を取られているというのが非常にまずい。
上から下に攻撃するのは簡単だが、下から上に攻撃するのは非常に難しい物だ――たとえ、超文明の力を得ているテンプスとしてもだ。
『とはいえ、そろそろ終わらせないとな……』
目を細める。
もう何度目になるのかわからない砲撃で相手の機動を制御する――すでに回避パターンは読んでいた。
斜め上から放たれる稲妻の矢に再び人の盾で挑む。
ガタガタと再び激しい痙攣、そろそろ、彼の体も限界だろう。
防ぐと同時にテンプスは砲撃を放っていた。
即座に自分の家の中にもぐりこんで攻撃をかわすその動きは素早い、もはや慣れてすらいるように感じる。
砲撃を放ちながら、彼は数えていた。
『――攻撃が途切れてから顔を上げるまで0.6秒。』
自分の憩いの場に侵入した不埒者どもが攻撃を見てから反応するまでの時間を。
そして、彼はほとんど完璧にそれを理解できた。
彼の中で清流のように流れる体内の時間感覚は常に一定のリズムで時を刻む、それがずれたことはない。
これもまた、スカラー文明の技を使う上で必要な技術だった。
過去の修練が、彼の体の中で明確な形を作りながら相手の情報暴く。
テンプスはおもむろに引き金を三度引いた。
十六発の砲弾が外壁に激突してけたたましい音を立てる。
その隙を縫うように、下部の三名が息せき切って攻撃を放った。
ごく短時間に練り上げた限界の魔力でもって放つのは盾を貫通し、テンプスを串刺しにできる威力の一撃。
『稲妻の投槍』だ。
稲妻の矢を越えたその魔術は一般的には高度な魔術に当たる。
彼らの扱える中で最も威力のあるその一撃でもって、この戦いを終わらせる。
その意図と共に槍を放とうと、投的の体勢に入った彼らの視界一杯に驚くべきものが映る。
人の体だ。
こいつが先ほどまで盾にされていた人間だと気がついたのは、体同士が激突して、地面に倒れ込んだ時だった。
蹴ったのだ。
上の二人への攻撃の直後、体をくるりと回転させたテンプスは強烈な後ろ回し蹴りでもって、盾にしていた男の体を蹴り飛ばし、
上の二人は何が起きているのかがわからない、が、下にいる味方の悲鳴だけは聞えた。
何かが起きた――そして、それが攻撃のチャンスであることも理解していた。
彼らは今まで微妙な均衡の中で戦っていた。
こちらが攻撃すれば、哀れな標的が反撃する。
それがこの均衡を生み出していた。
下の連中がやられているのなら、奴はその均衡を崩して、攻撃を繰り出したことになる。
たとえ下の連中がどうなっていても関係はない。自分たちの攻撃で殺せばいい。
そう考えて体を起こした彼らが次に感じたのは、頭部を襲う強い痺れと迫りくる暗闇だった。
テンプスは倒れ込んだ男たちに向かって走りながら、ちらりと横を確認する――そこには発射を遅らせた停滞弾子の砲撃にやられ、力なく自宅から転げ落ちる襲撃者二名の姿が確認できた。
『
中指と薬指をごくかすかに動かすことで、0.6秒だけタイミングをずらした的中弾を二発待機させていたのだ。
『これで後三――』
視線の先では、倒れていた三人のうち、ボスかくだろう人間がすでに立ち上がろうとしている――それをさせる程、テンプスは甘い男ではなかった。
ためらいもなく、引き金を連打。
飴のように降り注いだ砲撃が、襲撃者たちの体を容赦なく打ち据えていく。
ボスと呼ばれていた男も、かわしきれたのは二発だけだった。
テンプスが引き金を引くのをやめた時、動いている者は誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます