宵闇の交戦
――これは明らかに、自分を殺すための攻撃だ。
この攻撃の意図は明白だった。
首を絞めて行動を阻害し、さらに脳に酸素を送らせずに意識を飛ばそうとしているのだろう。腕を即座に跳ね上げていなければ今ごろ彼は失神していただろう。
あまりにも慣れた手つきだ、明らかにこの攻撃に精通している。
『アサシンか……!』
内心で舌打ちをする――どうにも、本格的に狙われているらしい。
そんな事を考えながらも、引きずられたテンプスの体は即座に反応した。
自由に動く手に握られたフェーズシフターを即座に反対側の脇に付け、弩の引き金を即座に二度引いた。
ガオン!ガオン!と轟音が響く。
弾種は非殺傷、物体を砕き、人の体を麻痺させるオーラの砲弾が吸い込まれるように真後ろに立っている男の胸に着弾した
敵が真後ろに存在するのは分かっていた。
力が自分の真後ろ、それも縦に並べば完全に隠れてしまうような位置関係から伝わっているのを彼の『秘密暴き』の感覚が伝えていたからだ。あとはその場所に向かって引き金を引くだけでいい。
何も見ずに着弾させたのが予想外だったのだろう、後ろから驚愕の気配が見え隠れした。
首に巻き付いた物体から力が消え、彼の体が地面の上を転がった。
足に力を籠め、急制動をかける。
地面の感触が足の裏に伝わる――数秒ぶりの感覚だ。
煩わしそうに首に巻きついた何かを取り覗いて、彼は背後に振り返った。
そこに居あったのは夜の闇と――数人の人影。
「――どちらさんかな、今日来客の予定はないんだが。」
「……」
「なんだよ、偉くシャイな奴らだな……」
警戒したように距離を一定に保ってこちらを睥睨している、そんな相手をどこか小馬鹿にしたようにテンプスが笑う――内心では全く笑えない状況に毒づきながら。
さっきの二人が本当に彼女の家族でも、偽物だったとしてもあの様子ではマギアはあの二人と確実に戦えないだろう。
そして、審議に関わらずあれが悪意を持ってこの家に侵入しているのはこの連中の動きから明白だ。
『……急いで戻らんと、まずいな。』
彼女を狙う者として最も有力なのは――魔女だ。
マギアが全盛だった1200年前に封印が解けなかったとしても、今――それこそ、この時代になって転生した個体が彼女の封印を破れる可能性はあった。
魔女が彼女たちをよみがえらせた、もしくは偽物を作ったというのなら、そのままにしておくのは確実に危険だ。
彼女を殺すつもりか――さもなければ、別の何かを彼女に強いるつもりなのかは不明だが、オモルフォスの例を見るに、お茶会に招待するわけではあるまい。
そう考えて目の前の襲撃者の戦力を測る。
数は見える範囲で四人――ということは、この手の手合いの常道として、おそらく六人いる。
全身紺に近い色合いの服――夜の闇の中最も周囲に紛れられる色合いだ――でこちらの隙を伺うようにこちらに鋭い視線を向けている。
一見、その手には何も帯びていないように見えるが――そうではないことを彼の感覚器は鋭敏にとらえている。
『――稲妻の魔術、麻痺狙いの攻撃か。』
体をめぐる魔力のパターンが一つの結論を示す――とりあえずこちらのことは知って襲いに来ているらしい。
明確に自分が苦手とする攻撃を放つべく、準備している四人に、隠しているが隠しきれない空気の違和感がまざりあう――やはり伏兵が二人いる。
まるで後ろから弓で狙いをつけられているような緊迫感が空間を支配している。後ろ――つまり、家の中にいる伏兵が自分を狙っているのを感じ取りながらテンプスは腰の格納器からブースターを引き出す。
その色は夜の闇のように黒い。
彼がブースターをフェーズシフターに差し込むのと敵が稲妻の魔術を放つのはほとんど同時だった。
光と共に雷の速度で走る電光は、しかし、突如響いたほとんど一発に聞こえる六つの砲声にかき消された。
『
オーラの塊で出来た砲弾は魔術を構成する魔力に対して汎発性を持ち、魔力を四散させてその力を打ち消す。
「――っち、報告の通りか、妙な武器使いやがって……」
思わず。と言った様子でアサシンの一人が呻いた。
そして、その声を聞き逃す程、テンプスの耳は遠くない。
『――やっぱり僕のこと探ってからきてるな。』
つまり、明確な敵だ。
ならば容赦もいるまい――そう考えて、もう一度引き金を引く。
再び響いた六発の砲声と共に、六発の砲弾が勢いよく弾かれ、中天を駆けた。
空気を切り裂いて突き進んだ砲撃は狙を過たずに種撃⒲社のもとに進む。
それに大した侵入者たちの反応はそれぞれだ。
あるものは見えない砲弾を躱すべく体を翻し、ある物は防ぐために魔力を集めた。
それらの試みは一応うまくいった。
オーラが魔力を弾くように、魔力もオーラを弾くのだ。
だが、代償は大きい。
貯めておいた魔力は一撃で粉砕され、かわしきれなかった砲撃で足がしびれた。
「――ボス!こいつ強ぇじゃねぇか!」
「やかましい!やれと言われたらやるんだよ!」
叫んだ男の声は震えていた――これが、彼らの長い夜の始まりだった。
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