祭りの終わりと事件の始まり
「――正直、最後の槍の一撃を躱せたのはまぐれだと思います、体が勝手に動いたっていうか……偶然です、うまくいかなかったら負けてたのは僕でした。」
「まぐれでかわせるような一撃ではなかったと思いますが……」
「じゃあ、運がよかったんですね、普段の練習でやってることでしたけど、それでも普段なら躱せなかったと思いますし、同じことをしろと言われても無理です。」
「そうですか……おっと、ありがとうございました!」
そう言って、拡声の魔術道具を持つ少女が笑顔でサンケイの元を離れた。
閉会式を待つサンケイ達の前に現れたのはこの学園の広報を担当する『広報部』の部員だった。
外の人間への情報発信を行うこの集団が彼らの前に現れたのは、勝利者インタビューのためだった。
この学園で五指に入る強者への全校に聞こえるインタビューと、その内容を紙面に書き起こしての周囲の組織や市中に流布するのが彼らの仕事だ。
そして、勝利者インタビューが十五分を超えたのはこの学園の歴史でも類を見ない事だ。
それだけ、彼が周囲に関心を持たれているということなんだなぁ。とテンプスはどこか誇らしく考えていた。
彼の中で燻っている不信感はいまだに熾火のようにチリチリと燃えているが――まあ、とりあえず弟の素晴らしい活躍を誉めてやろうと思ってもいた。
「それでは、次に二位になられたテッラ・コンティネンスさんにお話を伺いたいと思います!」
拡声の魔術道具を使った女性がそう声を上げる――すでに時間が押しているとは思うが、それでもインタビューを行うつもりらしい。
「残念ながら二位という結果になってしまいましたが、さすがの戦いでしたね。」
「ありがとうございます、でもまあ……さすがにうちのリーダーには勝てませんでしたよ。」
「あはは、そうですね!さすがはエリクシーズのリーダーという所でしょうか。」
「うーん、それは違いますよ、でも、俺たちもサンケイがすごいやつだって思って一緒に居ますから、それがいろいろな人に知れる形で証明されてうれしく思いますよ。」
そう言って微笑む。その顔は端正な顔立ちも相まって男でも魅力的に見えるものだった。
その顔にほだされたのか、インタビュアーはどこかドギマギとした様子で彼に向けて言葉を続けた。
「そ、それでは、この大会で何かやり残したことなどはありますか?」
「やり残したこと?特には、力は出し切ったので――ああ、いや、一つだけあるかな。」
「ほう?それは?」
「――試したいことがあったんですけど、それが叶わなくて。それはちょっと……不満ですかね。」
そう言いながら微笑む顔にはどこか陰のようなものが宿っていたが――それに気がついた人間は一人を除いていなかった。
『……?』
それに気がついた唯一の人間であるテンプスも、それが何を意味しているのかは分からないままだった。
その顔の意味に彼が気がつくのはこれから六日後の事だった。
「やー結構派手でしたねー」
夕暮れの帰り道、これまた巨大なケーキ――本人曰く弟子の優勝祝い――をバクバクと食いながら、マギアがそう言った。
「ホントにな、最後の一戦に関してはすさまじく派手だった、金曜の食事会はまた叔母さん派手に騒ぐな……」
内心で首をひねりながらテンプスはそう答えた。
「……まだ感じてるんですか?違和感。」
「……まあな。普段のアイツなら、負けてるのはサンケイだったとは思う。」
それは彼の正直な感想だった。
勝てる理由がなかったのだ。
彼の普段の――まるで稲妻を放つような突きならば、あの位置からあの体勢のサンケイでは躱しきれない。
それは兄であり、剣の師匠である彼にはよくわかっていた。
それだけに、あの結果にどこか違和感があるのは間違いない。
それは決して弟の優勝の喜びを曇らせはしないが――不快感は残った。
「それよかいいのか?君、今日はサンケイの訓練日だろう?」
内心の不快感を払拭するように彼が声を上げた。
それは彼女が週に一回行っている、弟への魔術訓練についての言及だった。
彼女がここに残ることになってからというもの、彼女はあの夕暮れにテンプスが言ったことを守るようにサンケイに訓練を施していた。
この時代では禁じられた魔術やすでに失伝した魔術に精通する彼女の陶訓は彼にいい刺激を与えたらしい。
毎週金曜の食事会の席で、弟が語っていた時をテンプスはありありと思い出せる。
「ああ、なんか、いつものメンバーでご飯行くらしいですよ、いいですねぇ、私も行きたかった。」
そう言って不満そうに唇を尖らせる彼女に苦笑しながら、テンプスが告げた。
「行けばよかったのに。」
「フラルさんが威嚇してきたんですよねぇ……ガキに興味はないんですけど。」
「あー……」
まあ、彼女はそう言う対応になるだろうなと笑う。
彼女からすれば弟とのデート……のような物だ。
「……いいのか?」
「ん、まあ、正直、彼は結構優秀ですからね、今でも魔女相手に多少粘れる程度の腕はあります。」
「それはそれは……さすがに我が弟だな。」
「正直、貴方の血筋に何か特別なものがある気がしてなりませんよ――じつは勇者の末裔とか言いませんよね?」
「それなら、首都に本人がいるだろ?娘も息子も国の要職だよ。」
「それは知ってますけどねぇ……」
どこか訝し気にこちらを見つめる少女に苦笑しながら、テンプスはようやくたどり着いた家の扉に手をかけ――
「――マギア。」
「――はい。」
声に緊張がこもる。
それを察したのだろう、傍らの少女が体の中で魔力を回転させ始めた。
鍵が開いている。
今朝確かにしめたはずなのにだ。
それはあり得ない事であり――だからこそ、異常事態だった。
腰からフェーズシフターを引き抜く。
形を弩に変えて、扉の左側にマーク。
もう片側に立つ後輩に目配せを一つ――扉に手をかける。
深呼吸を一つして――勢いよく扉を開いた。
そこにあったのは――
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