告白の結果

 アマノ・テルヨは困っていた――なぜだか急に表舞台に担ぎ込まれたからだ。


『予想外でした――まさか、このようなことになるとは……』


 周囲でまるで太陽が生まれたことを喜ぶようにはしゃぎ倒しているクラスメイトにあいまいな笑みを返しながらアマノは困って――少し怒っていた。


『告白とはもっとこう――ひそやかにやる物では?これでは断れませんし、それに……さらし者ではないですか!』


 そう、彼女は今、なぜだかわからないが急遽決まった『自分に対する告白表明』なるものを聞く会に向かっている間只中だった。


 正直、生まれた時代的にこういった行為に対して。


 いや、別に最近の流行に疎いわけではない、こう言うことをするという噂を聞いたこともないではない。ないではないが――自分がやるというのは予想の範囲外だった。


『が、学園という場所がこのようなことをすることがあるというのは聞いていますが……こんな大勢の前でしますか!?羞恥心解かないのですかあの五人は!』


 彼女は正直に言って混乱していたし、何なら、久々に焦っていた。


 何を隠そう、このような経験がないのだ。


『いえ、告白されたことはありますけれども。』


 それはある、いくらでもある。


 なんなら、もっと淫靡な空間で行ったことだってある。


 情婦になれと言われたことだってあるのだ、そこは問題ではない、もっと恥ずかしいことを強要された事とて一度や二度ではない――まあ、そう言った人間が願った通りの状態で帰ったことは一度もないが。


『私は経験豊富です、ええ、経験豊富!』


 床に入るために口説かれたこともあるし、一歩手前まで行ったこともある、ただ――こんな見世物のようにされるのは初めてだった。


『学生なのですからもっとこう――分別!分別が必要なのでは!?』


 何度も言うが、彼女は基本的に混乱している――それはあるいは、自分の原点にもなる過去にほど近い状況だからなのかもしれない。


『――落ち着きなさい、齢1000を超えて、何をこんなに慌てているのです、いつも通りにあしらって――』


 ともいかない、何せ、あの五人、全校が集まる集会が終わった直後に、堂々宣言したのだ。


『――諸君!我々のことはすでに聞き及んでいる物が多い事と思う!これのせいでやきもきさせたものも多いだろう!我々としても、この冷戦のような状態を解決したいと思っている!よって本日、十二時半に彼女に我々のいさかいに決着をつけてもらおうと思う!』


 ――とまあ、こんな感じだ。


 聞いた時は卒倒するかと思った――そして同時に、この状況の元凶は自分であることも理解して胃が痛くなった。


 当然だがこれは全校生徒が聴き――なぜだか、火がついたように熱狂された。


 周りにクラスメイトが囲み、隠れることも、逃げることもできない。


 状況に流されるままに、彼女はここに居る。


『――ああ、もう!何なの!?』


 自分がやったことであるだけに、他人に当たるわけにもいかない――なんとも、因果応報を感じる結末だった。






「――きたぞ、来たぞ――」


 そんな彼女を遠巻きに見つめて、マゼンダはほくそ笑んでいた。


 全ては彼の計画通りに進んでいる。


 の用意は万全だった。あとはタイミングだ――


『このイベントさえ乗り越えればおれは――』


 ――望んでいた愛を手に入れられる。


 深まる笑みはどこか狂気的で――どこか子供っぽかった。





「麗しの君、君のように美しい人は僕の様に君に吊りあう美しく、気品のある人間と共にあるべきだ、わかるだろう?さぁ、僕の手を取っておくれ。」


「――聞いてくれ、僕はほかの四人に比べて高い知性を誇る、こんな粗忽ものといても幸せにはなれない。どうか僕と共に来てくれ。」


「いいか、よく聞け、俺はこの世の欲望のほとんどを叶えることのできる財力がある。これほど恵まれた状況はない。俺と共来い、この世の贅というものを見せてやろう。」


「こんな男どもにあんたは守れんだろう、小石一つでその辺に転がりそうなやわな連中だ、あんたにまとわりつく虫どもを追い払えるのは俺だけだ、さぁ、俺ともに来い。」


「ぼ、僕は……あなたに僕の作り出すものの到達点を見ました、その……どうか、僕の手を取っていただけると……ともに、作りうる最高の美を作りましょう。」


 五人の告白はおおむねこのような内容だった。


 一人が発言を行うために食堂の机をくみ上げて作られている台座に上るたび、聴衆が息を飲み。一人が告白を終えるたびに黄色い歓声が上がった。


「「「「「さぁ、答えを」」」」」


『そう言われましても……』


 正直に言ってどの告白も胸に来るものはない。


 彼女にしてみれば、どれも必要のない物だった。


 美しさに意味を感じたことはない、ただ、自分と他人の違いを再確認するだけだ。


 彼程度の知性の持ち主なら何人もいた、気にするほどのものではない。


 財力などなくても問題はない、あって得をしたと思ったこともない。


 彼の武力などそれこそ何の役にも立たない、転生者の方がはるかに強い。


 美術品に自分を使われるつもりはない――もうその手の話にはこりごりだ。


『そうですねぇ……まだしもましな人間と言えば――』


 一人いたが――それは別の代行者の相棒だ、自分のそばに居る人間ではない。


「――私が選ぶのは――」


 そっと口を開く。


 断りの言葉がのどまで上がってきた時だ。


「――アマノ!あぶない!」


 叫ぶ声と共に何かがアマノの前に立ちふさがるように前に立ちふさがり――


 ガオン。


 と空気をかみ砕くような音がして、空中で何かがはじけた。

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