単純な事

「――転生の条件ですか。」


「おん。同性でなければならない――みたいな制限でもあるのか?」


「んー実のところ、性別は問題ないんですよね、ちがっても。」


「ほう、「は」ってこと条件自体はあるのか。」


「ありますよ、さすがにのべつ幕なしに転生できるわけじゃありませんから。」


 いつも通りにケーキを1ホールを魔術で浮かせながら食べる超人じみた真似をしている――なぜこれで太らないのだろうと常々疑問だ――マギアにテンプスは昨日の晩に至った疑問を訪ねた。


「性別は関係ないのか?」


「重要ではありますよ、だから、基本的に私の担当する『逃れ』は同じ方が確率的に高いです。」


「ふむ?」


 先ほどの話と違う――と思ったが、先ほどのセリフでは彼女は『問題がない』と言っただけだ、『関係がない』とは言っていない。


「最も重要なのは、『魂の相似性』です。」


「相似……似てるかどうか?」


「ええ、どんなものでもそうであるように、世の中には『似たようなもの』があります。」


 そう言って、彼女は自分の食べているケーキを指さす。


「これはショートケーキというそうですね。」


「らしいね、あんまり食わんからわからんけど。」


「そして、昨日食べたのはチョコレートケーキです。」


「うん、五分で食ったやつな。」


「あれらは同じものではありませんが、同時に、『ケーキである。』という部分においては同じものです。」


「ふむ……」


 わかってきた、つまるところ、あの二つには『ケーキである』という相似性があるのだ。


「このケーキと昨日のケーキは形が同じです。が、色が違います、そして、中身のスポンジは同じものですが、同時に上に載っている物は別です。」


「ふむ……そして、ケーキであるという部分では同じ。」


「です、この場合――ああ、たとえですよ、別にケーキは転生しません――このケースは『昨日食べたケーキの転生体である可能性がある』と、代行者は見るでしょう。」


 「ふふふ……あなたは昨日も今日も私の栄養になりますよー?」などと宣いながら、後輩はケーキを食べる。


 その様を見ながら、頭の中で出来た転生の流れを見つめて、テンプスは理解した。


 つまるところ、『本質的な部分において似ている存在になる』のだ。


 彼も覚えがあった。


 美貌を誇る魔女は学園のアイドルに。


 人の功績を奪った詐欺師は女をだますたらしに。


 なるほど、これが相似性なのだろう。


「君らが代行として、転生体を追うときもそう考えるわけか?」


「ええ、私があの糞女――あーオモルフォス・デュオでしたっけ?あれを追うときもそうしました。」


 聞けば、彼女は『美人がいる』『異常なほど頭のいい天才がいる』と聞けばそこに向かい、それが魔女でないか確認して回っていたらしい。


「私が本気出せば、どこでもすぐいけますから。」とは、本人談だ。


「で、ここで見つけたと。」


「ええ、お祖母ちゃんから聞いた通り、質の悪い女だったのですぐにわかりました。」


 そう言ってどこか苛立ったような顔をしたマギアを一瞥して、テンプスは話を変えるように鼻を鳴らした。


「しかし……ケーキが転生?」


「子供はそう考えません?落とした食べ物に謝ったり……しませんでした?」


「あー……あったな。」


「でしょう?すべてに魂が宿るって考えもあります、子供の見てる世界の方が魔術的には正しいなんてことはたまにある話ですよ、なんだって単純な方がいいですから、複雑にするといろいろわからなくなりがちです。」


「……確かにな。」


 ふと、昨日の晩に考えていたもう一つの議題が頭をよぎった――そう、簡単な事なのでは?


「簡単……単純……わかりやすい――当然のこと。」


 そう、もっと単純なのではないか?


 てっきり自分はマゼンダが自分の部屋に入り込むために酔うう印を雇ったのだと思っていた。


 だが、それではいくつかのことが分からない。


 フェーズシフターを狙ったのは分かる、あれは自分の再生品の中でも、五指入る傑作だ。だが同時にならばなぜ今の今まで狙ってこなかったのか?という疑問は残る。


 休校中だったから?だとしたら、なぜ何日か放置した?用務員と金で折り合いがつかなかったのか?だとしたら、何があって合意に至った?


 込み入っている――が、もっと単純だとしたら?


 マゼンダは盗みに入ったのではない――手紙を見て、部屋に入ってから盗もうと思ったのでは?


 そもそも、マゼンダが一体どうやってあの連中の密談場所を知った?


 単純に考えるのなら――知らなかったのでは? 


『―――だとしたら、手紙をばらまいたのは――』


 もっと単純だ――自分でやってばれたくなかった。だから、自分じゃない奴にやらせた。


 鍵の謎は?それも単純に考えるなら?


 箒は?夜の襲撃は?


『――これか、これが支流だな。』


 彼はようやく、彼を悩ませるパターンの流れ――愚かしいほど短絡的な思考のパターンを見つけた。


『――となると、アイツと老婆の相似性が知りたい、そこにマギアの攻撃を消したヒントがあるかもしれん。』


「――なあ、マギア。」


「なんです?」


「僕ちょっと学校さぼっていいかな。」


「ふむ?」


 片眉を上げてこちらを見つめる目は面白がる光と信頼が見えた。


「貴方が必要だと思うなら、休めばよろしい。教員はだまくらかしておきます。」


「悪い、研究個室に居る。なんかあったら呼べ。」


「はい――なに調べるんです?」


「――人だ、いつだって人が重要なんだよ。」

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