鬼が出るか蛇が出るか

「――これで全部か?」


「おそらく。というかそうであってほしいですね。」


「だなぁ……」


 そう言いながら二人は机の上に並べられた『いたずら』を眺めてつぶやいた。


 結局あの後、周囲を探せば、さらにいくつかの「いたずら」を見つけた。


 それはなぜか知らないが彼の部屋に落ちていたやたらと高そうな物品であったり。


 いちばん殺傷力が高かったのは――たぶん椅子の後ろ脚にかすかな切れ込みがあったことだろうか。


 別にこれだけで椅子が折れたりはしないが、これがミスなのか、あるいは何か別の計画の産物なのかは不明だ。


 そして、おそらく未遂として、机に手をかけただろうパターンの乱れを見つけた――まあ最も、開くのはおろか触れた瞬間に前後不覚にされたのか、机の上に体の一部をぶつけたらしき形跡があったので失敗したようだが。


「……なんですこれ。」


「知らん、知らんっていうか……」


 未だかつてないぐらい程度が低い。


 ゴミだの、なんかよくわからない高価な品だの……いったいどういう意図でこんなことがされてるのか、テンプスにはさっぱりわからない。


「なんだと思う?」


「さぁ……?」


 彼らこれまで追ってきた事件に比べて被害が乏しいのも相まって、何を調べればいいのかもわからない――何がしたいのかわからないのだ。


「犯人がやってるんですかねぇ?」


「昨日のか?それはないだろう、殺しに来て次にやる事が部屋に入ってゴミ詰めるのか?」


「ないですよね。」


 同じ気持ちだったのか、マギアも渋い顔でうなずいた。


「ない。やるなら毒ぐらい盛るだろう、ここには劇物もある。」


「別人がやったとか?」


「ここのカギは僕が持ってるこいつ以外、学校の管理だ、あの時間、鍵は持ち出せないし、学校の警備をやすやす掻い潜れるような奴が昨日だけで3人いるってことになる、王宮ほどじゃないがここにはそれなりの貴重品もある、防犯も結構なもんだ、あの魔女の館と比較してもそれほど差はない、僕や君じゃないんだ、そうやすやすは入り込めん。」


「となると――昨日の犯人がこんなガキがやるような嫌がらせをしたと?」


「……いや、たぶん、『鍵を開けて開けっ放しにしていった奴がいる』んだろう。だから後の連中は部屋を荒らせた。」


「複数犯?」


「だと思うぞ、」


 顔を顰める――常道で考えれば考える程意味が分からなくなってくる。


「……とりあえず、返す物返しますか。おいててもあれですし。」


「この妙な高級品も司書さんに渡しとこう――なんなんだこれ。」


「ああ、すさまじく昔――800年ぐらい前でしたかね……その辺で使われてた筆記具ですよ、携行用の筆でしたかね。」


「……ふーん……?」


 いよいよ、なぜここにあるのかさっぱりわからない。


 と言った顔で、テンプスは首を傾げた。






「なんか司書さん困ってませんでした?」


「あの人、基本的にドジだから、貴重品預けられたくないらしいんだよな。なくしそうで怖いらしい。」


「……あれ、高いんですけど大丈夫ですかね。」


「大丈夫だろ、心配してるとこはしょっちゅうなく見るがなくした話は聞かんよ。」


 あれで、あの人の能力が並外れているのは彼がよく知っている。


「それより、状況を整理しよう――僕らが昨日部屋を出たのが8時45分この時間は生徒が校門を通れるぎりぎりの時間だ。」


「はい。」


「通常、学校側の管理してる研究個室のカギは5時30分に学生課に保管されて以降基本的にそこから動かない。」


「らしいですね。」


「ということは、部屋に入れた時点で、犯人は間違いなく学生課に侵入してる。」


「そうなりますね。」


「侵入して――やる事があれか?」


「……そう、なるんじゃないですか。」


 最後の部分だけは自信がなかった。


 かなり入念にしらべ上げた、穴はない――と思うのだが、どうしても、昨晩の一連のもめ事と今朝の嫌がらせがつながらない。


「そもそも、なんだって『六人』も僕の部屋に入り込んでるのかだ。」


「六人……ああ六人ですね。」


「下手すると七人だ――僕の部屋にそれぞれ嫌がらせした五人と僕の机に触ろうとして失敗した奴、あとは……鍵を開けた奴か、これはたぶん昨日の襲撃犯だと思うが、いまいち固定はできんな。」


「ふむ。」


「――マギア、悪いんだが頼みがある。」


「聞きましょう。」


「もっかい僕の研究個室を調べなおしてくれ、何も出ないなら何も出ないでいい、後、僕の机を調べてくれ、誰が触ったの知りたい。」


「論文のもともとの持ち主は良いんですか?」


「いい、たぶんあの五人の誰かだ――それより、誰が僕の机に用があったのかが気になる、残りの五人ならいいが、昨日の襲撃犯なら思ったよりこっちのことを知ってるのかもしれん、それだとまずい。」


「ふむ……了解です、そちらは。」


「つまらん授業に出て、周りから怖がられながら、昼の決戦の準備だ。」


「……大丈夫ですか?襲撃者が彼女じゃない根拠ないんですよ?」


「そこは問題ないだろう、僕の考えが正しいのなら、今の状況はの手を離れてる。」


「それはそれでどうかと思いますけどね。」


「まあな、とはいえ、想定外の事態が起きて、こちらにも被害が出てるなら、相応の対処をせんとな……」


 言いながら、テンプスはゆっくりと時計を撫でた――時計の針はすでに合わせてある。


 後は鬼が出るか蛇が出るか――


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