調査結果
『――なるほど?ずいぶんと派手に目をつけられたな……』
放課後、いつもの研究個室に、久々に一人で籠ったテンプスは目の前に広げた自信の調査資料を眺めた。
嫉妬と猜疑渦巻く厄介な授業時間を終えて、方々から聞いたことが正しければ、彼女に懸想している者の内、五人はかなりがっつりとお偉方の子供だ。
『世間的に著名な役者の子供、大企業の息子、著名な芸術家の息子、そして市長の息子兄弟……うーん……』
なんともそうそうたる面々だ、これが親は全員市議会の議員連中だというのだから、さらに驚きだが。
『……まさかと思うが……これ、五人とも前に懸想した奴の転生だとか言わんだろうな……』
遠目で一目見た時は魂が二つに分かれているようなパターンの変調は見られなかったが――表質化していないだけで、魂の奥には残っていてもおかしくはない。
『マギアに見てもらうか、確証が欲しい。』
魂が見えるらしい彼女に頼めば確実だろう。こちらで調べる方法がないでもないが――
『下手に絡まれると面倒だからな……金つまないでも権力直通は質が悪い。』
ついでに言えば――別段、彼らは何かしら悪いことをしているわけではない。
確かに彼女の捜査を邪魔しているかもしれないが、それはあくまでも彼女の都合だ、ついでに言うなら彼氏募集なんて噂を流したのも彼女だという。
『できれば、穏当に片が付けたいんだが……』
まあ無理だろうな……と、ため息を吐く。
『かなりゾッコンらしいしなぁ。』
げんなりと眉を顰める――そう、男子生徒達のアプローチはかなりこう……執拗らしいのだ。
「マギアさんは一回生の女子の相談とかちょっかいかけて来た生徒への制裁とか先輩とお昼行ったりとかで知らないと思いますけど……結構すごいんですよ、最初の頃はトイレまでついていくんじゃないかってくらい常にべったりだったんですから。」
そう語ったのはドミネ女史だ、再び聞きたいことがあると声をかけると彼女は一も二もなく飛んできてくれた。
「そんなに?」
「ええ、三日目でアマノさんが本気で怒って以降だいぶなりは潜めましたけど。」
「そりゃあ、トイレまでついてくる連中は嫌だろうよ。」
そっと内心で合掌しながらテンプスは口を開く。
「……何でそんな騒ぎになってて、僕の耳に入ってないんだ?弟が知らせてきそうなもんだが……」
「ちょうど生徒たちの前でそう言うことやり出したのが剣術部の事件の終わり当たりだったんですよね。ほら、あのあたりで先輩たちいろいろ忙しかったし――」
「あー……」
なんとなく察した、自分とマギアの耳に入ってこなかったのは時期が悪かったのだ。
ジャックを殴る準備中は周辺を気にする余裕がなかった、終わってからは、剣術部の動向に目を配ったり、『死刑台の悪魔』事件のせいで、そもそも生徒との接触をしていなかった。
後輩たちにも巻き込まれても何かと思って基本接触していない、弟にもだ、あの昼の一幕はかなり久しぶりの接触だったと言っていい。
マギアの方に行く女生徒も、この手の世間話をしに来ているわけでもないのだろう――それに、そう言う世間話をしそうなタイミングだろう、昼休みだの放課後だのと言うのは大体自分と一緒に居た。
なるほど、と思った。
どうりで自分が知らないうちによくわからないことが起きているわけだ。
「――ちょっと待った、っていうか、この騒動、剣術部の騒ぎが収まってから始まったのか?」
「んーいや、聞いた話だとちょっと前って言ってたので――そうそう、実験室が勝手に侵入されてるって話が出回ってからですよ、ただ、アマノさんからはそれ以前も接触があってそれがとうとう学校でも……って感じって聞きましたけど。」
「ふむ……?」
残りの五人は――
こちらは逆に、資料がいまいちそろわない。
どこの誰かは分かるのだが、取り立てて目立った要素がないのだ。
確かに、五人が五人とも成績優良であるし、悪いうわさも聞かないが――どうにもつかみどころがない。
地味――とか言う次元ではないのだ、まるで隠しているかのように細かい情報がつかめない。
『こっちはこっちで不気味だな……パターンだけ見ると、サンケイよりチョイ下ぐらいの実力はあるはずなのに、何でここまで『平均的な能力』のふりをしている?』
何かが不気味だった、隠す必要があるような経歴にも見えないのだが……
『こっちも一応マギアに見てもらうか……これで10人全員転生体だったらどうしようか……』
どこか、げんなりとしたように今日一日の収穫物を眺めたテンプスはどこかめんどくさそうに茶を啜った。
『おまけに……どこの誰だか知らんが、婚約者のトトカルチョなんぞやってるやつもいる。』
要するに誰がアマノ女史の心を射止めるか。という悪趣味な賭けの材料にこの10人も――ついでに自分も使われているということらしい。
『質の悪いことを……』
そっと天を仰ぐ、いつも通りの木目の天井は世界がどれほどいかれていてもいつも通りにそこにある。
それに嫌に安心するのは、面倒事に巻き込まれすぎたのだろうか?
ゆっくりと息を吐きながら現実に辟易すること三十秒、どうにかやる気を取り戻して回転し始めた思考が思う――
『しかし――』
聞けば聞いただけ、彼女に聞いた来歴の事件に似ている。
まるで意図的に似せたようにだ。
「……偶然か……必然か……」
資料を叩きながら考える――もうじき、夜の帳が落ちる
家に帰る時間だな、と思いながら窓の外を見る――次にこの部屋から夜を見るときは夜道の心配をせずに見たいなと思っていた。
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