またしても巻き込まれ
「――で、何の用でここに来たんです?」
新たに持ち込まれた――本当にどこから出しているのだろう?――椅子に腰かけたマギアは問いかける、少々脱線したが彼女がここに来た理由があるはずなのだ。
「こちらに一匹、私の契約者が追いかけている「厄介者」が逃げ込みまして、ここで活動する許可が戴きたいのです。」
居住まいを正してそう告げる少女にきょとんとしながらこの学校の代行者たちはこたえる。
「許可と言われてもな……」
「別になにも管理してませんしねぇ」
「強いて言うなら、この学校の生徒に迷惑をかけないでくれってぐらいか。」
「私は別にいいですけどね。」
「……また、ドミネ女史がひどい目にあってもいいと?」
「む……」
剣術部の一件で手痛い傷になった少女の名を出せば、彼女はどこかばつが悪そうに顔を曇らせた。
「訂正します。学生には可能な限り被害を出さないように――まあ最も、相手が学生ならその限りではありませんが。」
「ん……まあ、そんなもんだ、生徒に被害がないなら好きにしてくれ、罪人なら――罪を償わせるといい。」
「――ありがとうございます、ただその……その学生の皆さんに手を出さないというのは少し遅かったかと……」
「――何をした?」
テンプスの目がほそまる、剣呑な雰囲気が彼の体から溢れた。
彼女の力に関しては彼にとり、かなり、未知数な部分があった――彼が理解できないところで、何か対処できないことが起こっているのではないかという警戒が彼に剣吞な雰囲気をまとわせていた。
「いえ……その……ちょっと……やらかしていしまいまして。」
「何したんです?魔力は感じませんでしたけど。」
「その……すこし……」
「少し?」
「モテてしまいまして……」
「――はぁ?」
心底不思議そうな声が二人から上がった。
実際、彼らの心中にはクエスチョンマークが満ちていたし、真剣に悩んでもいた。
何かの聞き間違いだろうか?
それとも、彼女の国だと何か違う意味があるのだろうか?
幾度か思考が巡り、答えが出ない問いを幾度か繰り返した彼らが辿りついた結論は――
「……もしかして私たち今すごい自慢されました?」
「……されてんのかな。」
これだった。
渋い顔でのひそひそ話が彼女にどう映ったのかは分からないが、それでも何か不穏に思ったのだろう、慌てたように。
「あ、ち、違いますよ!自慢とかではなく……」
そう言いながら彼女が語った内容は以下のような内容だった。
「――その、今回の「厄介者」は非常に……美しい女性に執着があるらしいのです。」
「――ほう?」
眉が上がる――なるほど、どうやら「仕事の方」からくる悩みであるらしい、と考え始めた。
「それが原因で冥府に落ちた存在なのですが、何かしらの方法で冥府からまろび出たようなのです。」
「ああ、「抜けたほう」ですか。」
「――何それ。」
「ん、ああ、先輩は初めてでしたっけ、この世に現れる転生体や、魔女のご同類共にもいくつか種類があるんですよ。」
「ほう。」
そう言って、教師の様に講義を始めたマギアの発した言葉を興味深そうに聞くテンプスにマギアが続けた。
「今まで私たちが相手にしてきたのは『逃れ』――要するに、冥府に行くべきところを何かしらの術か、はたまた何かの奇跡か、欲深さの影響か、理由は不明ですが冥府行きを『逃れた』連中です。私が持っている――と言うか、サンケイに渡してる『赤の制約』は、これを追うためのせいやくのしょですね。」
「ほおん?」
「で、彼女は『抜け』――ようは冥府を何かしらの方法で『抜け出した』連中を追う『代行者』なんですよ。」
「なるほど?」
「まあ、明確に区分が分かれているわけじゃなく、魂を送る分にはだれがやろうが構わないんですけどね。」
そう言って肩をすくめる傍らの少女に怪訝な声が漏れた。
「……ならなんで、本が分かれてんだ?」
「『契約者』が違うんですよ、私の――『赤の制約』は『逃れ』の『黒の誓約』には『抜け』の被害者が集い、本を介して、契約できるわけです。」
「ふぅん――ってことは、もしかしてタロウ何某さんも君の担当か?」
「あの人は――ちょっと枠が違うんですよね、罪人ではなく被害者が、特定の条件で転生を果たした人なので。代行者的に言うなら『送り』が必要な人なんですよ。」
「ふぅむ……また別と。」
「ええ、たぶん、『送り』のせいやくのしょの代行者が魂の時の彼を見つけられなかったんでしょう、いろいろ動いてると補足しきれませんから、ついでに言うなら転生済みなので厳密に言うともはや『送り』の担当でもないです。」
「ふぅむ……面倒な仕組みだな。」
「法律や決まり事ってこういうものでしょう?」
そう言って笑う少女に苦笑を返して、アマノ女史に視線を向ける――どうにも知らないワードが出てくると脱線が著しい。
「――失敬、君の話を続けよう。」
「あ、はい……その、相手をおびき出すために私をおとりに使おうと思ったのです、その……どうやら殿方に、私は美しく見えるそうなので。」
「ふむ?」
「それで……その殿方を吊ろうと考えたのです。それでその……恥ずかしながら、こっそりと、私が……お、お付き合いする殿方を探しているという噂を流したのです。が――その……思ったよりもですね、数が……」
「はぁ……ん?」
「お、思ったよりも多くの殿方が……お付き合い相手に名乗りを上げてしまいまして……」
「あー……」
ただ、まあ、考えられない話ではない、何せ、呪い――ごく一部らしいが――で絶世の美女になったマギアと正反対に見えるような少女だ、それは大層美しいわけで……
「……考えが甘いんじゃないですか?」
人生を呪いで壊された人間としては思うところがあったのだろう、どこかとげのある言葉がマギアから飛んだ。
「あうぅ……それはそうなのですが……まさかこんなに集まるとは……」
そう言って顔を下げる彼女は、真実何の想定もしていなかったらしい、心の底から困った顔で所在なさげに体を縮めている。
「で……何人に求婚されたんだ?」
「……じゅ、」
「じゅ?」
「じゅうにんです……」
「じゅ……」
流石に想定外だ――せいぜい片手の指で足りる程度かと思っていたのだ。
「その……申し訳ありません、ここまで大ごとにするつもりは……」
テンプスは事ここに至って、ようやく彼がなぜ昨日決闘まで挑まれたのか理解した。
要するに――このよくわからない気の抜けた作戦の影響だったのだ、死刑台の悪魔などと呼ばれている人間が美少女と良い仲になるかもしれない事への嫉妬からくる攻撃性だったのだ――げに恐ろしきは嫉妬と天然だ。
『……これはまた……』
まったく意図していない形ではあるが――どうやら、自分はまたまきこまれたらしい。
傍らの少女に視線を送りながら、険しくなる顔をテンプスはもう隠せそうもなかった。
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