アマノ・テルヨ
アマノ・テルヨ。
今年から行われている『交換留学』なる制度でこの学園に来た遠き「東の国の出身者」だ。
成績は優秀、品行方正、東の国のこちらの法則によらない魔術の扱い方でもって戦うタイプで、捕縛や無力化の術に長ける。
見た目は――あの正門での一揉めで見た通りにかなり良く、まだここにきて半年もしていないのにもかかわらず、すでに『ファンクラブ』なる物ができている。
人品もよく、困っている人がいると見るや問題に飛び込んでしまう癖があるらしい。
前回の剣術部の一件でも、表には立っていないが様々な生徒の相談に乗り、多数の生徒の心の安定に一役買ったらしい。
「良い子ですよ?」
そう言って、テンプスに情報を手短に話したドミネ女子は彼に視線を向ける。
「ふぅむ……」
「ファンクラブなんてそれこそ来た次の日には百人ぐらいいましたし。」
「あー……そう……なんていうか……」
「馬鹿だなぁって思ったでしょう?」
「いや……うん、まあ。」
「大丈夫ですよ、女子はみんな思いましたから!」
「そう……」
どういう学年なのだろう下の学年は?
効けば聞くほど不思議な一回性の話を聞き、かつての自分の一回性の時を思い返そうとして、いじめられた経験しかなかったことを思い返してそっと記憶に蓋をして、現実に目を背ける。
「まあ、最も先輩のファンだって公言した一件で多少人気に陰りが出たっていう話も聞きましたけど……一途なところがいいって言ってなんかファンが増えたって話も聞いてるのでよくわかんないデス。」
「そうか……ありがとう。」
「はい、また何かあったら聞いてください、できる事なんてちょっとですけどできることなら手伝いますから。」
「ああ、うん、また何か聞くかもしれんけどその時は頼むよ。」
「はい!それでは、また何かあったらマギアに伝えてくださいね!」
そう言って走り去る後姿を見ながらそっと胸をなでおろす――あの時の礼が空元気でなかったことが素直にうれしかった。
ところで、彼女は東の国出身――そう、つまりタロウ何某君と同じところからきているわけだ。
過去は一切かかわりのなかった『遠き彼方の国』である東の国は、しかし時代の進歩と技術の躍進によって『結構時間のかかる旅行先』になっていた。
貿易はそれなりに行われ――なお、その交易路を持っていたのはソルダムの一族だ――こちらの技術の流入とあちらの技術の流出もそれなりにあった。
結果として、この国と東の国はそれなりに友好な関係を築いて――その上で、去年、ソルダムの肝いりで東の国の唯一の高等教育機関との提携が済んだ。
その結果、かの国の中からできる人間とこちらの学校のできる奴――あれは奴でいいだろうとテンプスは思っていた――を技術交流の名目で取り換えて、一時的にこの国の学問を学ばせよう、という企画が今年から始動した。
その結果、この学校に来たのが彼女だった。
「実際、悪い噂は聞かんな。」
そう言いながら茶を啜っているのは黒い髪をぶら下げたタロウキビノ――いやさ、キビノタロウだった。
何でも聞けば、彼らの国では姓が前、名が後ろに来るのだという。
「こちらに来ているのだから、こちらの流儀に合わせるべきかと思った。」
とは、当のキビノ氏からの一言だった。
「ってことは、あれは転生者とかでは?」
アマノ女史の髪の色と名前から、ふと思い立って呼び出したこの英雄との放課後の一幕の主な議題はこれだ――これまでの二度、過去から来たものによって大ごとになっている彼からすると、これは最も知っておくべきことの様に思えたのだ。
「ない……とは思うがな。」
歯切れ悪く答えるキビノ氏――そう言えば、転生後の名前を聞いていない――に胡乱な視線を向ける。
「ずいぶんとあやふやだな。」
「……正直わからんのだ。」
「わからない?」
「うむ、基本的に、ただの人のように見えるのだ。ただ……何か違和感がある。」
「違和感。」
「うむ――なんというかな、ふと……それこそ本当にごくまれにどこか転生者に特有の――『魂の古さ』とでも言うべき違和感があるようにも思えるのだ。」
「ふぅむ……?」
首をひねる。
話を聞くだに不思議な女だ。
『何かの術で転生者であることを隠してる?マギアが反応しなかったのはそのせいか……?』
いや、それなら、あの目ざとい後輩のことだ、何かしら違和感に気づいてそれを起点に自分にあの娘に会わないようにこちらに迫っていただろう。
『彼女でも気づけない程の魔術――いや、それなら僕が気づいたはず、それだけの大がかりな魔術でパターンが乱れないはずないしな。』
だとしたら――
『――転生者の彼女と、転生者じゃない彼女が同時に居るってのか?いや、それなら、やっぱり、パターンが変わるはず……?』
何をどう考えてもわからない彼女だが、今の段階で確かなこともある。
何かがあるということだ――騒動の種のようなものか、それとも個人の問題程度の物かはわからないが、何かはある。
「……まともな奴には好かれないか……」
鼻で笑いながらかつての一言を思い返す――どうにもあの一言が正しい事ばかり証明されるなと、苦笑した。
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