不満
「――結局、初版本だったんだよ!」
「ほう……?」
テンプスの家の裏、妙に広い庭ともジャングルともつかない場所で珍しく弾んだ声を上げたテンプスをマギアは目を丸くして眺めていた。
「爺さんの本は何回か改定されてた、実証されてない理論だとか、そもそも魔術的じゃないとか……まあ、いろいろな物言いがついたんだが、まあ、それは今はいい。重要なのは改定されたことがあるってことだ。」
そう言いながら彼は目の前にある巨大な敵と格闘していた。ひどく硬度があるそれはなかなかに頑固だ。
「改定された項目は始めっからなかったように扱われてたけど――これが必要だったんだよ、いやー思いつくべきだった、僕が持ってたのは二版だったんだよ、爺さん改定荒れた本は嫌いでな、よく捨ててたんだ。」
「ほうほう……」
「でもよかったよ、司書さんが初版本持ってて、今度お礼言いに行かないと……いやーようやく話が前に進む!」
「ほうほう――で、何で石彫ってるんです?」
怪訝そうな顔をしながら、マギアがそう尋ねる――そう、彼は今、どこから持ってきたのかわからない非常に巨大な一枚岩を必死に彫り続けていた。
「……家に帰ってきてみれば何やらカンカンカンカンうるさいなと思って身に来たら……なんです、呪われました?」
「馬鹿いえ、君にでもないのに呪われるわけなかろう、さっきも言ったが、装備の目途がついたんだよ。」
「……石で?」
「石っていうか……溝で?」
「……?」
心底、わからないと言いたげにマギアが顔を顰めた、当然だろう、この説明だけでわかるのは彼の祖父ぐらいだ――これが、彼の悪癖だった、興奮するとどうにも説明が分かりにくくなる。
「あー……えー……ごめん、どこから説明したらいい?」
「たぶん全部。」
「ん-……要はさ、爺さんの本に書いてあったんだよ、望んでたことが。」
「まあ、それは聞いてて分かりましたけど……つまり材料のめどがついたんですか?」
「ん、ああ、いや、違う違う。僕が見つけたのは『材料を作る装置の代替品』だよ。材料はこれから作る。」
「あー……何となく理解しました、まさかそのでかい石の板で戦うのかと……」
「神官はそう言うのもいたらしいけどな、さすがにもろいよ、ジャックの魔剣と打ち合える代物じゃなきゃならん。」
「……いたんですね、石板で戦う人。」
「強かったらしいよ?」
「……なんかそっちに興味惹かれてきましたけど、ま、話を戻しましょう――それ、なんです?」
そう言いながら、指をさすのは巨大な石板だ。
立てれば自分の背丈を優に超えるほどの高さのその石板は厚みもい百科事典ほどあり、魔術なしでどう運んだのか想像もつかない。
「さっきも言ったろ、材料を作るための――装置だよ。」
「石板がですか?」
「そう、正確に言えば――この溝が。」
そう言って、彼が彫っていた溝を見せる――問いいても
今はただの溝だった。
「なんですこれ。」
「古い時代――最盛期より前の時代のまだ無名だった時代のスカラーの装置だ。こいつを適正なパターンと流れ、速度に従って使えば、あらゆる物が作れる。」
「――これで?」
「これでだ。」
再び、まじまじと石板を眺める。
どう見たって、それほどたいそうな物には見えないが……
「ホントにできます?」
「できる。少なくとも爺さんはそう信じてたし、爺さんが信じたのなら僕に疑う理由はない。」
断言する。その言葉にこもった思いは自分が祖母の名を口にする時と同じものであるのが分かったから、マギアは何も言わなかった。
「……わかりました、でもこれいつできるんです?もう三週間内でしょう?」
「だから今日中に」
「――待ちなさい、また飲みましたね?」
「飲んでないよ――一日くらいならどうにかできるってだけで。」
「……はぁ……」
あきらめたようなため息とともに彼をの真横に並ぶように、マギアが石の前に立った。
「これ、図面とかあるんですか?」
「へっ、ああうん、一応。」
そう言って見せて来た図面を数分うんうんと見つめて――突然指から閃光を発した。
「――ちょ!」
「これが一番早いですよ。」
「えっ、いや、これ、おまえ……」
絶望したように顔をゆがめるテンプスに不満げなマギアが口をとがらせる。
「なんです?」
「お前これ深さとか長さとか、いろいろあるんだぞ!?」
「だからあってるでしょう?」
「……へっ?」
首をひねりながら、深さを物差しで測る――あってる。
「……どうやったの。」
「土の魔術で深さを探って、必殺技で削りました。」
「お、おう……?」
「驚きすぎですよ。」
「いや、あー……」
「言ってくれれば手伝ったのに。」
「いや、ほら、君に結構重労働させてるし……」
「あの程度で?全世界に逃げてる魔女を探すのの何分の一の労力だと思うんです?場所だってあなたが見つけてるのに。」
「……あー」
「いいですか先輩、貴方に私がどう映ってるのかは知りません、確かに、私は魔女の館で不覚を取りました。信用できないのもわかります――只ね、この前も言ったでしょう?」
そう言って、彼女はつまらなそうに言った。
「――信じてください、私は九人目の聖女の最後の弟子、あの人に育てられた「魔法の継承者」です、この程度のこと、何とかします。」
信用されないことにすねるように彼女は作業を続けた――彼が、一夜を通して行うはずだった作業は。わずか1時間足らずで終わった。
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