信用
「――何故だ!」
叫ぶ、拒否された理由がわからなくて。
「わかるだろう!あいつは逃がしていい人間ではない!」
「そうだな。」
認める、過去に自分にやったことと言い、女生徒への暴行と言い、彼を野放しにしていい理由などない。
だが、彼は意見を変えるつもりはなかった。
「あいつを止めるには力がいる!あいつが奪ってきた魔術の道具によって蓄えられたものを超える力が!それがあるのは俺だけだ!」
「かもしれん。」
そうだろう。とも思う。
あの男の魔剣だけでも脅威だがあの家にまつわる数々の話が正しいのなら相応の魔術的道具を持っているだろう。それを止められるのがオーガを叩き切った『伝説の剣士』だというのもうぬぼれではあるまい。
だが、彼は意見を変えるつもりはなかった。
「だから、俺があいつを殺す!」
「それは許さん。」
それだけは許すわけにはいかない。
「――なぜだ!」
「これ以上、あんたの人生をあいつに浪費させたくない。」
「―――ッ!?」
驚愕に目を見開くその姿は、ほんとにその一言を予想していなかったのだろう。
「あんたの人生はあいつに奪われ倒したんだろう?なら、ここらで終わりにするべきだ。」
「……それはお前に心配してもらうことではない。」
「そうかもしれん、ただ、僕はそう思うし、あんたが復讐を強行するのなら僕はあんたを止める。」
彼の心からの言葉をそれでもと復讐者は首を振る。
「――俺のせいなんだぞ!」
血を吐くような叫びだった、喉の奥から後悔が固まりになって吐き出されているかのようだ。
「違う。」
故に否定する――実際、彼が島のことを話す話さないにかかわらず、その虐殺は起きたはずだ。
「俺が!不用意にしゃべったから!」
「そうでなくとも、そいつは財貨を狙って襲撃したさ。」
「どうしてそう言える!?」
「欲の深い人間の思考のパターンはいっつもそうだ、自分の利益を最大化するように動く、そこに人倫は関係がない。今のあいつを見てれば分かるだろう。」
それに、と続ける。
「おかしな点が一つある。何だってオーガの居る島にそれだけの財宝が詰めるような大型船が偶然、あんたの行き付いた港にいる?それまで何をしてたんだ。」
「それは……」
「聞いてないだろう?まあ、あんたの性格なら聞かないだろうよ。」
「……それが何だというんだ。」
憮然と目の前の亡霊が尋ねる。本当にわからないのだろう、その顔は困惑に染まっている。
「そんな大型船が、財宝を詰めるだけの余白をもって停泊してた理由は一つしか考えられん――もともと、島を襲う気だったんだよ」
「――はっ?」
「たぶん、その船自体、もとからオーガの島を襲うつもりだったんだろう。じゃなきゃ毒なんて準備してない。」
それは彼がずっと疑問に思っていたことだ。
――なぜ都合よく船があって、その船が荷物を詰める程の余裕があって、かつ毒など持っている?
「たぶんもともと、オーガの住処で毒でも撒く気だったんじゃないか?だから毒があった、その上で、宝は山分けの予定の予定だったが――タロンだっけ?そいつは宝をすべて奪って逃げた。だから、自分の国じゃなくこの国で商売を起こした。」
元の国では船員だった連中に見つかる可能性があったから。
「そう考えれば、伝手もないのによその国で商売を始めた理由が分かる。できなかったんだよ、逃げたんだ。」
まあ最も、これはほかの理由もあっただろう――足がつかない財宝の課金場所が必要だったのだ。
その当時のこの国、もしくはこのあたりの国の貿易事情はそれほど明るくはないが、記憶が正しければまだ海洋に出没する化け物の類を退治する手段は確立されていなかった。
であるなら、あまりにも遠い東の国からこの国への貿易船は決して多くなかっただろう。あるいはなかったのかもしれない。
だからこそ、この国を選んだのだ。いや、選んですらいないのかもしれない。
「魔術の道具の中に生き物の襲われなくなるものや、道に迷わなくなるものはなかったか?」
「……オーガ達が漁に出る際に使うらしい代物があったはずだ、使うと化生類が寄ってこないと――そうだ土産にもらったあれも奪われて……」
「それだろう、怪物の類に襲われないようにしてそいつは外洋に出て海を渡ってこの国に来た。」
おそらく、財宝の一部で強引に船員と舟を借り受けたのだろう。そうして、どうにか外洋に出られるだけの装備を整えた奴は即座に海に出た。
おそらく、その後に元の船が返ってきたのだ。
自分を誰も知らない国にほとんど博打のように逃げて――どうにかなった。
「おそらくあの家が貿易業に手が出せたのもそれのおかげだろう。」
外洋に自在に出ることのできる船はその当時のこの国の技術レベルなら喉から手が出るほど欲しかっただろう――どこまでも他人の力に縋った成功だ。
そうして、奴はこの国にあらわれた。
奪い去った宝と魔術の道具で生計を立てて、自分のうわさを流布した。そこにもいくらか金を使ったのだろう。
「で、奴はもう一度島に行って――今度こそ完全に『逸話』を達成した。」
「なら、やはり俺の……」
「関係ない、どっちにしても行ってた。そのための準備だ。」
「……」
否定できないのだろう、黙りこくった復讐者にテンプスは畳みかけるように口を動かす。
「あんたはこの件を自分の死で収めようとしてるが、そうなればあんたの名誉はもう一度地に落ちるぞ。」
「……!」
「たとえ、危険があると周知されている大会とはいえ、毒の使用は明らかに規約違反だ、それをやった時点であんたは『卑劣な暗殺者』でしかない。」
「……」
「その上あんたの計画ならあんたは死ぬ、そうなった周りの人間はあいつを悲劇の英雄に仕立てるぞ。そうなれば、今必死にあいつに抵抗してるあんたの同級生の女子の言い分も掻き消える――いつだって死んだ人間は美化されるもんだしな。」
「……しかし……それならどうすればいい!」
「僕に任せろ。」
「!」
復讐者が驚きに目を見開く。このようなことを言われると思っていなかったのだろう。
「僕があいつに勝てば、アイツは魔術制約に元図いて自分のすべての罪を告白するだろう。そうなれば今生のアイツの名誉は地に落ちる。」
「しかし、それではあいつの魂は――」
「そっちは僕の「共犯」がどうにかする。」
「共犯?」
「あんたに事情があるように、僕にもいろいろ事情があるんだ。」
「……しかし……勝てるのか?お前に――」
その質問はこの一件に本格的に関わってからこっち、聞かれ続けた問いだ。
「みんなそれ聞くよな……」
故に帰す答えも同じだ。
「――いいか、信じてくれとは言わない、ただ待っててくれ、何とかするから。」
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