ある過去の残響
「――で?結局あんたは誰だ。」
町の喧騒から少々離れた郊外の一角、二人の人間が向き合っていた。
片や養成校の出涸らしにして、剣術部のお尋ね者。であるテンプス・グベルマーレ、片やそれを追っていた何者か。
二人の間には何とも言えない緊迫感が漂っていた。
「あの男が嫌いな剣術部の生徒だ――おい、体ごと動かせるようにしてもらえんのか?」
「嫌いな割にずいぶんあいつのためになる動きをするな?――無理だ、逃げられると困るんだよ。」
そう言って肩をすくめる、こればっかりは譲れない。
「……別段、あの男のために動いているわけではない。あの男が――嫌いだということに嘘はない。」
「……」
そう言って顔をゆがめるその生徒を見つめる――なるほど、事実ではあるのだろう。あの心底嫌がった顔はなかなか演技ではできない。
「――ならなぜ、脅迫状なんて送る?意味が分からないんだよ。」
「こちらにもいろいろと事情がある。」
「……」
その強固な態度は明確な拒絶の意志を感じる、話すつもりがないのだろう……もしくは……
「――話せないのか。」
「……」
無言、沈黙を肯定と都合よく解釈し、彼は話し続ける。
「なら質問を変えよう――結局、あんたが脅迫状を送ったってことでいいのか?」
「……そうだな、それは認めよう。」
これは認めた、なるほど、話せない範囲なのか話したくない範囲なのか、話しても信じられない範囲なのかどれかは分からないがそのどれかが存在し、それを語るつもりがないのだろう。
「あんたは剣術部だな?」
「そうだ、一回生だよ。」
そこの部分は自分が間違っていたのか……と、テンプスは思案する、マギアがいつぞやの朝言っていたことが正しかったのだ、そこに関しては自分のあの集まりへの調査不足だったのだろう、それはあの連中の『伝統』とやらの件を見ても明らかだ――ただ、なぜ脅迫状なんてものを送るのかがわからない。
彼自身、自分が考えていたこの連中への認識がまるっきり間違っているとはどうしても思えなかった。
「何故、脅迫状だったんだ?」
「……なぜとは?」
「あんた方のやり方なら、僕を追い回して『出られなく』してから罵声を浴びせるのが常だろう?なぜわざわざ警戒させるようなことをする?」
「……」
再びの沈黙。いい言い訳が思いつかないのか。あるいは何も考えずにやったのか――
『それはないな、何か理由があるはず……』
考える。話せない事情、話したくない事情、話しても信じられない事情……それらに当てはまるあの男にまつわりそうな事実を列挙する。
『親族があの男に「くわれた」……いや、それなら僕に脅迫状を送る意味が分からない。あの男への隔意――でもわからん、そもそも話せない事情ってなんだ?話せない事情、話したくない事情、話しても信じられない事情……』
「話しても信じられない……ああ、お前も転生者か。」
――口にした瞬間瞬間、肌が泡立つのを感じた。
最後のセリフを口にした瞬間、目の前の人間が迸らせた殺気が原因だ。
こちらを睨むように見つめるその視線に、怒りのまま見せつけられる牙のような八重歯に、縄のように見える筋肉に。筋肉に浮かび上がる太い血管に。それは生物が根源的に感じる恐怖だった。
明らかに今の殺気は異常だった。あの館でやりあった魔族騎士に匹敵する殺意――明らかに一回生が身に着けるものではない。
「あたりか……」
「貴様……何者だ!なぜおれの来歴を……」
「あんたに事情があるのなら僕にだってあるんだよ。」
そう言って肩をすくめて見せる――いやはや、どうにも転生だの過去の人間だのによく合う人生だなと飽きれながら。
「おまえも転生者……か?」
「みたいなもん……いや、ちょっと違うが、その辺の事情に多少精通してる人間だ。あんたらみたいな人間がいるのは知ってる。」
「では、ジャックのこともか?」
「あいつも転生者らしいってことは知ってるよ。」
「そうか……」
そう言って、彼は顔を伏せた。逡巡なのかあるいは諦観なのかどれともつかない色の表情が顔を覆っている。
「もう一回聞くが……あんたは何者だ?」
「……」
それでも口を開くつもりはないのだろうだんまりを決める相手にテンプスはもう一歩踏み込んでみた。
「――オーガ。か?」
「なに?」
「あんたはさっきあいつが転生者であることを気にした。ってことはあんたはあいつが転生者であることを知ってて、なおかつ、それに対して隔意があるってことだ。ってことはあいつの『転生前からの関係があることになる。』」
言葉を切る、相手の反応を見ればそれが当たり歌外れかはわかる――かすってはいそうだった。
「転生に関してそれほど詳しいわけじゃないが、アイツは以前こう呼ばれてた――『伝説の剣士の再来』今でもたまに呼ばれてるのか?それは知らんがここまで条件がそろえばなんとなく、アイツの転生前は分かる。」
座り込んだ体が震えている、それが当てられたことへの物か間違えていることに関してかはわからなかったが――少なくとも何かしらの琴線には触れていた。
「アイツが自分の家の偉人の魂を継いでるのなら、あんたが報復する理由は一つしかない、仲間の報復だ。」
「――」
「伝説の剣士に斬られたオーガ。それがあんたの正体と考えるのが最も納得がいくが――」
「――違う!俺は……俺は!」
「――らしいな。じゃああんたは誰なんだよ。」
そう言って見つめる、彼の中で煮える怒りは彼を焼きつくす程強大だ。その怒りが彼の口を滑らせると信じての発言だった。
「――いいだろう、教えてやる――俺は「タロウキビノ」、あの男にすべてを奪われた者、お前らの言う『伝説の剣士』だ!」
「――あんたが?じゃああんたがあいつの先祖か?」
「違う!あいつが――あの男が俺から名を奪い、自分の物としたのだ!あまつ、奴は俺の名を使い、他人に危害を加えている!許すことはできん!」
いよいよ話が取っ散らかってきたな……と首をひねる――正直よくわかっていない。
「……どういうことだ?」
「……ここまで知られてしまえばもはや隠す意味もあるまい。あれは――」
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